卵巣がん化学療法に増える選択肢 適応拡大のリムパーザと遺伝子検査なしで使える新薬ゼジューラ
新規PARP阻害薬ゼジューラは遺伝子検査なしで初回から使用可
リムパーザに続き登場したゼジューラ(一般名ニラパリブ)が日本で承認されたのは、2020年9月。以下の3つの使い方ができるようになった。
①卵巣がんにおける初回化学療法後の維持療法
②プラチナ系抗がん薬感受性の再発卵巣がんにおける維持療法
③プラチナ系抗がん薬感受性の相同組換え修復欠損を有する再発卵巣がん
承認のもととなったのは「PRIMA試験」「NOVA試験」「QUADRA試験」の3つの海外臨床試験と「Niraparib-2001試験」「Niraparib-2002試験」の2つの国内臨床試験だ。
先発のリムパーザとどこが違うのだろうか。
「基本はリムパーザと同じ作用機序のPARP阻害薬です。使用する場合はリムパーザと同じですが、リムパーザが1日2回の服用に対し、ゼジューラは1日1回です。薬物の血中濃度の半減期が長いため、1日1回の服用ですむというように、薬剤には個性の違いがあります。
しかし、最大のメリットは初回治療においてはBRCA遺伝子変異の有無に関係なく、つまり、遺伝子診断を受けなくても、またHRD検査を受けなくてもゼジューラは使えることです。副作用としては、血小板が減る頻度が高く、倦怠感はゼジューラのほうが少ないという感じですね」と平嶋さん。
乳がんや卵巣がんの5~10%を占める遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の原因はBRCA1/2の変異とされているが、「患者さんの中には自分の遺伝情報も、娘さんなどご家族の情報も知りたくないと、遺伝子検査を拒否する人もおられます。そうした患者さんに対して遺伝子検査を必要としないゼジューラが使える、しかも初回から使えるのです」(表3)

卵巣がんでも「治療に先立ちがん遺伝子検査」の方向へ
ただ、がん治療の大きな流れは治療に先立ち、がん遺伝子パネル検査を行う方向に向かっている。
「卵巣がんにはたくさんの遺伝子変異があり、明確ながんドライバー遺伝子がほとんど見つかっていない状況で、がん遺伝子パネル検査をしても実際に使える分子標的薬は非常に少なく、治療に役立てられる患者さんは現状では、多くありません。けれども、将来的には間違いなく、卵巣がんでもがん遺伝子パネル検査を先行する方���に向かうと考えられます」
卵巣がんに対するほかのPARP阻害薬の試験も活発に進められている。例えば、ルブラカ(一般名ルカパリブ/日本未承認)は有効性がかなり期待されているそうだ。また、ヴェリパリブ(Veriparib:一般名)では、「TC療法」と「TC療法+ヴェリパリブ」と「TC療法+ヴェリパリブ+ヴェリパリブ維持療法」の比較試験が行われている。
さらに、免疫チェックポイント阻害薬の試験も今日、卵巣がんでも続々行われているという。抗PD-1抗体薬オプジーボ(一般名ニボルマブ)やキイトルーダ(一般名ペムブロリズマブ)、抗PD-L1抗体薬バベンチオ(一般名アベルマブ)やテセントリク(一般名アテゾリズマブ)などは、卵巣がんにおける奏効率は10%程度とされるが、中には劇的に効く患者(スーパー・レスポンダー)さんがいて、効果も長く続くことが知られている。
「再発例で、オプジーボ対抗がん薬の試験も行われましたが、残念ながら効果が確認できませんでした。しかし、オプジーボでは1次治療についての試験も行われていますし、キイトルーダはゼジューラとの併用で高い効果が得られるという報告もあります。
キイトルーダは『標準的治療』抵抗性で高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)陽性の再発例に対して、すでに承認されています。今後は今行われている抗がん薬やPARP阻害薬、免疫チェックポイント阻害薬などさまざまな組合せの試験により、併用療法などの有効な治療が出てくるでしょう」
再発後の治療手段が少なかった卵巣がんにも、多くの可能性が開けてきているといえそうだ。
同じカテゴリーの最新記事
- 第75回日本産科婦人科学会 報告 ~慈しみの心とすぐれた手技をもって診療に努める(慈心妙手)が今年のテーマ~
- 2つのPARP阻害薬の力で大きく進化! 卵巣がん治療最前線
- 卵巣がん化学療法に増える選択肢 適応拡大のリムパーザと遺伝子検査なしで使える新薬ゼジューラ
- 進行・再発卵巣がんに選択肢が増える 初回治療から分子標的薬リムパーザが使える!
- 無作為化比較試験(JCOG0602)結果がASCO2018で報告 進行卵巣がんにおける化学療法先行治療の非劣性認められず
- 子宮頸がんはアバスチンを加えた3薬剤、子宮体がんではダヴィンチ、卵巣がんには新薬リムパーザが
- 待望の新薬リムパーザ、日本でも承認・販売! 新薬登場で再発卵巣がんに長期生存の希望が見えてきた
- 根治性、安全性、低侵襲性実現のために様々な術式を開発、施行 婦人科がん手術の現状
- 婦人科がんの難治性腹水に対する積極的症状緩和医療 腹水を抜き、必要な成分だけ戻す「CART」に期待