上皮成長因子受容体遺伝子変異陽性の肺がん治療に期待の効果! 分子標的薬の適応拡大で肺がん治療はさらに一歩前進する

監修●岸 一馬 虎の門病院呼吸器センター内科・臨床腫瘍科部長
取材・文●柄川昭彦
発行:2013年11月
更新:2019年9月

最も現れやすい副作用は皮膚や爪の障害

血中濃度が高くなると、効果だけでなく、副作用も高まりそうに思える。その点についてはどうなのだろうか。タルセバとイレッサでは、皮膚障害、爪囲炎、肝機能障害、間質性肺疾患などの副作用が現れる(図7)。

図7 タルセバとイレッサの主な副作用

(JO22903:Goto K, et al. Lung Cancer 2013, WJ3405:Mitsudomi T, et al.
Lancet Oncol 2010, NEJ002:Maemondo M, et al. N Eng J Med 2010)

「EGFR -TKIの副作用で、問題になるのは皮膚障害です。タルセバやイレッサを使用した患者さんの7~8割に現れます。多くは比較的軽い症状(グレード1、2)ですが、中には重い症状(グレード3、4)になる人がいま
す。この重症例は、タルセバを使用したほうが少し多くなります。また、爪囲炎の発生率も、タルセバのほうが高くなっています」

ところが、肝機能障害に関しては、逆の傾向が現れている。イレッサを使用した場合のほうが起こりやすく、重症例も多いのである。

「肝機能障害といっても、自覚症状が現れるようなものではなく、血液検査で肝機能の異常を示す値を指摘されることが多いのです。イレッサを使用した場合に起こりやすいのですが、イレッサからタルセバに変えることで、よくなる場合もあります」

図8 間質性肺疾患の初期症状

間質性肺疾患が現れるのは4~5%で、タルセバでもイレッサでも差はない。頻度はさほど高くないが、中には重症化し、生命にかかわる場合もあるので注意が必要だ。

「服用開始から1カ月以内に起こることが多く、初期症状は、咳、呼吸困難、発熱です。風邪と間違われることもあるので、これらの症状が現れた場合には、医師に連絡して指示を仰ぐ必要があります。症状が出ているにもかかわらず、薬の服用を続けていると、症状が日に日に悪化して、危険な状態になってしまいます」

命にかかわる副作用だけに、慎重に対処する必要がある(図8)。

皮膚障害が現れた人は治療薬がよく効く

タルセバやイレッサで現れる副作用の皮膚障害には、ざ瘡様皮疹(にきび様皮疹)、爪囲炎、乾皮症(皮膚乾燥)がある。患者さんを苦しめる症状であることは確かだが、これらの症状は、薬の効果を予測する因子ともなっている。皮膚障害が強く現れている人のほうが、そうでない人より、治療効果が現れやすいことが明らかになっているのだ(図9)。

図9 皮膚障害とがんが悪化するまでの期間〔JO22907試験,無増悪生存率〕

(Goto K, et al.: Lung Cancer 2013)

「タルセバで治療した場合、皮膚障害が出なかった人(グレード0)、およびグレード1だった人を併せた無増悪生存期間の中央値は6・9カ月でしたが、グレード2以上の皮膚障害が現れた人の無増悪生存期間中央値は12・5~15・2カ月でした。このように、皮膚障害が出るかどうかは、治療効果の予測にもなります」

皮膚障害が現れるのは、EGFR-TKIが、皮膚の上皮細胞の上皮成長因子受容体に作用するためだ。皮膚の細胞の上皮成長因子受容体に作用するのなら、肺がん細胞の上皮成長因子受容体にもよく作用すると考えられる。

「副作用の皮膚障害が出たら、薬をやめようと考えるのではなく、皮膚障害の症状をうまくコントロールしながら、できるだけ薬を使い続けることを考えます。EGFR-TKIによる治療では、それが非常に大切です」

皮膚障害に対する治療で中心的な役割を果たすのは、ステロイドの外用薬だという。症状がひどくなってからではなく、症状が現れる初期から、きちんとケアしていくことが大切である。

「皮膚の治療は、肺がんの治療を専門とする医師には難しい場合があります。皮膚科と連携して副作用の皮膚障害をコントロールすることができれば、それが理想です」

また、皮膚障害といっても、ざ瘡様皮疹、爪囲炎、乾皮症では、それぞれ現れる時期が異なっている(図10)。

図10 皮膚障害が出やすい時期 (皮膚障害の治療を行ったうえでの経過)

(Potthoff K et al.: Ann Oncol 2010より改変)

「ざ瘡様皮疹は、投与を開始して約1週間目から現れてくる最初の皮膚障害です。にきびのような皮疹が主に顔面に出るため、特に女性の患者さんにとってはつらいものです。しかし、これがいつまでも続くわけではありません。約1カ月後にはピークに達し、そこからは徐々によくなっていきます。いつまで続くかわからないと不安が増しますが、多くの方に出現する副作用で、いずれはよくなるので、心配しすぎないでください」

皮膚障害は、どのような症状がいつ頃現れるのかがわかっていれば、不安がかなり軽減するはずである。タルセバを投与する前から、患者さんに皮膚障害とその出現する時期を知らせておくことが大切である。

減量しやすいのもタルセバの特徴

タルセバとイレッサを比較した場合、タルセバには、150㎎、100㎎、25㎎という3種類の剤型があるが、イレッサには250㎎の1剤型しかないという違いがある。

1日の用量は、タルセバが150㎎、イレッサが250㎎なので、1錠ずつ服用すればいい。問題は、何らかの副作用などにより、薬を減量する必要が生じた場合である。

「タルセバの場合、100㎎や50㎎に減量できますが、イレッサではそれができません。減量することを考えると、タルセバのほうが使いやすいですね。イレッサで減量する場合、1日おきに服用するという方法をとります」

今年から新たに加わった進行再発肺がんに対するタルセバによる1次治療。患者さんにとって、さまざまなメリットがある治療といえそうである。

◎サイト情報 「タルセバの治療を受けられる患者さんへ」
家庭で行えるスキンケアについて、わかりやすく解説する動画をインターネットで見ることができます。
※GoogleやYahooから「タルセバ」で検索してください。

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