渡辺亨チームが医療サポートする:卵巣がん編
検査の結果、卵巣に腫瘍。「すぐに手術が必要」と告げられた
山中康弘さんのお話
*1 子宮筋腫
子宮筋腫は、子宮にできる腫瘍のなかで最も頻度の高い良性の腫瘍です。40歳代の女性では3人に1人が筋腫をもっているといわれています。子宮筋腫は無症状のことも多く、大部分の方は治療は不要ですが、子宮筋腫ができた部位や大きさによって、月経異常、不正出血、出血過剰による貧血症状(息切れ、めまい、顔色不良など)、月経困難、圧迫症状(頻尿、便秘)などの症状が現れます。
その場合には治療が行われることがあり、ホルモン療法、外科手術などの治療法があります。ホルモン療法は、一時的に閉経状態を人工的につくり、筋腫を委縮させる方法ですが、治療後しばらくすると筋腫も元の大きさに戻っていくので、一時的に症状を抑える治療法と言えます。閉経になると月経がこなくなること、また、女性ホルモンが少なくなり、自然に子宮筋腫が萎縮することなどから、治療が不要になる場合がほとんどです。子宮筋腫による症状は、一部卵巣がんと症状が似ているため卵巣がんに気づかないケースもあります。
*2 腹水の貯留
お腹には、腹腔といわれる空間があり、胃や腸、肝臓、胆嚢などの臓器はこの空間の中にあります。この空間には正常でも少量の水が存在していて、臓器と臓器の摩擦を少なくしたり、運動をスムーズにしていると考えられています。水の量は、通常は20~50ミリリットルですが、その水が通常の量よりたくさん溜まると「腹水」として診断されます。
腹水が溜まる原因はいろいろありますが、その腹水の溜まる理由から、漏出性腹水と浸出性腹水とに大きく分けられています。
漏出性腹水は、血液の液体成分が薄まって腹腔の中に漏れ出たもので、肝臓の病気(肝炎や肝硬変)や尿から蛋白が排泄され、血中の蛋白濃度が低下するような腎臓の病気、心臓の病気などによって起こります。
浸出性腹水は、腹腔内の炎症や悪性腫瘍(がん)などが存在することにより、血液の液体成分がしみ出ることによって起こります。
腹水が進行すると、お腹がぽっこりと出てきます。腹水の治療は、原因疾患によって異なりますが、原因となっている病気に対する治療と、症状に対する治療を行う対症療法があります。
*3 婦人科の診察
婦人科の診察として特徴的なのは、腟・直腸に指を挿入し、腹部をもう一方の手で押して、骨盤の中の状態を両手で挟み込むようにして診察する方法(内診)があります。熟練した婦人科医によって行われる内診では、子宮や卵巣、卵管等の婦人科の臓器がどのような状態であるかということや、周囲の臓器との関係、癒着の有無などが推測可能で、他の検査ではわからない情報が得られることもあります。
*4 子宮頸部細胞診、子宮体部細胞診

内診を行う際に、子宮頸部細胞診検査、子宮体部細胞診検査が行われることがあり、とくにがんが疑われる場合には必ず行われる検査です。
子宮は洋梨を逆さにしたような形をしていて、腟側の細い部分を子宮頸部、その奥のふくらんだ部分を子宮体部と呼んでいます。子宮頸部に発生するがんを子宮頸がん、子宮体部に発生するがんを子宮体がんと呼びますが、卵巣がんと合併することや各々のがんが卵巣へ転移することにより卵巣腫瘍として診断されることがあるため、検査されます。
その他、腹水がある場合には腹水が卵管を通って子宮体部や子宮頸部に流れ出てくることや、帯下として腟から出てくることがあり、がん細胞の有無を調べることで卵巣がんの診断に役立つことがあります。
*5 経腟超音波検査

