薬が効かなくなっても次の薬に切り替えながら長期生存をめざそう 再発卵巣がんに使える抗がん剤の選択肢が次々に増加中!

監修:藤原恵一 埼玉医科大学国際医療センター婦人科腫瘍科教授
取材・文:町口充
発行:2011年3月
更新:2019年8月

使い分けは薬の毒性で判断

ドキシル、ハイカムチン、ジェムザールの使い分けについては、使う順序は決まっておらず、毒性で判断するのがいい、と藤原さん(図2)。

[図2 卵巣がんに使用する抗がん剤の副作用]

一般名 商品名の例 血液毒性 倦怠感 消化器障害 神経障害 手足症候群 脱毛
パクリタキセル タキソール ++   +++   ++
ドセタキセル タキソテール +++ +++ ++   ++
イリノテカン トポテシン ++ ++ +++     ++
経口エトポシド ラステット   ++     +++
ドキソルビシン塩酸塩 ドキシル   +++   +++  
トポテカン ハイカムチン +++ ++    
ゲムシタビン ジェムザール +++        
+ :軽度++:中等度+++:重度

「たとえばドキシルの場合、骨髄抑制や神経毒性は少ないし、脱毛の心配もありません。ただし、ドキシルの1番困る副作用は手足症候群で、皮膚障害が現れやすくなります」

具体的な症状としては、痛み、しびれ、ものに触れたときの不快な感覚、チクチクまたはピリピリするような���覚、皮膚が赤くなったり腫れたりする、などです(写真3)。

[写真3 手足症候群の症例]

写真:両手

両手とも皮膚がカサカサになり、左手の甲や指のつけ根には色素沈着がみられる

写真:両足

足全体が赤く腫れており、とくにサンダルが当たっていた足の甲が水ぶくれになりかけている

逆にハイカムチンは骨髄抑制が強く現れ、白血球(好中球)、血小板などの著しい減少がみられます。白血球が少なくなれば感染症にかかりやすくなり、血小板の減少によって出血しやすくなります。ほかに下血、吐き気・おう吐、発熱、倦怠感なども生じますが、ハイカムチンと同系統の薬剤であるイリノテカン(一般名トポテシン)と比べると、イリノテカンの特徴である下痢の症状はあまりみられません。

また、ジェムザールには、骨髄抑制による白血球や血小板の減少、悪心、おう吐などのほか、皮膚障害の副作用があります。

ただし、ハイカムチンには脱毛が現れますが、ジェムザールにはそれはありません。

このように、薬によって毒性が違うので、その違いを理解した上で、順番に使い分けるのが1番いい、と藤原さんは語ります(図4)。

[図4 タキサン系やプラチナ製剤が効かない卵巣がんに対する治療戦略]
図4 タキサン系やプラチナ製剤が効かない卵巣がんに対する治療戦略

どうする? 副作用の対策

副作用への対策はどうしたらいいでしょうか?

藤原さんはドキシルを点滴投与する際、手足症候群の予防のため、手と足をアイスパックなどで巻いて冷やしたり、保湿剤を塗ったりしているということです。アイスパックで冷やすと、血管が収縮してその部分だけ抗がん剤が行き渡りにくくなります。手足にがんはできないので、皮膚障害の予防に効果が大きいのではないかと、藤原さんは考えています。

保湿剤も、手足に傷ができないようにするために有効で、治療する前から塗っておくといいようです。

「そのかわり、手足症候群を抑えると、今度は口内炎がひどくなるようです。口腔ケアがおろそかだと、感染症のリスクが高まる発熱性好中球減少症の原因になるのではないかといわれていますから、口腔内を清潔に保つことが大切。最近、口腔の専門家にも入ってもらって患者さんのケアをする施設が増えています」

患者さん自身が行う口腔ケアとしては、治療が始まる前に虫歯や歯肉炎を治しておくとか、抗がん剤投与が終わったあとも、うがいなどで口腔内を洗浄し、歯磨きはゴシゴシこするのでなく、歯茎をやさしくマッサージするように行うといい、と藤原さんのアドバイス。

また、口の中が乾燥しないように、こまめに水分を補給するのも大切です。

骨髄抑制の対策としてはきちんと検査を受けることが肝心。

「白血球が減っているときは発熱に注意が必要です。抗生剤の投与が必要となるので、早めに主治医に相談することが肝心です。生ものも控えたほうがよいですね。血小板が減ると出血したりするので、過激な運動はせず、粘膜を刺激するようなものも食べないでいただきたい」

単剤でも効果が証明されたアバスチン

卵巣がん治療のもう1つのトピックは、分子標的薬のアバスチン(一般名ベバシズマブ)についてでしょう。

2010年6月のASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表された臨床試験(GOG218)の結果と、昨年10月のESMO(欧州臨床腫瘍学会)での臨床試験(ICON7)の結果発表です。それによると、これまで標準治療とされたTC療法(タキソール+カルボプラチン)にアバスチンを加えて、さらにこの治療が終わったあとも再発予防の観点から維持療法として1年間、アバスチンを単剤で投与したところ、無増悪生存期間()が有意に延長したことが証明されました(図5)。

[図5 卵巣がんに対するベバシズマブの効果(GOG218試験)]
図5 卵巣がんに対するベバシズマブの効果(GOG218試験)

これは、婦人科がんの中で初めて分子標的薬の有効性が示された非常に大きなトピック、と藤原さんは指摘します。

この結果を受けて、欧米では、比較的早い段階でアバスチンの卵巣がんへの使用が承認されるのではないか、といわれています。そうなると、GOG218試験に参加した日本での承認動向が注目されるところです。

ところで2010年11月、『卵巣がん治療ガイドライン』が3年ぶりに改訂されました。

藤原さんによると、2010年版のガイドラインでは、初回治療でのウィークリー投与法が新しいエビデンスとして加わったほか、再発卵巣がんの記述が詳しくなり、初回化学療法のオプションや、特殊な組織型のがんに対する化学療法のオプションなどが追加されました。

めざましい進歩をみせる化学療法に関する記述が充実した新ガイドライン。患者さんも診療の参考にするといいでしょう。

無増悪生存期間=治療後、がんが進行せず、安定した状態である期間


1 2

同じカテゴリーの最新記事