待望の新薬リムパーザ、日本でも承認・販売! 新薬登場で再発卵巣がんに長期生存の希望が見えてきた
重篤な副作用がほとんどない
使用開始されたばかりのリムパーザ。がん研有明病院婦人科では、現時点(8月初旬)までの4カ月間で20名ほどの患者にリムパーザを投与しているという。まだ4カ月なので、中長期的な経過や結果は明らかではないが、「20例中、今のところ腫瘍マーカーが上昇した人はおらず、手応えはあるように思います」と竹島さん。
副作用の面においても「4カ月経った現在も、重篤なものは見られません」とのこと。リムパーザを服用し始めたら、すぐに発現するのが、吐き気、悪心、貧血、疲労感だそうだ(図4)。

これは1~2カ月のうちに治まるので心配ないとされているが、がん研有明病院では、1カ月もかからず、これらの副作用は10日ほどでほぼ落ち着いているとのことだ。
「悪心や吐き気対策として、リムパーザ服用と同時に先手を打って制吐薬を使うことで、比較的コントロールできています」
貧血がひどくなった場合は、2通りの方法があるそうだ。リムパーザを4週間休養し、貧血が治まってから服用を再開するか、もしくはリムパーザは休まず、輸血で貧血を回避して続けるか。どちらかで対処できるので、心配には及ばない。
重篤(じゅうとく)な副作用が少ないリムパーザではあるが、*重要な潜在的なリスクとしては、1%程度の確率で起こるとされる急性骨髄性白血病(AML)もしくは骨髄異形成症候群(MDS)がある。これらは一旦発症すると、70%以上が致死的と言われる。
しかし、実は一般の化学療法を繰り返すことでもよく発症することが知られており、発症した場合でも、リムパーザの副作用か、それまでに投与してきた抗がん薬の影響かが定かでないという側面もある。とはいえ、必要性の低い状態での使用は避けるべきであろう。
「当科の今までの使用経験では、重篤な副作用はほぼないように思います。貧血は起こるけれど、白血球減少や血小板減少もほとんど起こらず、悪心や疲労感が中心です。通常使用されている抗がん薬の副作用に比べたら、格段にマイルドだと思います」と竹島さん。副作用に関しては、今のところ致死性のものがほとんどなく、比較的安全に使えるといってよさそうだ。
BRCA遺伝子異常でなくとも使える理由
もともとリムパーザは、「*BRCA遺伝子変異のある卵巣がん・乳がん」の治療薬として注目され��。「BRCA遺伝子変異のあるがん細胞では、DNA修復時の相同組み換えが正常に機能しない」ことが明らかにされており、リムパーザがもう一方の「塩基除去修復機構」を阻害することで、がん細胞を細胞死へ導くことができると考えられるからだ。
米国食品医薬局(FDA)が最初にリムパーザを承認したのは、2014年12月。「BRCA遺伝子変異陽性の進行卵巣がん」への適応だった。その後、臨床試験を重ねた結果、プラチナ系抗がん薬が効いている状態が、BRCA遺伝子変異の細胞状態と似ている(BRCAness)と判明。言い換えると、プラチナ感受性の状態のとき、BRCAは変異していなくとも、腫瘍の中の相同組み換え修復機構には異常が発生していることがわかったのだ。
昨年(2017年)8月、FDAは「BRCA遺伝子変異の有無を問わず、プラチナ系抗がん薬に奏効を示す再発卵巣がんに対する維持療法」に対するリムパーザ適応を追加承認。それを受けて、日本では今年1月19日に「プラチナ系抗がん薬感受性陽性の再発卵巣がんにおける維持療法」としてリムパーザが承認され、同年、4月より発売が開始された。日本での大規模臨床試験を経ることなく承認に至った理由について、竹島さんは次のように述べた。
「グローバルでの大規模臨床試験の中に、日本人が何人か含まれていたことが大きかったと思います。グローバルで結果が出ても、日本人のデータがなければ承認は難しかったでしょう。今は、海外の大きな臨床試験ではそうしたことも考慮されています。欧米人だけで試験を行っていたら、欧米では承認が通ってもアジアでは通りませんから」
早期発見が難しく、化学療法に関してもTC療法以外にこれぞという治療法がなかった卵巣がんに、新薬リムパーザがどれほど貢献してくれるかは、使用開始されたばかりの現時点ではまだ未知数。けれども、「プラチナ感受性再発、かつプラチナ系抗がん薬が奏効する状態のときであれば、程度の差こそあれ、リムパーザは効果があります」と竹島さん。しかも、6年以上も増悪することなく奏効する可能性もあるのだ。
今後、リムパーザがどのように力を発揮するかによって、卵巣がん予後のライフスパンが大きく変わるかもしれない。そんな希望を、この新薬は秘めていると言っても過言ではないだろう。
*重要な潜在的リスク=医薬品との関連性が疑われる要因はあるが、臨床データ等からの確認が十分でない有害な事象のうち重要なものをいう *BRCA遺伝子変異=がん抑制タンパク質を生成するのがBRCA遺伝子。この遺伝子に変異があると、細胞分裂の際に遺伝子変異を起こしやすくなり、卵巣がん、乳がんの発症率を著しく高めてしまう。女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが乳がん予防のために予防的乳房切除術を受けたことで広く知られるようになった
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