がんの血管新生を阻害する薬、イレッサに似た薬、副作用を大きく軽減した薬などが続々 ポスト・イレッサの有力な抗がん剤はこれだ
治療の選択肢が増え、安心
日本での取り組みは、この米国よりも遅れているが、すでに第1相の臨床試験を終え、現在国立がん研究センター中央病院や東京医科大学病院などで第2相の臨床試験が行われている段階だ。第1相試験では、非小細胞肺がん患者11人を含めた15人のうち、部分寛解(腫瘍が半分以下に縮小)4人、不変(腫瘍の大きさが変わらない)4人、進行(腫瘍が増大)7人という結果だった。副作用では、発疹が13人、下痢が8人、間質性肺炎を招いた患者も1人いた。
臨床試験を担当している坪井さんはこう語る。
「効果も肺障害もイレッサと同じぐらい起こっているようです。ただ、投与量が全然違っており、タルセバの投与量はイレッサの750、1000ミリグラムに相当する多い量だろうと言われています。その関連からか、イレッサでは効きにくいとされる扁平上皮がんにもタルセバは効いているようですし、副作用も微妙に違うようです。もちろんイレッサと同様に、この薬にも咳やたんが減り、階段の上り下りも楽になるなど呼吸器症状を軽くする効果があり、これは延命効果に匹敵する効果だと私は思います」
また、骨転移や胸膜播種、がん性髄膜炎、脳転移など従来の抗がん剤では奏効しにくい場所の転移でもタルセバが奏効する例の報告もある。なかなかユニークな薬のようだ。
たとえタルセバとイレッサが同じような薬だったとしても、患者としては治療の選択肢が増えることになる。仮にイレッサが効かなくなっても、タルセバがまだあると思えば、希望がつながり、患者にとってはそれが大きな安心材料となる。だから選択肢はたくさんあればあるほどいいのである。
第3のEGFR阻害の分子標的薬
実は、このイレッサと同じ、EGFRを阻害する分子標的薬が、もう1つある。エルビタックス(一般名セツキシマブ)と呼ばれる薬だ。この薬は、冒頭で紹介したアバスチンと同様、すでに昨年2月、大腸がんの治療薬として米国FDAから承認されており、最近肺がんでもその効果が確かめられようとしている。
ただ、こちらの臨床試験はアバスチンほど進んでおらず、まだ第2相試験の段階である。標準的な化学療法(ランダもしくはブリプラチンにファルモルビシンの併用)にこのエルビタックスを加えたところ、標準的な化学療法だけよりも奏効率が20パーセント以上も高かったという。今後、どんな成果が上がってくるか、それによっては有望株になるかもしれない。ただ、皮膚のアレルギーや、呼吸困難を招くアナフィラキシーショックなどの副作用も報告されている点は注意する必要がある。
副作用の少ない抗がん剤も出現
アリムタ群 | タキソテール群 | |
---|---|---|
生存期間中央値 | 8.3ヵ月 | 7.9ヵ月 |
生存率 | 9.1% | 8.8% |
グレード3または4の好中球減少 | 5.3% | 40.2% |
発熱を伴う好中球減少による入院の割合 | 1.5% | 13.4% |
脱毛 | 6.4% | 37.7% |
グレード3または4のALT | 1.9% | 0.0% |
ポスト・イレッサの新しい抗がん剤のうち、切れ味では劣るが、QOLの面では優れたユニークな薬もある。アリムタ(ペメトレキセド)と呼ばれる薬だ。この薬は分子標的薬ではない。従来型の抗がん剤であるが、がん細胞が生存するために不可欠な酵素のうち、3つを同時に遮断する新しいタイプのものだ。しかも葉酸とビタミンB12を補充することで副作用を大きく軽減させる点もユニークだ。
以前に治療を受けたことがある(既治療)非小細胞肺がん患者571人を対象にした臨床試験では、タキソテールの投与を受けた患者とアリムタの投与を受けた患者が比較検討された。タキソテールは進行性非小細胞肺がんの2次治療薬になっている薬。その2次治療薬としてどちらが優れているかが比較されたのだ。その結果、生存率では同等、副作用ではタキソテールよりもアリムタのほうが良好な結果が示された。具体的には、好中球減少の発現、発熱を伴う好中球減少による入院、脱毛の点でタキソテールよりも少ないという結果であった。
このことから、昨年9月、EU(欧州連合)において進行性非小細胞肺がんの2次治療薬(セカンドライン)として承認された。このとき同時に、悪性胸膜中皮腫の治療薬としても承認されている点もユニークといえる。悪性胸膜中皮腫はアスベストが原因とされる胸膜(肋膜)から出る悪性腫瘍で、これまで有効な治療法がなく、ほとんどの症例で発症してからの生命予後が極めて短い。それがこの薬とランダやブリプラチンとの併用で延命効果が初めて実証されたというのだ。
日本でも現在、国立がん研究センターなどで第2相の臨床試験が行われている。坪井さんは「このアリムタは副作用が少ないので患者さんは治療を受けやすいのではないでしょうか」と語る。
不必要なものは体に入れないことが肝心
ポスト・イレッサの肺がん治療薬として期待されているのには、まだある。効果のほどはまだはっきりしないが、セレブレックス(一般名セレコキシブ)などのCOX-2阻害剤やサリドマイドである。
COX-2はシクロオキシゲナーゼ2と呼ばれ、肺がんや大腸がんなどに現れ、がん細胞の発生や増殖に関与している。このCOX-2だけの働きを妨げる薬剤は、非ステロイド性消炎鎮痛剤として知られ、関節リウマチなどの薬として広く使われている。このCOX-2阻害剤をがんの予防や治療に応用しようと考えるのは自然で、実際、国内外で臨床試験が多数行われている。たとえばポーランドを中心としたヨーロッパのグループでは、肺がんの手術後に補助療法としてセレブレックスが投与され、その再発予防効果を確かめる大規模な臨床試験が行われている。また国内でも、再発肺がん患者を対象にCOX-2阻害剤の一つであるモービックと抗がん剤との併用療法が行われ、その効果を確かめる臨床試験が行われている。しかし、いずれの臨床試験も途上で、成果といえるものはまだ上がっていないのが現状である。
「痛み止めとしての効果ははっきりしているので、術後で痛みのある患者さんはもちろん、痛みのない患者さんにも、もしかすると予防効果が現れるかもしれません。考えようによっては、巷で代替療法として流行っているアガリクスやプロポリスよりはいいかもわかりません(笑)」と坪井さんは言う。
今や多発性骨髄腫の標準治療薬(日本では未承認)にまでなっているサリドマイドも、肺がんでの効果はまだはっきりしていない。英国がん研究所では、小細胞肺がん患者を対象に小規模な臨床試験が行われた結果、化学療法とサリドマイドを併用したほうが化学療法だけよりも1年生存率が倍ほどにもなった。そこで、現在、この併用療法の効果を確かめるより大規模な臨床試験に取り組んでいるところという。
このように、ポスト・イレッサの抗がん剤は続々と輩出してきている。とはいえ、生存率を大幅に改善するような画期的な薬が出ているかというと、そうではない。そのことをよく見定める必要がある。坪井さんもこうアドバイスする。
「海外で承認された薬はもちろん、臨床試験で成果が上がっている薬は確かに薬効が期待できるので利用する価値はあるかもしれません。しかし、前にも言ったように、海外で効果のあるものが必ずしも日本でも効果があるとは限りません。それに抗がん剤は、基本的に毒物です。不必要なものは飲まない、体に入れないことが大事です」
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