腫瘍縮小効果が見られる患者さんも! 注目される新しい治療戦略 進行非小細胞肺がんにおける維持療法の効果
維持療法を行う上での条件
青江さんは維持療法を行う条件として、①がんが縮小する効果(完全寛解/部分寛解)、②がんが大きくならず安定している効果、③がんが増悪しないこと、④何らかの臨床的メリットが認められた──を挙げています。ただし、「がんが縮小しなければ維持療法を行えないというのは厳しい。患者さんが続けてもよいと思えることが大切」と付け加えています。
一方、維持療法を中止する条件としては、①病変の明らかな増大、②病状の増悪、③耐えることが困難な合併症の出現、④患者が止めたいと思ったときを 挙げています。
アリムタによる維持療法を受けた患者さん
症例 維持療法移行後、症状が安定した症例
(66歳女性、腺がん〔EGFR遺伝子変異あり〕、ステージ4)
抗がん剤による導入療法で腫瘍の大きさはそのままで安定、維持療法に移行後も腫瘍の大きさはそのままで安定しており、普段通りの生活を送っている(図3)。

肺がんにおけるアリムタ維持療法の今後
進行非小細胞肺がんに対するアリムタ維持療法の今後の方向性について、青江さんは「無増悪生存期間の有意な改善効果の認められたパラマウント試験での全生存期間の結果に注目しています。もう1つは、現在、実施されている、新しく非小細胞肺がんの追加適応となった、分子標的薬アバスチン(*)との併用に関する試験結果です。結果次第で、導入療法と維持療法における薬剤選択に大きな変化が生じると考えています」と述べています。
*アバスチン=���般名ベバシズマブ
患者さん肺がん治療体験記
山口市在住の鈴木裕子さん(匿名、70歳)は、昨年(2010年)7月に進行非小細胞肺がん(多発肺転移)と診断された。呼吸器の専門病院で受診したところ、胸部X線検査やCT検査で「肺がんの疑いあり」ということで、医師から山口宇部医療センターを紹介された。看護師さんからは早めに行くことを勧められたという。
健康体を過信しすぎ
現在、ご主人と2人暮らしの鈴木さんは、「今まで健康体で山登りやガーデニングをやっていたので、多少疲れていてもすぐに回復する体になっていました。ただ、あまり風邪などは引いたことはないのに風邪を引き、咳がいつまでも止まらないために友人に話したところ、病院での診察を勧められた」という。当時、鈴木さん自身はあまり深刻に受け止めてはおらず、「病気らしい病気はしたことがなく、過信しすぎました」と振り返る。
山口宇部医療センターでは3日間ほど入院して検査を受け、9月からアリムタ+カルボプラチン併用療法を4コース受けた。治療の結果、腫瘍の大きさは大きくはならずそのままの状態で、効果はSD(不変)。その後、退院し、「全身状態も保たれており、普段の生活を続けながら外来治療を行うことができる」との主治医の判断で、通院の形でアリムタ単剤の維持療法を受けることになった。1クール3週間(21日)で、1時間ほどで終了する。諸検査で肺がんの病態は安定しており、現在も維持療法を継続しており、これまでに13クール実施した。
維持療法による副作用もなく陶芸にいそしむ
併用療法開始後3~4日間は、体がだるい(倦怠感)、便秘などの症状があったが、その後は消失。維持療法では多少のかゆみ程度は感じたことがある。副作用に備えて帽子などを用意していたが、脱毛などは今のところみられないという。
鈴木さんは「以前と比べて疲れやすくなっており、無理はしないようにしています。当初入院して自宅に戻ったときには、体力は非常に落ちていました。しばらく自宅でゆっくりと体を動かしていると、ほぼ元通りに回復しました。家で体を動かしていないとだめですね。今は山へは行っていませんが、陶芸に夢中になっています」
主治医のひと言で踏ん切りがつく

鈴木さんは診断当時を振り返り、主治医から自分の症状について教えてもらったときに、「がんばって治しますから、よろしくお願いします」と言ったところ、主治医は「いえ、治りません」とはっきり言われました。「ただ、寿命を延ばす程度です」と。そう言われて、かえって踏ん切りがつきました。あのひと言は言ってもらってよかったです。よくならないのであれば、それなりの人生を送っていけばよいと思えるようになりました。
今回の経験を踏まえ、鈴木さんは健康診断を真面目に行うことが大切だという。ただし、鈴木さんによると「最近は検査が簡易となり胸部X線検査は3年ぐらい行っていなかった」という。
医療費は、現在、3週間に1回投与で、1割負担で月に4万7000円ぐらい要するが、高額療養費の適応となり1カ月で1万2000円の負担で済んでいる。
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