第1号のクリゾチニブが米国で承認。耐性ができても、効く次世代の薬も続々開発中 最新報告!ALK阻害剤の開発はここまで進んでいる
効果が期待できる患者さんの条件
韓国のソウル大学病院ではクリゾチニブの臨床試験が行われ、大阪大学病院とその関連病院の肺がん患者さんもその試験に参加している。患者さんに付き添ってソウルへ渡った大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科学助教の木島貴志さんはこう話す。
「効果が期待できる患者さんを見極めてクリゾチニブを投与すると、おしなべて良く効きますし、副作用も許容範囲という印 象です」
効果が期待できる患者さんというのは、「EML4-ALK陽性」である腺がん(非小細胞がんの1種)の患者さん。まずは「EGFR遺伝子変異陰性(*)」で、さらに条件を満たすかどうかは精度の高い遺伝子検査( 補助診断(*)含む)が必要だ。確実に条件に当てはまる患者さんが臨床試験の対象になっている。
では、クリゾチニブの臨床試験に参加し、木島さんがその結果を報告した3人の患者さんを紹介しよう。3人ともEML4-ALK陽性、EGFR遺伝子変異陰性の患者さんだ。
Aさん(30歳男性、喫煙歴なし)

2008年10月に肺腺がん、病期は3B期と判明。化学療法+放射線治療という一般的な治療を受けたが、ほとんど効果は得られず、同年12月、大阪大学病院に移り、追加の化学療法を行う。遺伝子検査の結果を受けて、09年4月からソウルでの臨床試験に参加した。
クリゾチニブの投与開始から2週間前後で効果が現れ始め、Aさんは「血痰が出なくなった」「咳が止まった」と効果を実感。CT画像では腫瘍縮小が確認された。Aさんの場合、最初の4週間に軽い吐き気と便がゆるくなる副作用があった。これはよくある一過性の副作用で、薬に慣れたら治まるといい、Aさんの症状は吐き気止めの薬を必要としない程度だった。
投与開始後2年が過ぎよ���としたころ、脳への転移が見つかったが、放射線治療で叩き、事なきを得ている。また、耐性によって効果が落ちることもなく、現在も治療続行中だ。
「クリゾチニブのことを聞いたとき、『これはいけるかも』と直感し、木島先生の説明で効果を確信しました。服用後2週間で体調がよくなり、犬の散歩や買い物にも行けるようになりました。前の治療では重い副作用に苦しめられましたが、クリゾチニブは副作用が軽く、助かっています。苦味がありますが、経口剤なので使いやすい。抗がん剤の理想形だと思います」
Aさんはこう語ってくれた。
*EGFR遺伝子変異陰性=EGFR(上皮成長因子受容体)に関係するEGFR遺伝子に変異が見られないこと
*補助診断=TTF-1免疫染色(ALK肺がんではほぼ全例陽性)、EGFR遺伝子変異(ALK肺がんではほぼ全例陰性)、K-RAS遺伝子変異(ALK肺がんではほぼ全例陰性、ただし保険適応外)をALK検査前に行えば、症例を絞り込める
骨転移の痛みが消失した
Bさん(29歳男性、ヘビースモーカー)

09年5月、肺がんの多発転移が認められ、診断は肺腺がん、病期4期。大阪大学病院で放射線治療が始まる。化学療法を行いながら、脳転移には放射線治療(サイバーナイフ)を実施。骨転移による痛みがあり、医療用麻薬を使用していた。遺伝子検査の結果、臨床試験の参加が可能となり、全身状態は良好とはいえなかったが、09年9月にソウルへ渡った。しかし到着後、全身状態悪化のために入院した。
それでもクリゾチニブを服用し、2週間後には腫瘍の大きさが半分以下に、2カ月には消失までした。劇的に効いた症例だ。また、Bさんは背骨や骨盤に広がった骨転移のため、痛くてまっすぐ立てなかったのが、8カ月後には歩けるようになり、医療用麻薬が不要になった。
ただし、Bさんはその8カ月後、肝転移が起こったため、臨床試験から外れた。
Cさん(31歳男性、軽い喫煙歴あり)

09年8月、病期3Bの肺腺がんと診断され、まず化学療法と放射線治療を実施。10月に手術のために開胸すると、胸膜全体にがんが散らばっていたため、手術を断念。12月から臨床試験に参加。クリゾチニブ服用を開始後、下痢やめまい、視覚障害などの副作用は出たものの、日常生活に困るほどではない。がんは明らかに小さくなり、再発や頭部への転移もなかった。
「抗がん剤も放射線も効かなかったので、内心期待していなかったのですが、クリゾチニブを使い出してから生活は劇的に改善しました。職場にも復帰し、休日には趣味の登山にも行っています。もう1~2年早く発症していたら、こんなに元気でいられなかったでしょう。最新医学の恩恵を受けられ、奇跡的な幸運に感謝しています」
Cさんの言葉は喜びにあふれていた。
クリゾチニブの早急承認を望む声
前出のAさんもCさんも、まず、一刻も早くクリゾチニブが承認され、多くの患者さんが使えるようになること、そして耐性を克服した第2、第3世代のALK阻害剤の開発を望んでいると異口同音にいう。
耐性ができるまでの期間は個人差があり、どのような人ができやすいのかもまだわかっていない。
「希望したいのは、耐性ができたときに使える次の薬が出てくること。Bさんのようによく効いていたのに転移したり、副作用で投薬を断念せざるを得なくなったりしたとき、ほかのALK阻害剤の臨床試験にも参加できるようにしたいですね」と木島さん。
また、木島さんは「とくに中枢神経系への移行がよく、脳や髄膜(*)の転移への効果が高くなれば」と、さらなる研究の進展に期待を寄せている。
*髄膜=脳や脊髄を包んでいる膜
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