卵巣明細胞腺がんに対する分子標的薬の治療効果に期待
妊孕性温存手術に新しい報告も
卵巣がんでは、妊孕性を維持したいという患者さんも多い。
「子宮を挟んだ反対側にある片方の卵巣を残そうという手術法もありますが、残念ながら卵巣明細胞腺がんでは推奨されていません」
卵巣癌治療ガイドラインでは妊孕性温存手術について、「Ⅰa期で高分化型または境界悪性腫瘍であることが必要条件とされる」と記載されている。卵巣明細胞腺がんで推奨されていない理由は、I期でも予後が良いとは言えないこと、手術中に病巣が破れてがん細胞が散らばる危険が大きいことだ。
「ただし、卵巣明細胞腺がんについても妊孕性温存手術を許容してもいいのではという報告も出てきています。前向きに温存できるかはこれから検討されていく分野です。一方で、一番大切なのは、がんを治療することです。しっかり考え、納得いくまで医師と話し合うことをお勧めします」
化学療法で 新しい組み合わせの臨床試験
抗がん薬治療の分野では、効果を高めるための臨床試験が進行中だ。日本で行われているJGOG3017という試験では、組織型により化学療法の感受性に差異があることへの対策として、卵巣明細胞腺がんと粘液性腺がんでは治療ガイドラインでグレードAとして推奨されている*パクリタキセル+*カルボプラチンの併用療法(TC療法)ではなく、他剤との組み合わせについて研究されている。
*イリノテカン+シスプラチン併用療法(CPT-P療法)とTC療法を比較しようというもので、666人の患者を登録して研究(臨床試験)が進められている。
「卵巣明細胞腺がんにおいて、プラチナ製剤への低い感受性は仕方がないとしても、薬剤の組み合わせを違えることによって対応できないかということです」
患者さんや医療関係者の期待を集めた臨床試験だが、現在は2年間の無増悪生存率(PFS)、全生存率(OS)ともに差が出ていない。同等か、むしろII~IV期ではCPT-Pのほうが成績が劣るようにみえる(図4)。「補助療法としてはどちらも使えると思いますが、TC療法を上回る治療とは言えないのが現状です。ただ、毒性の違いがあるので、パクリタキセルでのしびれで苦しんでいる方には切り替えることもありえます」
先に述べた、腎がんで使用されているmTOR阻害薬に関する研究にも期待がかかっているという。

*パクリタキセル=商品名タキソール、パクリタキセルなど *カルボプラチン=商品名パラプラチン、カルボプラチン、カルボメルクなど *イリノテカン=商品名カンプト/トポテシン
分子標的薬アバスチンへの期待
分子標的薬*アバスチンの効果にも期待が高い。血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を標的とした血管新生阻害薬で、大腸がんで最初に承認されたが、2013年11月に卵巣がんにも適応拡大された(図5)。

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「アバスチンの戦略は、がん細胞自体をたたくのではなくて、がん細胞の周りの環境を攻めようというものです。簡単に言うと、がん細胞への栄養を遮断する作用があります。卵巣明細胞腺がんではVEGFの発現が非常に高いので、理にかなった攻め方です」
抗がん薬では組織型で効き方に差があるが、この分子標的薬は卵巣明細胞腺がんに期待できる。織田さんは「抗がん薬治療に上乗せして投与します。標準治療のオプションになるでしょう」と話した。
「がんの広がりや組織型を調べ、薬の特性を知って上乗せするメリットを考えるのが我々医療者の仕事です。医師の力量が問われます」
そして、日本の医療界にも一言付け加えた。「確かに卵巣明細胞腺がんは、臨床試験へのエントリー数が少ないので難しいという状況はあります。しかし、一番の問題は日本が受身であること。海外での臨床試験や承認状況を気にしながら後追いになってしまうことが多々あります。そうすると、卵巣明細胞腺がんのように日本でとくに多い疾患についてのエビデンス(科学的根拠)を得られにくいということになります。我々医療者が患者さんを救うために何とかしなければならないのです。新しい治療への挑戦を世界に発信していきたいと思います」
*アバスチン=一般名ベバシズマブ
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