肺がん治療の世界的権威に聞く 英国の肺がん治療を大きく変えた新薬の登場とその事情


発行:2010年5月
更新:2013年4月

医師の意見は患者さんへのアドバイス

写真:東京で開催された医師向け講演のために来日したサッチャーさん
東京で開催された医師向け講演のために来日

――先ほど治療の選択肢が多くなっていると言われましたが、インフォームド・コンセントはどのように行われていますか。

サッチャー 医師が行うのはあくまでも患者さんへのアドバイスです。診断がつくと、医師は患者さんに対して、何が最もよい治療法であると考えているかを示します。この治療法にしたらいいですよと一方的に伝えるのではないです。重要なのは、どのようなベネフィットが得られ、どのような副作用があるか、ということをきちんと患者さんに説明することで、書面で合意をとります。これは法的に義務付けられています。

――これは以前から行われていたのですか。

サッチャー いや、20~30年前は、多くの患者さんががんの告知を受けていませんでした。また、当時は、化学療法も受けたくないと多くの患者さんが拒んでいました。当時の抗がん剤は毒性が非常に強く、わずかな生存期間の延長のために、そんな治療を受けることには価値がないと考えられていたからです。しかし、今は状況が変わってきました。がんであることを患者さんは知っていますし、大半の患者さんは化学療法を受けたいと言います。この間、実に大きな変化がありました。

血液毒性が少なく脱毛もしにくい

――先生はジェムザールの使用経験も豊富だそうですが、ジェムザールと比較してアリムタにはどのような特徴がありますか。

サッチャー 全身的な問題が少ないのが、アリムタのよい点です。血小板数も減少せずに維持できますし、発熱性好中球減少症も少ない。このように血液毒性が少ないと、輸血やG-CSFが必要でなくなり、コストの面からも大きな意味があります。脱毛も少ないし、倦怠感もアリムタのほうが少ないのもメリットとして挙げられます。アリムタのほうが多く発生しているのは吐き気だけですね。ただ、現在では、吐き気に対しては新しいタイプの制吐剤が出ていて、これでかなりコントロールできます。もともとジェムザールは他の抗がん剤より副作用が少なかったわけですが、アリムタはそれよりも良いのです。

――脱毛が少ないのは女性の患者さんにとってうれしい限りですが、英国ではどうですか。

サッチャー 脱毛を気にする患者さんは以前より減っています。化学療法をする時点で、患者さんは副作用として脱毛が起こることを聞いて知っているからです。ただし、アリムタであれば、脱毛が起きることは少ないとお話しすることができます。

――アリムタを使用するときには、1週間前に葉酸とビタミンB12の投与が必要ですが、煩雑に感じることはありませんか。

サッチャー そんなことはありません。なぜなら、通常、患者さんが化学療法を受ける場合、準備に1週間ほどかかるからです。事前投与のために、化学療法の開始が遅れるということはありません。また、欧州全体、特に英国では、ビタミン剤は人々に好まれていて、普通の感覚でビタミン剤を飲んでいます。血液の副作用を減らすためにビタミン剤を投与するというと、患者さんたちにはそれを「いいことだ」「安心できる」と前向きにとらえてくれます。特に葉酸はルーティンに服用されていて、妊娠中の女性がよく飲んでいます。

[図4 アリムタ群とゲムシタビン群との副作用の比較(発現症例率>5%)]

器官別大分類 副作用別項目注1) アリムタ+シスプラチン併用
(n=839)
ゲムシタビン+シスプラチン併用
(n=830)
全グレード(%) ≧グレード3(%) 全グレード(%) ≧グレード3(%)
血液および
リンパ系障害
ヘモグロビン減少 33.0 5.6 45.7 9.9
好中球/顆粒球減少 29.0 15.1 38.4 26.7
白血球減少 17.8 4.8 20.6 7.6
血小板減少 10.1 4.1 26.6 12.7
その他の障害 悪心 56.1 7.2 53.4 3.9
嘔吐 39.7 6.1 35.5 6.1
疲労(嗜眠、倦怠感、無力) 42.7 6.7 44.9 4.9
神経障害-知覚性 8.5 0.0 12.4 0.6
脱毛 11.9 0.0注2) 21.4 0.5注2)
注1)各Grade、事象名はNCI CTC ver 2.0を参照
注2)NCI CTC ver 2.0では、脱毛および味覚障害は Grade1および 2のみ設定 出典:Scagliotti, G.V. et al. : J. Clin. Oncol 26(21)2008より

