進行卵巣がんには 抗がん薬と手術の組み合わせで

監修●織田克利 東京大学医学部附属病院産科婦人科講師
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2014年4月
更新:2015年3月


抗がん薬の投与法にも工夫を

「化学療法の工夫も大切です」

と、織田さんは抗がん薬の投与法での新しい展開にも期待を寄せている。

表4 初回化学療法の標準治療

[参考]日本婦人科腫瘍学会 編. 卵巣がん治療ガイドライン 2010年版(金原出版) p48-51, 2010

現在の主流は、TC療法といって3週間サイクルでパクリタキセルとカルボプラチンを投与していく方法だ。それを発展させた形で、「dose dense TC療法」も行われている(表4)。パクリタキセルの投与回数を3回に分けるのだが、その際に1回の投与量は3分の1より多くできる。

「3回に分けると、トータルで従来の約1・3倍を投与できます。総投与量を増やせることで効果の上乗せが期待でき、実際に日本の臨床試験で上乗せ効果を示すデータが出ています」

また、組織型も考慮されつつあり、抗がん薬が効きにくく、日本で多い明細胞腺がん対策として、イリノテカンとシスプラチン併用治療の有効性を探る臨床試験も行われている。

投与方法の工夫もある。

「抗がん薬は静脈への点滴で投与するのがスタンダードですが、腹腔内に管を留置して投与する方法を組み合わせて治療開始時から行おうという臨床試験が進行中です。お腹に残るがんを効率的にたたくには、腹腔内投与のほうがいいという海外からの報告もあります。手術には限度があるので、抗がん薬の感受性をより高める工夫として、いろいろな戦略が考えられています。後述するアバスチンの併用もその1つです」

パクリタキセル=商品名タキソールなど カルボプラチン=商品名パラプラチンなど イリノテカン=商品名カンプトなど シスプラチン=商品名ブリプラチンなど アバスチン=一般名ベバシズマブ

再発した場合の選択肢を広げる方向へ

進行卵巣がんの場合、当然、再発のリスクも高い。その際の治療選択肢も大きな問題だ。

「再発の場合、初回の治療で抗がん薬が効くタイプだったのか、効かないタイプだったのかが大きな分かれ道になります」

日本の治療ガイドライン的には、初回治療後6カ月で線を引いている。6カ月未満に再発したら「抗がん薬が効きにくいタイプ」として1種類の抗がん薬治療や緩和治療が中心となるが、6カ月以上たったケースは初回と同じか類似の化学療法ができるとされている。これに対し織田さんは杓子定規な振り分けには問題点が残るのではないかと考えている。

��私は、半年で分けることが妥当でない可能性もあるのではないかと考えています。医療施設によって、徹底的にがんを取りに行くところもあれば、抗がん薬に頼って手術にはやや消極的なところもある。抗がん薬だけでなく手術もきっちりしなければ、抗がん薬の効き目が同じだとしても、再発するまでの時期が短くなる可能性があります。できる限りの治療をした上で再発までの期間を観察し、その人にあった再発治療を見つけていきたいと考えています。再発治療でも諦めずに抗がん薬を使えば長期の予後を達成できる可能性があります。患者さんによっては、再発時にもう一度手術を組み合わせることもできます」

東大病院では、初回治療終了から再発までの期間が6カ月以上12カ月未満の患者さんには、再発治療として主にタキソテールとパラプラチンを使っている。全生存率の中央値は約4年半であり、5年生存を達成している患者さんも多い。

広がる選択肢 個別化治療の進化も期待

近年、卵巣がんの薬の選択肢が増えた(表5)。

表5 卵巣がんで用いることのできる主な薬剤

織田さんは、今後の課題として、卵巣がん特有の組織型や個々の患者さんの腫瘍の特性に応じた抗がん薬の選択を挙げる。

「組織型によって抗がん薬の感受性は違います。さらには、同一組織型でも抗がん薬の感受性は個々に異なります。治療の個別化の確立が今後必要です。分子標的薬など新しい薬も含めて、さらには腫瘍を顕微鏡だけでなく、遺伝子のレベルでも調べていくことによって、より適した薬剤選択ができるようになれば、さらに長期予後が得られる患者さんが増えると思います。卵巣がんは複雑ですが、遺伝子変異や発現パターンに基づいて治療の個別化が明確にできれば、治療効果がもっと上がるはずです。私がこれから最も取り組みたい分野です」

分子標的薬の登場 新しい展開を期待

大腸がんなどで使用されていた分子標的薬のアバスチンが2013年11月に卵巣がんに対しても承認された。織田さんは大きな期待をかける。

「卵巣がんでの初めての分子標的薬。化学療法への上乗せ効果が期待できます。従来の抗がん薬にプラスして使用します。そのあとに維持療法として単独で使うと、再発するまでの期間を数カ月延長することが可能です。消化管穿孔などの副作用には十分注意が必要ですが、大いに期待できます」

アバスチンは血管新生を抑える分子標的薬。卵巣がんで問題となる腹膜播種(あるいは胸膜播種)にとくに威力を発揮する可能性がある。

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