患者が選ぶ肺がん抗がん剤治療 治療優先の考えから、自分の価値観やライフスタイルに合わせた治療を
各種抗がん剤の組み合わせのメリット、デメリット
では、各種抗がん剤の組み合わせにはそれぞれどんなメリット、デメリットがあるのか挙げてみましょう。
日本では約600人の進行非小細胞肺がん患者さんの協力により、FACS(Four-Arm Cooperative Study)と呼ばれる大規模な臨床試験が実施され、カンプト(もしくはトポテシン、一般名イリノテカン)とランダ(もしくはブリプラチン)の組み合わせに対して、タキソールとパラプラチン、ジェムザールとランダ、ナベルビンとランダそれぞれの組み合わせの有効性と安全性が比較検討されました。その結果は、昨年の米国臨床腫瘍学会や本年の臨床腫瘍学会で報告され、有効性を表すものとして重要視される生存期間中央値(半分の患者さんが亡くなられるまでの期間)および1年生存率(1年後に患者さんが生存されている割合)は下の表のようになりました。
適格例数 | 奏効率(%) | 生存期間中央値(ヵ月) (95%信頼区間) | 1年生存率(%) (95%信頼区間) | |
---|---|---|---|---|
カンプト+ランダ(IP) | 145 | 31.0 | 14.2 | 59.2 |
ジェムザール+ランダ(GP) | 146 | 30.1 | 14.2 | 59.6 |
ナベルビン+ランダ(NP) | 145 | 33.1 | 11.4 | 48.3 |
タキソール+パラプラチン(TC) | 145 | 32.4 | 12.3 | 51.0 |
Four Arm Cooperative Study for Advancsd NSCLC
The 3rd Annual Meeting of JSMO Mar.4th,2005より一部改変
また、患者さんが治療を選択する際には副作用がどうかということも重要ですが、この点ではどうなのでしょうか。タキソールとの組み合わせでは、脱毛、神経障害の発現率が高く、逆に貧血、嘔吐、下痢は少なかった。ジェムザールとの組み合わせでは、血小板減少の割合が多かったが、好中球減少、発熱性好中球減少、下痢、倦怠感、脱毛は少なかった。またナベルビンとの組み合わせでは、血小板減少、嘔吐、下痢、倦怠感、脱毛が少なかったものの、好中球減少、発熱性好中球減少は��かったという結果でした。


タキソールとジェムザールの特徴の差
先の坪井さんは、こうした点を考慮に入れて、抗がん剤の組み合わせ選択のポイントをこう説明します。手術後の補助療法でも進行がんの治療でも、基本的には変わらないそうです。
「非小細胞肺がんの抗がん剤治療は、プラチナ製剤とジェムザールなどの90年代に出てきた抗がん剤を組み合わせた2剤併用が標準的な治療です。ただ、プラチナ製剤のランダやブリプラチンはその有効性は高いのですが、腎臓に負担がかかるため、急性腎不全にならないように気をつける(お小水の量を一定以上を維持する)必要があります。そのため水分を多くとって尿量を維持することが肝要です。多くの場合、入院して補液をしなければなりません。もちろん、腎臓に重篤な障害がある人には使えません。もう1つ、吐き気を最も強く起こすのも難点です。そこで、こうした点を解消するために作られたのが同じプラチナ製剤のパラプラチンです。パラプラチンを使えば、こうした副作用、特に腎臓への負担や吐き気はかなり軽減されます」
最近は、このパラプラチンとの組み合わせを考えた抗がん剤治療が普及しはじめ、患者さんの間でも注目されています。前にも記したタキソールとパラプラチンやジェムザールとパラプラチンという組み合わせです。
「パラプラチンだとほとんどの方が外来で治療ができます。とくに補助療法の場合、患者さんは社会復帰したい、仕事をしながら治療を受けたいという方が多いので、これらの組み合わせの治療を選ぶ人が多いですね。なかでも多いのはエビデンス(根拠)が明らかなタキソールとの組み合わせです。もっとも、同じ外来治療でも、いくつかの点で異なります。たとえば、点滴に要する時間は両者でかなり差があります。タキソールと組み合わせる場合は4時間半から5時間かかりますが、ジェムザールとの組み合わせだと1時間半から2時間ですみます」
