dose-denseTC療法も再脚光を ICI併用療法やADC新薬に期待の卵巣がん

監修●岡本愛光 東京慈恵会医科大学産婦人科講座主任教授
取材・文●菊池亜希子
発行:2023年10月
更新:2023年10月


dose-denseTC療法を見直すワケとは?

「ここで思い出してほしいのが、日本人のみが参加した試験(JGOG3016)で結果を出したdose-denseTC療法です」と岡本さん。

dose-denseTC療法は、先述の通り、日本人対象のJGOG3016試験でTC療法と比較して明らかな有効性を示しました。このdose-denseTC療法で注目すべきは、アバスチンを投与しないのに同等の効果があったことです。

「アバスチンの有害事象には高血圧、タンパク尿、さらに頻度は少ないですが消化管穿孔を起こすことも報告されています。また、アバスチンは使い始めて2年ほどで薬剤耐性になることがわかっているので、初回治療から使うのがよいのかという問題も大きいのです」と岡本さん。

世界を見ると、アバスチンは初回治療のみ、もしくは再発時のみと制限している国が多いそうです。そんな中、日本では、アバスチン投与の制限はありません。

「臨床の実感では、初回からアバスチンを使うより、再発で使ったほうが効果が高いと感じています。実際、ハザード比の数値もそれを示しています。そうしたことを考え合わせると、初回治療でdose-denseTC療法を行い、再発したらアバスチンを導入するのが、現時点ではいちばんよいのではないかと私は思っています」と岡本さんは述べます。

手術直後の初回治療ではアバスチンを使わないほうが体に優しく、薬剤数が少ないので経済的にも優しい。加えて、アバスチンを、より効果が期待できる再発時にとっておけるのがdose-denseTC療法の利点といえそうです。

第Ⅲ相DUO-O試験によってイミフィンジ+リムパーザ+アバスチンの3剤併用療法が結果を出し、今後、解析が順調に進めば、数年後には卵巣がん治療に承認される日がくるでしょう。「そのときには、卵巣がん初回治療の方向性が2つに分かれるのではないかと予想しています」と岡本さん。

「治療費が高く有害事象も覚悟したうえで新しい3剤併用療法にするか、日本人で効果が高く体にもお財布にも優しいdose-denseTC療法にするか、の2通りです。現状、3剤併用療法が未承認の今、日本人に最も合う初回治療はdose-denseTC療法と考えますが、DUO-O試験が話題となっている今こそが、dose-denseTC療法について改めて考え直すきっかけになるのではないかとも思っています」

抗体薬物複合体(ADC)新薬の承認はいつ頃に?

ASCO2023では卵巣がんでもう1つ、抗体薬物複合体(ADC)の有効性が示されるという大きな話題がありました。

卵巣がんは、粘液性がんを除くと葉酸受容体αが50~80%以上に発現しているため、これをバイオマーカーとし、葉酸受容体αに結合する抗葉酸受容体αと抗がん薬を組み合わせたADCのmirvetuximab soravatansine:MIRV(一般名ミルベツキシマブ ソラブタンシン)が開発され、その有効性を明らかにすべく第Ⅲ相MIRASOL試験が行われました。

MIRASOL試験では、葉酸受容体α高発現、プラチナ系抗がん薬抵抗性、高異型度上皮性卵巣がん患者を対象に、MIRV群と化学療法群を比較しました。その結果、PFS中央値はMIRV群が5.62カ月、化学療法群が3.98カ月。OS中央値はMIRV群が16.46カ月、化学療法群が12.75カ月となり、PFS、OSともにMIRV群が上回りました(図4)。

「特筆すべきは、プラチナ抵抗性に対して有効性が明らかになったことです」と岡本さん。これまで、プラチナ系抗がん薬に耐性ができた卵巣がんには既存の化学療法しか術がなく、たとえ一時的に効いてもすぐに再発してしまっていたといいます。

「プラチナ抵抗性に新しい選択肢が出てきたのは非常に素晴らしい。今後承認されれば、プラチナ抵抗性で葉酸受容体αが発現していれば、MIRVを使う流れになっていくでしょう。これはとても大きな進化です」

第Ⅲ相MIRASOL試験の解析結果はOSまで出ているので、承認も間近でしょうか?

「MIRASOL試験データには日本人が入っていなかったので、承認されるには日本人での比較試験が必要になるかもしれません。それを考えると数年かかるかもしれませんが、実は同じく葉酸受容体αをターゲットにしたMORAb-202試験が現在行われていて、こちらには日本人データが入っています。順調にいけば、こちらの承認が早まるかもしれないと私も期待しています」

アバスチンはいつ使うのがよいでしょうか?

さらに注目すべきは、「MIRASOL試験はアバスチン治療歴の有無でOSに有意差が出たことです」と岡本さん。

「アバスチン投与歴がない場合のOSハザード比は0.51、投与歴がある場合は0.74で、明らかにアバスチン投与歴がない患者さんのほうがMIRVの有効性が高いことがわかったのです」

ただ、MIRVはプラチナ抵抗性が対象。プラチナ抵抗性の多くは、日本ではすでにアバスチンが投与されているのではないでしょうか。

「現状、卵巣がん薬物療法には早くからアバスチンが入ることが多いので、プラチナ抵抗性になる前段階でアバスチンが投与されている症例がほとんどです。でも、初回治療でdose-denseTC療法から維持療法でゼジューラを行い、その後再発してプラチナ製剤を使っても効果を得られなかったという経緯をたどっていれば、アバスチン投与前にADCを使えることになるかもしれません」

やはり、「アバスチンの使いどころを考えたほうがいい」と岡本さんは強調し、こう締めくくりました。

「MIRASOL試験の結果からも、初回治療からアバスチンを使うことには慎重になったほうがよいでしょう。再発時に使用したほうが、より効果的にアバスチンを活用できると思うのです」

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