難治の局所進行膵がん治療に効果を発揮 患者さんにとって治療の選択肢に!?膵がんの粒子線治療の可能性
高い効果の半面重い合併症には注意したい
ただし、細胞を殺す力が強いということは、治療中に何か不具合があると、大変厳しい状況になることも意味する。
「一定線量以上の粒子線が胃や十二指腸にあたると、潰瘍ができたり穴が開いてしまうなど、粒子線によって消化管に障害が出たら非常に治りにくいことが多く、治らないこともある。食事ができなくなったり、感染がいつまでも続いたりします。もちろん合併症を少なくする対策をとりますが、危険はゼロにはなりません」
治療を受ける際には、そうした合併症が起こり得ることも、患者さんはきちんと知っておく必要があるだろう。
スペーサー留置と術前粒子線の可能性

粒子線治療は適応を広げる可能性が探られているところだ。1つの工夫として神戸大学医学部付属病院で行われて いるのは「スペーサー留置」という、照射の際に消化管を避ける方法である。
膵臓に隣接する胃や十二指腸、結腸などを守るために照射範囲や線量が制限されるので、腸管近くにがんがあると粒子線を照射できない。そこで腫瘍の周りにスペーサーを配置することで、スペースをつくり、他の部位を避けて、がんの部位だけの照射を可能にする。スペーサーには、本人の脂肪や、ゴアテックスといった素材のシートを用いる。
「粒子線は、放射線と違って非常に狭い範囲にも当てられるので、1センチのマージンがあれば照射できます。膵頭部は十二指腸と切り離せないので難しいのですが、膵体尾部では、がんと胃の間にゴアテックスを挟み込むことで粒子線を照射できるようになります」
そしてもう1つの方向性として、粒子線治療を術前治療に用いることが考えられている。
「病期の早い患者さんを対象に術前治療への適応が試みられています。粒子線治療を前倒しで行うという発想です」
具体的には、画像上切除可能あるいは切除ができるかどうか難しいボーダーラインと診断されたケースに、手術前に50.4~67.5グレイの照射とジェムザールの化学療法を併用した粒子線治療を実施する。
「膵がんは切除可能であ���ても術後の再発が少なくない。ある程度進行したがんについて、術前に周辺も含めて照射しておくことで、術後の再発を防ごうという試みです。この術前治療に見込みがあると考えられます」

検討するなら、まず膵がんの専門医に相談を
このように望みをかけられる粒子線治療だが、外山さんは、患者さんが粒子線治療を検討する際には、「遠隔転移がなく、局所コントロールの効果が予後にどの程度寄与するかを見極めることが重要なポイントになるので、事前に膵がんに詳しい内科、外科、放射線科で専門医に判断してもらうのが望ましい」と話す。
もう1つ考えておきたいのは、治療費が高額になることだ。神戸大学医学部付属病院と兵庫県粒子線医療センターでは、化学療法を併用した粒子線治療は、臨床試験といえども患者さんの自己負担は300万円程度かかる。
「粒子線は今まで照射が難しかった膵がんにも適応でき、局所コントロールの効果は高いことが明らかになっています。消化管を保護するための工夫もあります。膵がんの治療選択肢の少なさや治療成績の低さを考えると、こうした治療選択肢があることは患者さんにとって大きなメリットだと思います。そういう点に希望を見出していきたいですね」
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