ジェムザールとTS-1の併用など、新たな治療法に光明が 治療が難しい「再発膵がん」の最新治療
標準的治療はジェムザールによる化学療法
再発した場合も、治療ガイドラインに沿って、治療を進めていきます。わが国のガイドラインには、再発膵がんに対する記載がないので、米国(NCCN)のガイドラインを参考にしています。ただし、術後の再発であることが明らかな場合は、ガイドラインにある組織検査は行いません。患者さんの身体への負担が大きいからです。
胆道(肝臓でつくられる胆汁を十二指腸まで運ぶくだ)が閉塞して黄疸が出ている人には、まずステントを入れる治療をします。再発がんが確認されれば全身状態がひどく悪い場合などを除き、ほとんどの方が化学療法を受けられます。
現在、膵がんに関しては、ジェムザール(一般名塩酸ゲムシタビン)という抗がん剤の効き目が唯一、認められています。
遠隔転移のない手術のできない局所進行型の膵がんの場合でも、放射線療法よりジェムザール単独の治療のほうが治療成績はいい、というデータが出ています。
ジェムザールを使う標準的治療は非常に簡単です。外来で週に1回、約30分間の点滴をするだけです。それを3週間(計3回)続け、1週間休みます。これが1コースです。
再発後にジェムザールで標準的治療をして、約半数の人が半年間生きられるといったデータが出ています。全身状態のいい人だけを集めれば、1年近くになります。
手術はできないものの、がんが局所にとどまっている4a期の人の場合でも、ジェムザールやあとに説明するような併用療法で2~3年生きられる場合もあります。中には、5年以上生きておられる方もいます。全体的には悲観的な生存率ではありますが、その方の状態によって、結果は違ってきます。
TS-1・ジェムザール併用療法で期待される効果
再発の診断・治療は重要ですが、いまだに標準的なものは確立されていません。
ジェムザールと新規の薬剤とで、単独または併用した臨床試験が行われてきました。その結果、統計的には、ジェムザール単独に勝る薬はないことが明らかになっています。
唯一、分子標的薬であるタルセバ(一般名エルロチニブ)��併用した場合に、ジェムザール単独よりも、やや平均生存期間が延びましたが、その差はわずか10日間です。高価なタルセバを入れても、生存期間はほとんど変わらず、副作用は重くなります。
今後、再発膵がんの標準的治療のエビデンス(科学的根拠)を確立していくためには、病院ごとに異なった診断や治療の経験を蓄積していくのではなく、多施設の参加による大規模な臨床試験を行い、科学的根拠を作り上げていくことが必要です。
NCCNのガイドラインでも、ジェムザールによる治療と並んで、臨床試験に参加することが推奨されています。
当センターでは、ジェムザールを使う標準的治療の他に、ジェムザールとTS-1(一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤)の単剤同士の比較や、併用療法の効果を調べる臨床試験を行っています。この臨床試験は全国の施設が参加する大規模なものです。
TS-1は、ジェムザールが登場する以前に膵がんで使われていた5-FU(一般名フルオロウラシル)の成分をもとに、日本で開発された薬です。毎日朝夕2回ずつの服用を4週間続け、2週間休むというのが1コースです。
ジェムザール単独よりも、TS-1との併用療法のほうが、効果の大きいことが、予想されています。
当センターでは、TS-1を先に使う併用療法を行っています。このほうが、ジェムザールを先に使ったり、ジェムザールとTS-1を同時に使ったりする併用療法よりも、より大きな効果が出るというデータを得ました。平均生存期間は、9.4カ月でした。3年以上生きておられる方もいます。
ただし、この成績は、手術後に再発した人のみを対象としたものではありません。身体状態のいい、切除不能な膵がんの人たちも含めたデータです。
動物実験では、他の併用療法や各抗がん剤の単独使用とくらべ、がんが顕著に小さくなっているのが確認されています。
難点は、副作用が大きくなることです。ジェムザールを単独で使用した場合の1.5倍ぐらい増えます。
副作用の症状や程度は患者さんによって異なりますが、発熱や吐き気、むかつきなどが出る場合があります。白血球や血小板の減少や、まれな肺線維症にも注意する必要があります。ただ、患者さんが気にされる脱毛はほとんど起きません。

[TS-1先行+ジェムザールが効いた症例]

ジェムザールが効かなくなった場合にどうするか
再発しても、ジェムザールの効果があれば、長生きできます。問題は、ジェムザールが効かなくなった場合の治療です。
当センターで、ジェムザールや5-FU、あるいはその両方が効かなくなった34人(このうち約7割が再発がん)を対象に、前述のTS-1先行のジェムザールとの併用療法を行ったデータがあります。
その結果、1年生存率は約70パーセント、2年生存率も約26パーセントありました。肝臓への転移がほとんど消えた人もいます。かなり効くのかな、と思っています。
ただ、ジェムザールとTS-1を使って、いったんがんが小さくなったり、消えたりしても、また大きくなってきたときに、今は保険適応で認められた薬がありません。
新しい薬を探すために、現在、TS-1とエルプラット(一般名オキサリプラチン)や、TS-1とカンプトやトポテシン(一般名イリノテカン)といった組み合わせで臨床試験が始まっています。違う系統の薬なので、ジェムザールが効かなくなった人にも効果があるのではないか、と期待されています。
これらの抗がん剤は、膵がんでは保険適用がないので、今は臨床試験でしか使えません。
注目されるジェムザールとワクチンの併用療法
膵がんをめぐる最新の動きで注目されるのは、東京大学の医科学研究所の中村祐輔さんらが設立したベンチャー企業が主体となりジェムザールとワクチンを併用する治療法を考案したことです。現在、全国のいくつかの施設で臨床試験が行われています。当センターでも、その治療を受けることができます。
ただし、これはまだ何の治療も受けていない人が対象で、白血球の型(HLA)が限定されています。日本人でその型の人は6割です。
膵がんは悲観的な病気ですが、少しは状況が改善されつつあります。まず、今できることをできる限りすることが1番と思って、日々治療に取り組んでいます。
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