進行卵巣がんの治療は手術と化学療法を組み合わせて行う
再発までに要した期間で 治療法が変わってくる
初回治療が終了しても、多くの場合、再発が起きてくる。
「この再発に対する治療では、再発がいつ起きたかが重要な意味を持ってきます。プラチナ系抗がん薬(カルボプラチン、*シスプラチンなど)の治療を終了して何カ月経過しているかで、3つのグループに分け、使用する抗がん薬を選択していきます」
再発時期が、プラチナ系抗がん薬の治療終了から6カ月以内なら「プラチナ抵抗性」、6~12カ月なら「プラチナ部分感受性」、12カ月以上なら「プラチナ感受性」と評価される。そして、それに応じた治療が行われるのである。
プラチナ抵抗性なら、プラチナ系抗がん薬はあまり効かないので、プラチナ系以外の抗がん薬を単剤で使用するか、それにアバスチンを併用する。
プラチナ感受性なら、タキソールとカルボプラチンの併用が効果的だったと考え、再発治療でもそれを使う。あるいは、プラチナ系抗がん薬を含む2剤併用療法が行われる。
プラチナ部分感受性の場合は、プラチナ感受性と同じような治療が行われることもあるし、プラチナ以外の抗がん薬が使われることもある。
再発の治療では、使用している薬が効かなくなれば、別の薬に切り替えて治療を続ける。現在は、卵巣がんの治療に使える抗がん薬の種類が増えた。*ジェムザール、*ハイカムチン、*ドキシルなども使えるようになっている(表4)。

*シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ *ジェムザール=一般名ゲムシタビン *ハイカムチン=一般名ノギテカン *ドキシル=一般名ドキソルビシン塩酸塩リポソーム注射剤
腹腔内化学療法の臨床試験が進行中
今後、期待される治療法として、進行卵巣がんに対する腹腔内化学療法の臨床試験が進行中である。通常の化学療法では、TC療法でも、dose dense TC療法でも、タキソールとカルボプラチンは点滴で静脈内に投与する。この臨床試験では、通常のdose dense TC療法と、カルボプラチンを腹腔内に投与するdose dense TC療法の比較が行われている。
静脈に投与された抗がん薬は、血流に乗ってがん細胞に届けられる。それに対し、腹腔内に注入された抗がん薬は、腹腔内に広がっている卵巣がんの細胞に直接触れることになる。
「抗がん薬の腹腔内投与は、超高濃度化学療法なのです。がん細胞は、点滴で静脈に入れた場合には得られないような濃度の抗がん薬に曝露するわけです。それによって、再発のリスクを下げられるのではないかと考えられています」
現在、この治療は、厚生労働省の認める先進医療として、特定の医療機関で受けることができる。臨床試験の結果によっては、今後、標準治療が変わる可能性もありそうだ。
「この臨床試験は、日本だけでなく、シンガポール、韓国、香港、ニュージーランド、アメリカとの共同で行っているランダム化比較試験です。目標症例数は654例ですが、2016年4月時点で619例の登録済です。あと数カ月で全例の登録が終わりそうですが、試験の結果が出てくるのは、早くても2年後でしょう」
進行卵巣の治療を一歩前に進めるために、臨床試験の結果が待たれるところである。
遺伝子検査の結果が 卵巣がんの予防や治療に役立つ
●予防的切除が選択肢の1つに BRCA1とBRCA2という遺伝子は、女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、乳がんを予防するため乳房切除手術を受けたことで、広く知られるようになった。実はこの遺伝子、乳がんだけでなく、卵巣がんの発症にも深く関わっている。BRCA1の変異がある場合は、卵巣がんの生涯発症危険率は36~63%、BRCA2の変異がある場合は10~27%とされている。
卵巣がんには早期に発見するための方法がなく、多くが進行卵巣がんの状態で発見されているという現状がある。それを考えると、危険を回避するために遺伝子検査を受け、検査結果によっては、予防的に切除手術を受けるというのも選択肢の1つになってくるだろう。欧米ではすでに行われているが、日本でも当たり前になってくる可能性がある。
●治療効果を予測するマーカーとして BRCA1やBRCA2に変異がある患者さんや、卵巣がんの細胞がBRCA関連の変異を持っている場合には、腹腔内化学療法が非常によく効くことがわかっている。このように治療効果を予測するマーカーがあれば、よく効く人を選んで治療することができ、医療の無駄をなくすのにも役立つ。
卵巣がんの治療は、このように個別化に向かっている。治療を開始する前に、組織を採取することが、今後ますます重要になっていくと考えられている。
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