使える武器は増えている! より効果的な薬剤選択を より戦略的に、より効果的に。個別化治療が進む肺がんの化学療法
非扁平上皮がんの場合アバスチンの併用も可
シスプラチン+ペメトレキセド |
カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ* |
シスプラチン+ゲムシタビン+ベバシズマブ* |
[非扁平上皮がんに対するペメトレキセドの効果]
[非扁平上皮がんに対するベバシズマブの効果](生存期間)
非扁平上皮がんの場合、アバスチン(*)を併用するという選択肢もある。アバスチンはVEGF(血管内皮細胞成長因子)と呼ばれる物質を標的とした分子標的薬で、血管新生を阻害する作用を持つ。がんは増殖するために新たな血管を作り、必要な栄養を取り込む。その血管が伸びるのを阻害し、がんの増殖を抑えるのである。血痰がない、脳転移がない、70歳未満、PSが0~1の全身状態が良い、といった条件に当てはまる非扁平上皮がんの患者さんが治療対象になる。
これまでに臨床試験が行われ、良好な結果が出ている組み合わせで併用するのが基本だ。〈パラプラチン+タキソール+アバスチン〉と〈ブリプラチン+ジェムザール+アバスチン〉の2つである。
「非扁平上皮がんの場合、プラチナ製剤とアリムタの併用という選択肢もありますが、プラチナ製剤とアリムタとアバスチンを併用した臨床試験は行われていません。アバスチンを使うのであれば、アリムタを含まない併用療法になります」
イレッサは、EGFR遺伝子変異の有無により、効きやすいタイプかどうかを見分けられる。このような目印をバイオマーカーというが、アバスチンには適当なバイオマーカーがない。そのため、アバスチンの場合、実際に使ってみないと、効くかどうかわからないという。
*アバスチン=一般名ベバシズマブ
2次治療で行われるのは抗がん剤の単���治療
1次治療が効かなくなり、進行あるいは再発してしまった場合、2次以降の治療が行われる。
EGFR遺伝子変異陽性で全身状態の良いPS0~2の場合には、前述したように、1次治療と2次治療で、イレッサによる治療と抗がん剤併用療法が行われる。どちらが先でもよい。
またイレッサと同じタイプの分子標的薬に、タルセバ(*)という薬がある。この薬は、日本では2次治療以降で使用が認められており、1次治療で抗がん剤治療を行ったものの、効かなかった場合の治療として、タルセバを使うことも可能だ。
そして、2次治療が効かなくなった場合、PS0~2であれば、3次治療として、①タキソテールの単剤療法、②アリムタの単剤療法(非扁平上皮がんの場合)、といった選択肢がある。なお、PSが3~4の場合には緩和治療となる。
EGFR遺伝子変異陰性で、1次治療として抗がん剤併用療法を行った場合、PSが0~2であれば、2次治療として、①タキソテールの単剤療法、②アリムタの単剤療法(非扁平上皮 がんの場合)、③タルセバの単剤療法、といった選択肢がある。「タルセバはイレッサと同じタイプの薬ですが、イレッサと異なり、EGFR遺伝子変異陰性でも効くことがわかっています」
なお、PSが3~4の全身状態が悪い場合には緩和治療が行われる。
*タルセバ=一般名エルロチニブ
今後は個別化治療がさらに進む
肺がんの新しい分子標的薬として、クリゾチニブ(一般名)が来年にも実用化されそうだ。この薬が使えるのは、EML4-ALKという遺伝子を持つ肺がんで、腺がんの患者さんの約4パーセント。
この薬によって、延命やQOL(生活の質)の改善に劇的な効果が期待できるという(イレッサがEGFR遺伝子変異陽性の肺がん患者さんに効果を示すのと同様)。
「他にもクリゾチニブと同じタイプの分子標的薬が複数開発され、臨床試験が進められています。また、タルセバの1次治療での効果を調べる臨床試験も進行中です。今後、分子標的薬と抗がん剤を併用したり、分子標的薬同士を併用したりする治療が実用化する可能性もあります。肺がんと闘う武器が増えることになるので、患者さんは自分のニーズに合わせ、治療法を選択することが大事になります」
そのために必要なのが、患者と医療者のコミュニケーションだという。治療の選択肢が増えるほど、コミュニケーションが重要になるのである。
(構成/柄川昭彦)
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