ASCO 2010 肺がん領域で報告された3大エビデンス 高齢者治療、ALK阻害剤、サプリメントの発がん予防に世界的注目!
ほとんどの患者で腫瘍縮小
EML4-ALK融合遺伝子を有する非小細胞肺がんは、非小細胞肺がん全体の約5パーセント。全世界で毎年約4万例が新たに診断される。
バンさんによれば、若年、非喫煙者、腺がんが多いという特徴がある。
本試験の対象82例の平均年齢は51(25~78)歳。腺がんが96パーセントを占めていた。
2つ以上の化学療法治療歴にもかかわらず、クリゾチニブ(250ミリグラム、1日2回)投与後1~2週間で、大部分の患者に腫瘍縮小が認められた(図3)。
(EML4-ALK融合遺伝子を有する非小細胞肺がん)]

解析を行った時点で77パーセントが治療を継続しており、治療期間中央値は5.7カ月で、16例が9カ月以上、3例は1年以上治療を継続していた。有害事象による中断は1例のみと、忍容性(*)も良好であった。
もっとも多い有害事象は吐き気、下痢、嘔吐で、多くが1回目の治療で発現するが、グレード1と軽症だった(図4)。また視覚障害が起こる場合もあるが軽症で、治療継続とともに消失する。
*忍容性=副作用に耐えうる程度
有害事象 | グレード1 n(%) | グレード2 n(%) | グレード3 n(%) | グレード4 n(%) | 合計 n(%) |
---|---|---|---|---|---|
吐き気 | 43(52) | 1(1) | 0 | 0 | 44(54) |
下痢 | 38(46) | 1(1) | 0 | 0 | 39(48) |
嘔吐 | 35(43) | 1(1) | 0 | 0 | 36(44) |
視覚障害 | 34(42) | 0 | 0 | 0 | 34(42) |
便秘 | 18(22) | 2(2) | 0 | 0 | 20(24) |
末梢浮腫 | 13(16) | 0 | 0 | 0 | 13(16) |
目まい | 12(15) | 0 | 0 | 0 | 12(15) |
食欲減退 | 11(13) | 0 | 0 | 0 | 11(13) |
倦怠感 | 8(10) | 0 | 0 | 0 | 8(10) |
がんの生物学的特性を知ることが重要
クリスさんは、この研究について、「がんの生物学的特性を理解することの重要性を示すものだ」と述べている。
ある特性が病気の原因であることが突き止められたことで、これを標的とする化合物(ALK阻害剤クリゾチニブ)が、治療薬として評価されることになった。この場合の特性とは、EML4-ALK融合遺伝子を持っていて、異常に活性化されたALKタンパクを産生するというものだ。
腫瘍の特性は、薬剤をどの患者に投与すべきかを見極めるための“生物学的マーカー”でもある。
エルドマンさんが指摘したように、このマーカーによって該当する特徴を持つ患者のみを集めた試験で、クリゾチニブの劇的な効果が証明された。
治療薬として世に出るときにも、適切な患者選択が重要になる。現在、標準的な2次化学療法と比較するための第2相試験、第3相試験が進行中である。
セレニウムは術後の2次発がんを予防しない

切除可能(ステージ1)な非小細胞肺がんでは、80パーセント以上の患者で外科的手術が有効だが、術後1年以内はおよそ1~2パーセント、その後も年間ほぼ2パーセントの割合で、2次発がんの危険性がある。
今回、MDアンダーソンがんセンターのダニエル・カープさんは、2次発がんに対するセレニウムの予防効果を検討したECOGE5597と呼ばれる試験の結果を報告した。
セレニウムは魚介類、肉類などに多く含まれるミネラルで、抗酸化作用が高く、がん予防や老化防止、生活習慣病予防などに有効だとして、サプリメントも市販されている。しかし欠乏症は稀で、過剰摂取すると中毒症を引き起こす危険性もある。
1996年、大規模臨床試験の結果、皮膚がんの2次発がん予防効果はないことが示されたが、肺がん、大腸がん、前立腺がんを予防する可能性が示唆されていた。
今回の試験では、2000年から2009年、術後最低6カ月間再発や2次発がんのなかった非小細胞肺がん患者1561例に対して、セレニウム(200マイクログラム/日)またはプラセボ(偽薬)を投与。2009年8月26日の時点で、5年無増悪生存率(再発や2次発がんなく生存している可能性)が、プラセボ群の78パーセントに対して、セレニウム群は72パーセントと芳しくなかったことから、試験は早期中止となった(図5)。
(無増悪生存率、予防効果なし)]

1年あたりの2次発がん率は、肺がんでプラセボ群1.36パーセント、セレニウム群1.9パーセント、すべてのがん種における2次発がんは、プラセボ群3.66パーセント、セレニウム群4.11パーセントであった。
さらに3年/5年生存率も、プラセボ群で90/80パーセントと、セレニウム群の85/75パーセントより良好だった(図6)。
(全生存率、ステージ1で手術を受けた非小細胞肺がん、予防効果なし)]

カープさんは、「セレニウムがプラセボと比較してより有効であるというエビデンスは得られなかった。肺がんの2次発がん予防のためにセレニウムを摂取することは推奨できない」と述べた。
サプリメントにもエビデンスが求められる時代に
クリスさんはサプリメントについて、「効果を明らかにするためには、今回のようにきちんとした試験による検証が必要」と指摘している。
日本では、がん患者の44.6パーセントがサプリメントやマッサージなどの補完代替医療(*)を利用している(2005年厚生労働省調べ)が、これを重く見た厚生労働省は最近、全国の医師に呼びかけて、その有効性と安全性の検証に乗り出した。有望なものについては、医薬品並の臨床試験を行うことも検討しているという。同様の作業は、米国でもすでに行われている。健康食品やサプリメントにもエビデンスが求められる時代だということだろう。
*補完代替医療=「補完医療」「相補医療」とも呼ばれるが、日米ともに学会等の正式の場では、この用語を使うことが多い。日本補完代替医療学会は「現代西洋医学領域において科学的未検証および臨床未応用の医学・医療体系の総称」と定義している
肺がん予防、まずは「禁煙」
ECOGE5597試験では、5年間での2次発がんの危険性は喫煙未経験者では20パーセントであったのに対して、喫煙者は30パーセントと、喫煙の状態によって明らかに差が認められた。クリスさんのまとめの言葉には、この結果が念頭にあったのではないだろうか。
「切除可能な非小細胞肺がん患者の術後生存率は良好だが、無視できない頻度で2次発がんの危険性があることが示された。何らかの対策を講じる必要があることは明らかである。さまざまな予防法が試みられているが、非常に重要かつ医師や患者が今日からできること、それは“禁煙”である」
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