血液毒性が少なく脱毛もしにくい

――先生はジェムザールの使用経験も豊富だそうですが、ジェムザールと比較してアリムタにはどのような特徴がありますか。

サッチャー 全身的な問題が少ないのが、アリムタのよい点です。血小板数も減少せずに維持できますし、発熱性好中球減少症も少ない。このように血液毒性が少ないと、輸血やG-CSFが必要でなくなり、コストの面からも大きな意味があります。脱毛も少ないし、倦怠感もアリムタのほうが少ないのもメリットとして挙げられます。アリムタのほうが多く発生しているのは吐き気だけですね。ただ、現在では、吐き気に対しては新しいタイプの制吐剤が出ていて、これでかなりコントロールできます。もともとジェムザールは他の抗がん剤より副作用が少なかったわけですが、アリムタはそれよりも良いのです。

――脱毛が少ないのは女性の患者さんにとってうれしい限りですが、英国ではどうですか。

サッチャー 脱毛を気にする患者さんは以前より減っています。化学療法をする時点で、患者さんは副作用として脱毛が起こることを聞いて知っているからです。ただし、アリムタであれば、脱毛が起きることは少ないとお話しすることができます。

――アリムタを使用するときには、1週間前に葉酸とビタミンB12の投与が必要ですが、煩雑に感じることはありませんか。

サッチャー そんなことはありません。なぜなら、通常、患者さんが化学療法を受ける場合、準備に1週間ほどかかるからです。事前投与のために、化学療法の開始が遅れるということはありません。また、欧州全体、特に英国では、ビタミン剤は人々に好まれていて、普通の感覚でビタミン剤を飲んでいます。血液の副作用を減らすためにビタミン剤を投与するというと、患者さんたちにはそれを「いいことだ」「安心できる」と前向きにとらえてくれます。特に葉酸はルーティンに服用されていて、妊娠中の女性がよく飲んでいます。

最初からベストの治療をすることが大切

写真:サッチャーさん

――先ほどのNICEという機関が、アリムタにはコストメリットがあると評価したそうですが、その根拠を教えてください。

サッチャー NICEの評価プロセスは非常に複雑です。評価のベースとなるのは、生存期間の延長、毒性、QOLなどで、これらのパラメーターをまとめ、評価を行います。その次に、費用対効果を評価します。ICER(増分費用効果比)と呼ばれているものです。アリムタに関しては、新しい治療法によるコストの増加分と効果の比較から、コストメリットがあると判断され、承認されたのです。NICEで新薬が承認されることは容易ではなく、アバスチンもまだ承認されていません。

――肺がん領域ではいろいろな新薬が登場していますが、それらの中でアリムタはどんな位置づけになりますか。

サッチャー アリムタはベースになるよい薬だと思います。重要なのは、肺がんの患者さんにはあまり時間がなく、次のチャンスはないことが多いので、最初から最もよい治療を行うことが必要だということです。非扁平上皮がんの患者さんには、アリムタが安心できるベースの薬となります。その治療がうまく効かない場合には、分子標的薬のアバスチンやタルセバを上乗せしていく治療が考えられます。

――NICEがアリムタを承認したことで、イギリスの非小細胞肺がんの治療に変化がありましたか。

サッチャー ファーストラインにアリムタが使用されることがとても多くなりました。NICEが薬を承認すれば、非常に幅広く使われるようになります。

――日本の患者さんには、アリムタはまだよく知られていませんが、先生から患者さんにメッセージがありましたら。

サッチャー アリムタは十分に検証され、ベネフィットが証明されている薬です。最初は悪性中皮腫の治療薬として承認され、今回は非小細胞肺がんに適応が拡大、非扁平上皮がんにより良い効果が認められ、対象のがん種も明確です。生存を延長する効果があり、毒性(副作用)が少ないことを「ダブルフィット」といいますが、アリムタはまさにダブルフィットの薬です。これが日本でも使えることは本当に素晴らしいことだと思います。

(構成/柄川昭彦)


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