固形がんに「劇的に効く薬」が現れた! 新しい肺がん分子標的薬の波紋 がん医療の世界に「奇跡」が起こった
インタビュー 永尾花さん(仮名・56歳)
以前受けた抗がん剤とは天と地ほど違うくらい楽な治療です

現在、ALK阻害剤クリゾチニブの臨床試験に参加している患者さんにお話を聞くことができた。永尾さんはご主人(61歳)と息子さん(26歳)の3人暮らし。病気以来「体重が戻らない」とのことだったが、顔色がよく動作もキビキビとして、とても大病と診断された患者さんには見えなかった。
――最初に診断されたときの状態を教えてください。
「07年に海外旅行から帰ったとき、咳が気になったのに、そのまま放置してしまいました。1年後、背中に違和感を感じ、近所の病院を受診したら、肺がんの疑いありといわれました。ここから紹介された病院で非小細胞肺がん(腺がん)の診断を受けましたが、『手術はできません、治療は抗がん剤のみです』と告げられ、頭が真っ白になりました。
結局、08年10月にセカンドオピニオンを受けに行った千葉県がんセンターで治療を受けましたが、頭蓋骨、大腿骨、右肋骨の後ろ側に転移があり、頭蓋骨が危険な状態だったため、まず手術で人工骨にしました。その後、放射線治療を受けて、11月~今年の6月まで、抗がん剤治療を受けました」
――抗がん剤治療はどんな薬で行いましたか?
「最初、ジェムザールと骨転移に対してはゾメタをやりましたが、血小板の減少がひどくて3クール後に中止になりました。その次がタキソテール(一般名ドセタキセル)とゾメタで、7クール実施しました。でも、効果がないうえに、治療がとてもつらかった。身の置きどころがない脱力感が3日も続きます。7クール目が終わったとき、中断を申し入れました」
――ALK阻害剤の臨床試験に参加されたのは、そのあとですね。
「09年8月ごろ、脳転移(3カ所)が大きくなっていることがわかり、ガンマナイフで治療しました。その後、臨床試験のことを木村先生に教えていただきました。気管支鏡検査のときにとった組織が保存してあったので、遺伝子診断もスムーズで、すぐに陽性との診断がつき、11月に韓国に出発しました」
――臨床試験のスケジュールを教えてください。
「最初は2週間滞在しました。1日目は薬を飲んだあと、1時間毎に血液検査を受けますが、2日目から10日間は、1日1回、採血・採尿のため通院するだけ。帰国2日前に再び1時間毎の検査を受け、翌日28日分の薬をもらって帰国しました」
――副作用などはありましたか。
「最初、吐き気がありましたが、吐き気止めでおさまりました。あとは軽い下痢くらいです。ですから、滞在中は時間がありましたね」
――効果はいかがですか?
「私はもともと症状も痛みもそれほどなく、臨床試験を受ける病院にも自分で歩いて行きました。ですから、実感がなかったのですが、12月に夫がふと『あれ、かあさん、坂道でも息が苦しいって言わないね』と。最近ですが、『右肺のがんが67パーセントなくなった』と聞きました。また、画像で見ると、大腿骨の転移は見えなくなり、肋骨後ろ側の転移もずいぶん薄くなっています」
――その後はどのくらいの頻度で韓国に行っていますか。
「最初の3回は2週間毎に行き、そのあとは4週間に1度になりました。1回の滞在は3日間です。CTと骨シンチグラフィの検査を受け、翌日バン先生に診察を受けて薬をもらいます。3日目のお昼にチェックアウトし、買い物などしたあと、帰国します。今では旅行ガイドもできるくらい。もったいないですね(笑)」
――まもなく1年になりますが、体調はいかがですか?
「ずっと順調にきましたが、最近少し効果が落ちているように思います。腫瘍マーカーも最初のころは急カーブで下がりましたが、このごろなだらかになった気がします。少し不安です」
――ALK阻害剤については、どんな感想ですか。
「タキソテールの治療のときの3日間の脱力感が、とにかくつらかったので、本当に天と地ほど違うくらい楽です。心配なのは、治験がいつまで続くかわからないこと。薬が承認になったら薬価は絶対に高いはずなのでそれが不安です。今は月に1度か2度、飛行機代とホテル代を準備すればいいのですが……」
――ALK阻害剤を飲む意義は、いかがですか。
「意義はとても大きいと思います。私もあの脱力感、絶望感から開放されたため、少し覚悟をしながらこの1年間を過ごせました。あのままだったら自暴自棄になり、薬が効かなくなったときに備えたり、お金のことを考えたりできなかった。いい意味で準備ができたと思っています」
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