腟に超音波のプローブを挿入して行う超音波検査のことで、お腹から行う超音波検査(経腹超音波検査)よりも、観察したい臓器(子宮、卵管、卵巣)への距離が近く、解像度の高い画像が得られるため、卵巣がんを含む卵巣腫瘍の診断に役立つ検査としてほとんどの施設で行われる検査です。
*6 腫瘍マーカー
がんの診断、治療には、種々の腫瘍マーカーが用いられています。卵巣がんには、とくに血液中に存在する糖蛋白に分類されるCA125という腫瘍マーカーが診断及び治療の効果判定、治療後の経過観察等に用いられています。
卵巣がんの患者さんでは、およそ80パーセント以上に陽性となるという報告がありますが、良性疾患でも上昇することがあること、他の悪性腫瘍で腹膜播種でも上昇することが知られていて、この値が高いというだけでは卵巣がんの診断はできません。ただし、CA125が著しく高い値で、骨盤内に腫瘍がある場合には、非常に高い確率で卵巣がんであり、医師によっては手術前に卵巣がんと断言する医師もいます。
コア蛋白関連抗原 | CA125、CA130、CA602 |
---|---|
母核糖鎖関連抗原 | CA546、CA72-4、STN |
基幹糖鎖関連抗原 | CA19-9、SLX |
胎児性蛋白 | CEA |
その他 | GAT |
胚細胞腫瘍 | AFP、hCG、SCC、LDH |
性素間質性腫瘍 | estrogen、androgen、inhibin-A# |
#:保険適応外
*7 手術の必要性(卵巣がんの確定診断)
卵巣は、他の臓器と違って、お腹の中にあり、腫瘍もお腹の中に発生しますから、他の臓器のように直接針を刺して細胞を調べたり、内視鏡で見て一部を採るということができません。
また、卵巣がんの場合には、がんがお腹の中で破裂したりすると急性腹症と呼ばれる緊急手術が行われる重大な状態になったりすることがあること、針を刺して腫瘍をおおう膜を破ってしまうと、がんが広がってしまったりする可能性があることから、悪性腫瘍である卵巣がんか、良性の腫瘍であるかについては、手術を行った結果で判明することなので、患者さんの状態が悪い状況など、医師が手術が適さないと判断する場合を除いて、まず手術が行われます。
行われる手術の意義としては、卵巣がんかどうかという診断、卵巣がんの広がりがどの程度ということを正確に診断し、どのような治療が適しているかを決めるためという診断的な意義と、可能な限り、がんを体から取り除くという治療的な意義の両方があり、卵巣がんにおける手術の重要性は非常に高いものと言えます。
*8 卵巣がん
卵巣は子宮の両わきに各1つずつある親指大の楕円形の臓器です。生殖細胞である卵子はここで成熟し放出され、また、周期的に女性ホルモンも分泌されます。卵巣の病気は急性の卵巣炎などでないかぎり、ほとんど自覚症状がありません。卵巣が腹腔内という広いスペースに、フワフワと動く状態となっていて、消化管の外にあるためです。たいていは病気が進行して、腫瘍がかなり大きくなって、はじめて異変を感じるということになります。
卵巣にできる腫瘍の85パーセントは良性ですが、その発生する組織によって大別されます。その多くは卵巣の表層をおおう細胞から生じる上皮性腫瘍で、この中には良性腫瘍と悪性腫瘍(がん)の他に良性、悪性の中間的な性質をもつ腫瘍(中間群)があります。
上皮性腫瘍はさらに5つの細胞型に分かれ、それぞれ転移しにくいものや転移しやすいものなどの性格をもっています。卵巣がんの90パーセントは卵巣の表層をおおう細胞を由来として発生する上皮性腫瘍で、卵巣がんというと、卵巣から発生した上皮性腫瘍を意味します。
卵巣がんの正確なデータはありませんが、一般に増えていると見られ、とくにこの20年ぐらいの間に倍増しているといわれています。
最近では毎年約6000人の方が新しくがんになり、約4000人ぐらいの方が卵巣がんで亡くなっていると推定されています。婦人科がんの中では、最も死亡率の高いがんともいわれます。

*9 卵巣がんの症状
卵巣がんは、腹部膨満感、腹部不快感、便秘・下痢等の便通異常、月経異常、腰痛、全身倦怠感、頻尿、吐き気、食欲不振等、卵巣がんに特別とは言えない症状で病院を受診して、診断されることが多いです。
卵巣は腹腔というお腹の中の空間のうち、骨盤というスペースに余裕のある場所に存在するため、腫瘍がかなり大きくならないと症状が出ないことが多いためと言われています(妊娠した子宮を入れておけるくらいのスペースがある、と考えるとよくわかると思います)。そのため、多くの患者さんが進行した状態で診断されているのが現状です。
- 早期の段階では、ほとんど症状がない
- 腹痛
- 腹水によるお腹の腫れ
- ガスがたまる
- 骨盤への圧迫
- 満腹感
- 体重増加
- 疲労
- 食欲減退
- 頻尿
- 吐き気・嘔吐
進行すると、下記のような症状が現れる
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