無作為化比較試験(JCOG0602)結果がASCO2018で報告 進行卵巣がんにおける化学療法先行治療の非劣性認められず
今後、継続的な追跡評価が必要
今回のJCOG0602試験に対する評価はさまざまで、初回手術徹底派においては、好意的な評価がなされ、一方、術前化学療法是認派においては、今回の試験結果を残念に受け止めると考えられる。
「いずれにせよ、今回の試験の結論としては、術前化学療法が、全ての患者さんにおいて、手術先行治療に対する代替療法として、常時位置づけられるのは難しいということになりました。ただし、全身状態が悪い患者さんの場合や、化学療法に対する感受性が高い患者さんに対しては、術前化学療法を選択したほうがよいということも示唆されました。
また、初回に徹底的に手術をするべきなのか、術前化学療法を行った後に手術をするべきなのかについては、今後、SUNNY試験やTRUST試験の結果が5、6年先に判明すれば詳細な評価ができるかもしれません」
実臨床においては、個々の患者ごとに、初回根治手術の可能性、全身状態、栄養状態、腫瘍マーカー、細胞診、組織診などの所見などにより、慎重に評価をしてどちらの治療を選択するかを決めるというのが現実的だと恩田さんは説明する。
「そして、何よりも大切なことは、クオリティの担保された手術をきちんと行ない、手術で十分に取り切ることを目指すということです。それが大前提であることは言うまでもありません」
治療薬の選択肢の増加が延命効果に貢献
またASCO2018では、ポスター展示ではあったが、イタリアの単一施設による同様な試験で、化学療法先行治療の優越性を検証したが否定されたという報告がされていた(スコーピオン試験:SCORPION trial)。この結果にも注目すべきだろう。
「今後は、化学療法における新たな薬剤の組み合わせ、TC療法におけるパクリタキセルを毎週投与するドーズ・デンス(dose-dense)療法のような投与方法の調整、さらには分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの新たな治療薬の出現により、術前化学療法の相対的有用性が増して、非劣性、優越性が示される可能性はあると思います」
最近では、進行卵巣がんの薬物療法については、分子標的薬の*ベバシズマブが使えるようになり、今後、術前化学療法への応用の効果も検討されている。
��らに2018年、*オラパリブというPARP阻害薬の分子標的薬が、プラチナ製剤感受性再発卵巣がんへ適応拡大された。PARP阻害薬は、初回治療に対する臨床試験が海外で行われているようだ。
このように、治療薬の選択肢が増えることによって、進行卵巣がんの延命効果に貢献している。これらの治療薬が、術前化学療法に関与してくるようになれば、予後のさらなる向上に必ず貢献するはずだ。
「将来的には、手術のアクティビティに関わらず、使用できる薬剤の選択肢の広がりにより、化学療法先行治療の治療成績向上の可能性は考えられます」恩田さんはそう話す。
卵巣がんは難治がんだが、患者にとって福音となる治療法は将来的に必ず出現するはずだ。そんな新たな治療法の開発を目指して、婦人がんの専門医たちは日夜、臨床活動と研究活動に励んでいる。
*ベバシズマブ=商品名アバスチン *オラパリブ=商品名リムパーザ
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