イレッサは、効果と副作用の面から見ると長期に渡って治療継続が期待できる EGFR遺伝子変異陽性肺がんはまず分子標的薬で治療する

監修:前門戸 任 宮城県立がんセンター呼吸器内科診療科長
取材・文:柄川昭彦
発行:2012年12月
更新:2013年5月

抗がん薬への替え時が重要

イレッサがよく効いている患者さんでも、その効果がいつまでも続くわけではない。個人差はあるが、効果が持続するのは平均すると約1年。いずれ耐性ができ、イレッサの効果がなくなってくる。その場合、可能ならば、抗がん療法に切り替えることになる。

その切り替えどきについて、考えなければならないポイントがいくつかある。その1つが、脳転移が発見された場合だ。通常、転移が見つかった場合、薬が効いていないと判断されるが、脳転移だけであれば、まだ切り替えは考えず、イレッサによる治療を継続すべきだという。

「脳には、毒物などが入り込まないようにする機能が備わっています。脳を守るための機能なのですが、薬も脳には入りにくくなるため、脳にだけに転移が起こってしまうことがあるのです。このような場合、イレッサは全身的には効いているので、投与を続ける価値はあります。イレッサの服用は続け、脳の転移巣に対しては、全脳照射(脳全体に放射線を照射)やガンマナイフなどの放射線治療で対処します」

一度小さくなったがんが大きくなり始めたときも、がんの大きさだけでは判断できないという。EGFR遺伝子変異陽性の患者さんにイレッサを使うと、がんが極端に小さくなることがある。

抗がん療法では、小さくなったがんが2割大きくなると、「増悪」と判断され、薬を変えることになる。しかし、イレッサの治療では、それが適切でない場合もある。

「10㎝のがんが、イレッサを使うと2㎝くらいに縮小することはあります。この2㎝のがんが、2.5㎝になれば通常増悪と判定されますが、元が10㎝だったことを考えれば、これだけで、薬が効かなくなっているとは限りません。がんの大きさがどう変化したかや、腫瘍マーカーなども考慮し、総合的に判断することが大切です」

イレッサが効いているのであれば、それをできるだけ長く使うことが望ましいのだ。

上手に使えば、使える期間を長く伸ばせる

いよいよイレッサから抗がん薬に切り替える場合は、なるべく間隔をあけないようにしたほうがいい。

「徐々にがんが大きくなり、腫瘍マーカーが上がり始めていたとしても、イレッサがそれなりの効力を発揮している可能性があるからです。その場合、イレッサを中止したとたん、一気に悪化するようなことが起きます。抗がん療法に切り替えるときは、速やかに次の治療を開始するのが基本です」

イレッサは、長く使用するには適した薬だと前門���さんはいう。EGFR遺伝子変異陽性の患者さんであれば、この薬を上手に使うことが生活の質を高く保ち、その期間を延ばすことにつながるのである。

タルセバの長期使用には十分な副作用管理が必要

肺がんの治療に使用できるEGFR-TKIには、イレッサとタルセバがあることは前に述べた。よく似た作用を持つ薬だが、タルセバはイレッサとは異なる一面を持っている。

「タルセバは、用量の面から考えると、イレッサの3倍量を1回で使用するような薬なのです。そのため、副作用の種類はイレッサとよく似ているのですが、その程度はかなり強くなっています」

皮疹は全身に出て、爪囲炎も重症化しやすい傾向がある。

さらに体重減少があり、食べられている人でも、体重が減ってしまうことがある。持続する疲労感に襲われることもある。

「こうした副作用のため、タルセバによる治療を継続するのは、イレッサの場合よりも難しくなります。タルセバを長期間使用するためには、医療者による適切な副作用管理が必要になります」

いずれにしろ、肺がん治療は、遺伝子解析の進展により確実に新しい時代に突入したといえるだろう。


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