手術の効果は不確かな部分も。化学放射線療法に期待 非小細胞肺がん3期の治療法はどれがいいか?
3期の標準治療は化学放射線療法
シスプラチン + ドセタキセル シスプラチン + ビノレルビン カルボプラチン + パクリタキセル シスプラチン + TS-1(臨床試験中) シスプラチン + ペメトレキセレド(臨床試験中) 禁 忌 |
「現在、3期の非小細胞肺がんでもっとも有効とされるのは、放射線療法と抗がん剤を使った化学療法の同時併用療法です」と久保田さんは話します。
3期の患者さんを対象に、シスプラチンを含む化学療法と放射線療法を同時併用するのと、化学療法を行ったあとに放射線を行う逐次療法とで比較したところ、同時に行ったほうが有意に優れていることが証明されました。
「なぜ同時に行うといいかというと、抗がん剤には放射線の効果を増強する働きがあるからです。とくにシスプラチンは放射線との相性がよいことがわかっています」と久保田さん。
その後、アリムタ(*)など新しい薬が出てきたため、現在、シスプラチンとアリムタの組み合わせで放射線療法と同時併用した場合、有効かどうかの試験が行われているところです。また、TS-1(*)も同時併用に用いるとかなり効果が高いという報告があり、こちらも期待が持てそうです。
*アリムタ=一般名ペメトレキセド
*TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム
放射線との併用が難しいケースもある
(切除不能3期非小細胞肺がん)

さまざまな臨床結果により、今後は3期の治療が手術を最小限にした化学放射線療法へとシフトしていくと考えていいのでしょうか。
「そう考えていいでしょう。ただし、明確なエビデンス(科学的根拠)はないものの、手術は原発巣への治療効果は明らかに高いと考えられるので、現状では、患者さんに体力があって手術によるリスクが低い場合には、手術も検討されます。3期の患者さんでリンパ節転移が1個程度であれば、手術を行うこともありますが、化学療法と放射線療法の同時併用療法のほうが多いと思います。
また、手術を行う場合でも、化学療法を術前に行うのと術後に行うのでは、効果にほとんど差がないとされています。ですから、手術によってリンパ節転移の様相が明らかになったら、術後に化学療法を行うというのが一般的な考え方であり、切除可能な方に術前化学療法を行うと、手術による危険性が増すこともあるので、勧められません。3期の場合は、化学療法と局所療法(手術と放射線療法)がともに必要です。放射線療法が難しいケースについて、手術を検討するという方向になるのではないかと思います」
では、放射線療法が難しいケースというのはどのようなものなのでしょうか。
「たとえば、腫瘍の場所やリンパ節転移の状態によって放射線をあてる範囲が広いと肺の障害が出やすいため、難しくなります。そのほか、もともと患者さんがもつ肺機能や疾患も関係してきます。例えば、間質性肺炎などの既往があると、放射線療法で増悪する可能性が高くなります。また、塵肺などの肺疾患がある人などは、放射線療法も手術も難しくなりそうですから、詳しい検討が必要になります」
合併症の危険や生活への影響を考えた選択を
ところで、治療の選択にあたって患者さんに考えてほしいこととして、久保田さんは次のように話しています。
「治療の目的をどこに置くのか、5年後、元気でいられるということをどの程度期待するかを考えてほしいですね。その際、放射線や手術の場合は、肺の状態を見極めたうえで行われるべきなので、治療に耐えられるか、合併症の危険がどの程度あるかの判断が必要になってきます。その人その人にとっての効果と危険を勘案して判断してほしいと思います」
考慮したいのは、たとえば化学療法と放射線療法を同時に行うと、どうしても副作用が強く出るということ。それに耐えられるかどうかについて、身体面と生活面から検討することも必要になるといいます。
「化学放射線療法の適応は、全身状態が比較的よい人(軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業ができる人)とされます。ですから、日中の半分を寝ている人には、負担の強すぎる治療としてなかなか勧められません。また、高齢の方などの場合は、血液毒性などの副作用が強く出ることを避けて、放射線療法単独という選択をすることも考えられます。年齢などから副作用が出て日常生活が送れないと考えれば、何か症状が出てから治療を検討するという人もいるでしょう。
3期の患者さんにとっては、根治への希望をもちつつ、残された時間のなかでの人生プランを合わせて考えていくことになるでしょう」
化学放射線療法でがんが縮小したケースも

地方在住の50代男性の例です。3期の非小細胞肺がんでかなり大きなリンパ節転移があり、診断された病院では治療法はないといわれ、藁にもすがる思いで久保田さんのところにやってきました。久保田さんの診察により、シスプラチン+ ナベルビン(*)の化学療法と放射線療法の同時併用療法を行ったところ、効果が出てがんが縮小。とても元気になって4年半を過ごしているということです。
以前だったら治す治療というと、手術に限られていた肺がん治療ですが、化学放射線療法によって治る人も出てきています。3期の場合は転移している状態なので、全身的な治療と局所の治療の両方が必要であり簡単にはいきませんが、患者さんには大いに希望をもってほしいと思います。
*ナベルビン=一般名ビノレルビン
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