また副作用の現れ方でも大きな違いがあります。
「タキソールとの場合では、吐き気・嘔吐が少ないのはいいのですが、脱毛が非常に強く出るのが欠点です。ひどい場合は眉毛まですっかりなくなるので、脱毛を気にする女性をはじめ早く社会復帰したいといった人などは敬遠されます。もう1つの難点は、手足のしびれなど、末梢神経障害が出てくることです。キーボードを打つ職業の人や、ピアニスト、ギターリストなどの音楽家や芸術家など、指や足をよく使う仕事をしている人、また高齢者で足が弱い人にもお勧めできません。これに対して、ジェムザールとの場合では脱毛はさほど起こりませんし、吐き気・嘔吐も少ないです。唯一の弱点は血小板減少の割合が多いことですが、普段から出血が止まりにくく止血剤を飲まなければならないような人以外は、それほど心配するものではないです。これが原因で大きな問題が起こることは今まであまりありませんでしたから」
また治療費では、タキソールとの組み合わせは高いが、ジェムザールとの場合はタキソールの3分の2程度ですみます。
ただ、点滴治療は外来でできるといっても、やはり点滴のチューブにつながれ、一定時間ベッドや椅子に拘束されるので、煩わしいことは否めません。その点、最も気軽で簡便なのは飲み薬のUFT療法です。
「UFTは補助療法に限られますが、副作用は食欲不振や消化管の軽い障害が出る程度で、長く治療できます。ただ、長く使用していると、手足に色素沈着が起こる手足症候群と呼ばれる副作用が出ることがあります。また難点としては、治療期間が長期にわたることです。治療を短期にすませたい人は点滴治療のほうがいいかもわかりません」
このUFTと同様、副作用を軽く抑えたいという人に向いているのがもう1つあります。ナベルビンとランダ(もしくはブリプラチン)の2剤併用です。
「ナベルビンの長所は、心臓に負担をかけないことや吐き気などの消化器症状が少ないなど、副作用が軽いことです。80歳ぐらいの高齢者で、強い治療は嫌だという人に向いています。ただ、長く投与していると、血管障害がおきることがあるので、注意が必要です」
ランダ+カンプト | ランダ | 80mg/m2(day1) | ¥102,574 |
カンプト | 60mg/m2(day1,8,15)4週毎 | ||
ランダ+ナベルビン | ランダ | 80mg/m2(day1) | ¥97,968 |
ナベルビン | 25mg/m2(day1,8)3週毎 | ||
ランダ+ジェムザール | ランダ | 80mg/m2(day1) | ¥133,720 |
ジェムザール | 1000mg/m2(day1,8)3週毎 | ||
ランダ+タキソテール | ランダ | 80mg/m2(day1) | ¥139,136 |
タキソテール | 60mg/m2(day1)3週毎 | ||
パラプラチン+ジェムザール | パラプラチン | AUC5(day1) | ¥186,977 |
ジェムザール | 1000mg/m2(day1,8)3週毎 | ||
パラプラチン+タキソール | パラプラチン | AUC6(day1) | ¥245,890 |
タキソール | 200mg/m2(day1)3週毎 |
体表面積は1.5km2にて算出(パラプラチンに関しては糸球体濾過率≒120で計算)。
投与量に関しては国内における併用2/3相試験の結果を参考にした。
自分の人生を犠牲にしなくてもすむ
これまでは、ともすると治療が優先され、治療の遂行のために自分の生き方、ライフスタイルを捻じ曲げられ、我慢を強いられてきた人も多かったのではないでしょうか。しかし、この東京医大の例のように、患者さんが自分の価値観やライフスタイルに合わせて自ら抗がん剤治療を選択するという治療スタイルが広まれば、自分の貴重な人生を犠牲にする人も少なくなります。残された時間を自分や家族、あるいは誰かのために有効に使いたい。そう思っている人にとっては、この「患者さんが選ぶ抗がん剤治療」は願ってもないものといえるでしょう。
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