諦めないで、切除不能がんも積極的治療で手術可能に 膵がんの術前化学IMRT放射線療法で根治が望める
術後の抗がん薬治療が根治への道
膵がんでは、術後の化学療法も根治へ導く重要なファクターだと永川さんは強調する。
「いくら術前治療がうまくいき、根治手術ができたとしても、術後の化学療法がうまくいかないと再発してしまいます。ですからそのためにも、術前治療、そして手術をうまく遂行し、合併症を抑えて、患者さんのQOLを保つクオリティの高い治療を実施しなくてはならないのです」
永川さんらは、術後の治療に悪影響を与えないために、高い根治率と術後QOLを配慮した手術を行っている。永川さんが開発し、行なっている選択的膵外神経叢(そう)郭清術は難度が高いが、精密な術式だ。
術後の化学療法では、TS-1の投与を半年くらい継続する必要がある。治療を完遂できない場合には、再発転移してしまう可能性が高くなるからだ。
「今後、薬物療法で期待しているのは、術前治療でTS-1の代わりに*アブラキサンという抗がん薬が使えるようになることです。現在、アブラキサンは切除不能の進行膵がんに対してのみ保険適用ですが、この薬が切除可能な膵がんに対して術前治療でも使えるようになると、さらなる治療効果が期待できると思います」
他にも*FOLFIRINOX(フォルフィリノックス:5-FU+レボホリナート+カンプト/トポテシン+エルプラット)という薬物の組み合わせ(レジメン)や、*タキソールという抗がん薬の併用による術前治療についても期待されているという。
*アブラキサン=一般名ナブパクリタキセル *FOLFIRINOX療法(5-FU+レボホリナート+カンプト/トポテシン+エルプラット)=一般名(フルオロウラシル+ロイコボリン+イリノテカン+オキサリプラチン) *タキソール=一般名パクリタキセル
膵体尾部へは腹腔鏡下手術が最適
膵がんの手術における今後のトピックは、膵体尾部(すいたいびぶ)に対する腹腔鏡下手術だと永川さんは話す(図4)。
「膵臓の真ん中から左側に位置する膵体尾部は、背中側の奥のほうにありアプローチが難しいのですが、これに対して、腹腔鏡下手術を行うと、視野を確保しながら、がんをきれいに切除することができます。出���も少ないし、合併症も少ないので患者さんの術後の回復も劇的に進みます。術後に抗がん薬治療を完遂するためにも適切な術式だと考えています」
この手術は、2年前に保険適用になったが、技術的には難しい手術であるため、安全性の面から、永川さんらを含めた、ごく限られた施設のみでしか実施されていない。
「今後は、少しでもこの手術が普及することが望まれます。また、膵がんの手術の中でも最も多い、膵頭・十二指腸切除についても、腹腔鏡下手術に保険が適用されることを期待したいです」
現在、腹腔鏡下手術については、高度な技能を持つ外科医に対して、日本内視鏡外科学会が技術認定をしているが、技術認定医を持ち、膵体尾部に対する腹腔鏡下手術を行っている外科医は全国でわずかしかいない。永川さんはその1人だ。
「現時点では、腹腔鏡下手術のみならず、膵がんの手術は症例数の多い病院や医師の元で受けるのが賢明だと思います。また診断から術前治療、手術、術後治療まで、集学的に行えるチーム医療がしっかり機能している病院がいいでしょう」
膵がんと言われても諦めない
今年(2018年)6月に開かれたASCO(米国臨床腫瘍学会)では、オランダの施設での、切除可能な膵がん患者246人を対象に、術前化学療法群と即時手術群に割り付けて行われた、第3相ランダム(無作為)化比較試験の結果が報告された。
その結果は、全生存期間(OS)中央値は、即時手術群が13.7カ月に対し、術前化学放射線療法群は17.1カ月だった。さらに、根治手術ができた割合は、即時手術群では31%に対し、術前化学放射線療法群では63%だった。
またIMRTに対する臨床試験も国際的にさまざまに行われているようだ。
放射線治療では、IMRTと同じ高精度放射線療法であるSBRT(体幹部定位放射線療法)や、粒子線治療である重粒子線治療なども期待されている。
膵がんは、手術、放射線治療、化学療法それぞれの集学的治療の進歩により、治療の選択肢が増え、今後ますます治療成績が向上することが期待される。
最後に永川さんは、こうアドバイスをくれた。
「膵がんを宣告されると、ネットの情報などを検索して、絶望して諦めてしまう方も多いのですが、決して諦めないでください。膵がんの治療は進化しています。
もし、手術不能と言われても、諦めずに膵がんの知識のある専門病院で相談してください。また、膵がんは早期発見が難しいがんですが、すでに糖尿病を患っている方で、急に血糖値がコントロール不能になるというような症状がある方は、やはり専門医に相談して、ぜひ造影CT検査を受けてください。少しでも早く病気をみつけることが、根治へ導くための道です」
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