膵臓がん、これだけは知っておきたい基礎知識 手術だけでなく化学療法の進歩にも期待

監修:宮崎 勝 千葉大学大学院臓器制御外科学教授
取材・文:柄川昭彦
発行:2008年5月
更新:2013年4月

食生活の欧米化に伴い年々増えている

膵臓は、消化液を分泌する横長の臓器で、その中央を主膵管が通っている。作られた膵液は、細い膵管を通って主膵管に合流し、最終的には胆管と一緒になって、十二指腸につながっている。

膵臓は、十二指腸に近いほうから、膵頭部、膵体部、膵尾部と呼ばれていて、それぞれの部位にできたがんを、膵頭部がん、膵体部がん、膵尾部がんと呼ぶこともある。

[膵臓の仕組み]
図:膵臓の仕組み

膵臓は、十二指腸に近いほうから「膵頭部」「膵体部」「膵尾部」に分けられる。内部は膵管が網の目のように走っており、その中心にあるのが主膵管

胆道がんのように、できる部位によってがんの性質が異なるということはないが、膵頭部にできたがんと、膵体部や膵尾部にできたがんでは、切除手術の術式は大きく異なっている。

[膵がん死亡数の推移]
図:膵がん死亡数の推移

[膵がんのリスクファクター(現在までの報告)]

嗜好品 喫煙 飲酒 コーヒー
食生活 肉類 高カロリー食 高脂肪食 砂糖
既往歴 糖尿病 慢性膵炎 遺伝性膵炎 膵石症 胃切除後 胆摘後 歯周病 ヘリコバクターピロリ感染
肥満(BMI↑)
職業(化学物質の被曝)
放射線
家族歴 膵がん 遺伝性膵がん症候群

膵臓がんも、胆道がんと同じように、年々増えているがんの1つだ。

「各種のがんの罹患率の変化をグラフにすると、膵臓がんと大腸がんは、傾きがだいたい一緒になります。患者数は違うのですが、増加率がだいたい同じということ。大腸がんは食生活の欧米化や運動不足が関係しているのではないかと言われていますが、膵臓がんでもだいたい同じような疫学データが出ています。膵臓がんのリスクファクターとしてあげられているのは、高カロリー食、肥満、���尿病、喫煙などです」

胆道がんのリスクファクターとも、内容はほとんど重なっている。ただ、どのような人に多いのかがわかっても、早期発見のための有効な検査方法はないのが現状だ。

発見されたときには進行していることが多い。

膵臓がんは、早期に発見するのが難しい代表的ながんである。発見されたときには、すでに周囲に浸潤していたり転移していたりすることがほとんどだ。

「膵臓がんがステージ3、ステージ4で発見されることが多いのは、体の奥にある臓器で異変を発見しにくいこともありますが、膵臓がん自体の問題でもあります。通常、がんは大きくなると転移が起きやすくなりますが、膵臓がんは、かなり早い時期から遠隔転移を起こしてしまうのです」

そのため、発見されたときには、すでに進行がんというケースが多いのだ。さらに、膵臓がんには、周囲の組織に浸潤しやすいという困った性質がある。

「腫瘍が膨張するように発育するがんは、手術で切除しやすいですね。これを膨張性発育といいます。膵臓がんは、浸潤性発育といって、あちこちに手足を伸ばすように広がっていきます。こういった発育をするがんは、境界が不明瞭なので、手術で切除するのに苦労します。切除したつもりでも、思わぬところに手足を伸ばしていて、取り残すことになりかねないのです」

つまり、膵臓がんは、手術可能な早期の段階で発見するのが難しいし、たとえ切除手術ができたとしても、根治手術をしそこなうケースが少なくないのだ。

膵臓がんの手術は難しい手術の代表格

膵臓がんも胆道がんと同様、根治的治療となると切除手術しかない。切除手術は難易度が高く、専門性を要求されるので、膵臓がん手術の症例数の多い施設で受けることが望ましい。

「合併症の起きやすい難易度の高い手術では、症例数によって術後成績に大きな差が出ることが確かめられています。膵臓がんの切除手術も、経験による差が出やすい代表的な手術だといえます」

手術を受けるのであれば、どこで受けるのかを慎重に検討したほうがよいだろう。

ただ、手術が可能なケースは、残念ながらさほど多くはない。発見された時点で、手術はできないと診断されることのほうが多いのだ。手術できない膵がんには、局所進行しているケースと、遠隔転移しているケースがあり、それぞれ標準治療は異なっている。

局所進行している場合、つまり明らかな転移が見つからない場合には、化学療法が標準治療となっている。ジェムザール(一般名 塩酸ゲムシタビン)およびTS-1による治療と、場合により放射線療法も同時に進めることもある。

転移がある膵臓がんの標準治療は、ジェムザールによる化学療法だ。ジェムザールは、それ以前に使われていた5-FUに比べ、生存期間を延ばすだけでなく、痛みなどの症状を緩和する効果も認められている。

このジェムザールおよびTS-1に関しては、手術後の補助療法での効果を調べる大規模な臨床試験が進められている。治療が困難ながんだけに、診断や治療に関する新しい研究に期待したい。


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