間質性肺疾患の合併に気をつければ、間質性肺炎は防げる 肺がんの分子標的薬はサードラインで使うのが標準的

監修:大江裕一郎 国立がんセンター中央病院特殊病棟部医長
取材・文:半沢裕子
発行:2008年6月
更新:2013年4月

肺がんの分子標的薬には遺伝子異常とのかかわりが

では、イレッサとタルセバの違いは、どんなところにあるのでしょうか。

イレッサとタルセバが効くシステム(「機序」といいます)はだいたい同じと考えられていますが、イレッサはとくにある種の遺伝子変異のある細胞に効くのではないかと考えられています。ちなみに、イレッサがほかのがんに効かないのも、ほかのがんにはこの遺伝子変異がないためではないか、と推測されています。

タルセバも同様に、この遺伝子変異のある細胞に効きますが、タルセバは遺伝子変異のない細胞にも効くようで、この薬がすい臓がんに効くのは、そのあたりの機序とかかわりがあるのではないか、と考えられています。

というように、薬の成り立ちや薬が効く機序にも違いがあると思われますが、薬の効き方や、それにともなって使い方にも多少違いがあると、私は考えています。

たとえば、海外には、タルセバとタルセバのプラセボ(偽薬)、イレッサとイレッサのプラセボを使った2つの第3相試験(最も厳密に行われた比較試験)があります。イレッサの試験では、有意差は出ていないものの、プラセボと比べるとイレッサのほうが少し成績が上です。有意差が出なかったのは、イレッサは効く人にはよく効くが、効かない人には全然効かないという特徴が影響しているかも知れません。

一方、これらの試験の結果からは病状安定、つまり、がんの大きさが変わらない期間を長くする効果は、少しタルセバのほうが高いようです。したがって、がんを小さくする効果があまりないと感じられても、タルセバのほうは「明らかに悪くなった」というデータが出てこない限り、使い続けたほうがいいだろうと思います。

もちろん、副作用との兼ね合いでもありますし、ここは医師によっても意見の分かれるところだろうと思いますが。

副作用が強く出るのは、つらいものです。が、イレッサは飲む量を決める試験のとき、2週間投与して2週間休むというスケジュールで行ったところ、休んでいる間に悪くなるケースが確認されました。そのため、今���は毎日飲み続けるようになっています。

タルセバは今のところ、最大耐用量(体を壊さずに飲めるギリギリの量)を飲まなければならず、そのために皮疹などの副作用も強めに出る気がしますが、その一方、250ミリグラム剤1つしかないイレッサに比べると、25、100、150ミリグラムと錠剤に3サイズがあり、微調整が可能です。

何とか患者さんにあう薬を選び、明らかに悪くなるまでは、がんばって続けていただければと思います。

新しい分子標的薬が出てくる可能性も

イレッサ、タルセバ以外に、肺がんの分子標的薬として今、注目されているのは、大腸がんの治療薬として開発されたアバスチン(一般名ベバシズマブ)です。

アメリカでは肺がん治療薬としてすでに承認されていて、日本でもつい最近、肺がんに対する治験の症例集積が終わりました。すぐとは行きませんが、次に承認されるのはこれではないかと思います。

アメリカのデータでは、「非小細胞肺がん」に対して行われている2剤併用の抗がん剤治療に比べ、アバスチンを上乗せすると、平均2カ月の延命効果があるとの報告がなされています。

ただ、副作用もありますし、「扁平上皮がん」だと喀血する可能性があるなど、同じ「非小細胞肺がん」のなかでも、少し適応が限られるようです。

また、がんが新しく血管をつくるのを阻害する分子標的薬で、腎がんなどに効果があるといわれているスーテント(一般名スニチニブ)が、肺がんにも効いたという報告も海外で出てきています。

さらに、がんの増殖遺伝子の受容体(IGF-1R)にくっついて、がんが増殖できないようにする抗体や、イレッサが効かなくなる原因となる増殖因子c-MET(シーメット)にスイッチが入らないようにする薬など、他にも分子標的薬の開発は次々と進められています。

今後も新しい薬が開発されてくることと思いますが、まずは患者さんが今ある治療を、副作用に注意しつつ上手に使い、少しでもいい状態を長く保てるよう、願ってやみません。

[エルロチニブの効果(全生存率)]
図:エルロチニブの効果(全生存率)


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