渡辺亨チームが医療サポートする:膵臓がん編
渡辺亨チームが医療サポートする:膵臓がん編―3
石井浩さんのお話
*1 腫瘍マーカー
腫瘍マーカーはがん細胞やがんに対する体の反応によってつくられる特徴的な物質です。血液や尿などで、それが増加しているのを調べ、がんがあるかどうか、悪化しているか改善しているかを判断する目印となります。
がんの場所によって反応する腫瘍マーカーの種類はさまざまです。CA19-9という腫瘍マーカーは膵臓がんに対して約70パーセント反応するので、その病状を判断する目安として最もよく用いられます。また、膵臓がんに対してCEAという腫瘍マーカーは約40パーセント、エラスターゼ1という腫瘍マーカーは20パーセント強反応します。
*2 ジェムザール不応性
現在のところ、膵臓がんの標準的治療法はジェムザール単剤での治療ですが、この治療は有効であっても決して満足できる成績を示すことはできていません。しかし、それを超えるエビデンスのある治療法はないのが現状です。
このジェムザールも3~6カ月使用すると、薬が効かなくなりがんが進行するようになってしまうことが少なくありません。そこでジェムザール不応性が出た後、どう治療していくかが問題になります。
これまで行われてきた臨床試験で、いくつかの「有望かもしれない」ということを示唆する結果は出ていますが、現時点では「これがいい」というセカンドライン(第2次治療)は確立していません。
一方、ジェムザール不応性が出た患者さんの6割くらいは、残念ながらその時点で、次の抗がん剤治療ができる全身状態ではありません。すでに余命1カ月か2カ月という病状になっていることが多いのです。
ですから、全身状態が比較的よくて、その後も化学療法を頑張れるかもしれない、という人は残りの4割ぐらいです。
*3 TS-1
TS-1は日本人の白坂哲彦博士が開発した代謝拮抗剤と呼ばれる経口の抗がん剤です。がん細胞の中に取り込まれて5-FU(一般名フルオロウラシル)という抗がん剤に変わるというメカニズムを持っていて、「プロドラッグ」と呼ばれます。
5-FUそのものを投与した場合より、血中の濃度が高くなるため、薬としてより有効性が高くなっています。
従来、胃がん治療に保険適用されていましたが、2006年8月から膵臓がんにも使えるようになりました。膵臓がんについてはジェムザールほどの実績はありませんが、有効性が高いため期待されている新薬です。ファーストライン(第1次治療)をジェムザールとして、セカンドライン(第2次治療)をTS-1とする利用法が多くなっています。
*4 TS-1の副作用
TS-1単独投���による臨床試験で、副作用発現率は9割近くあります。主な副作用は赤血球数減少、白血球数減少、ヘマトクリット減少、好中球数減少、ヘモグロビン減少などの骨髄の働きを抑えられるために起こるものが多く、食欲不振、悪心、倦怠感、下痢、口内炎などの副作用も見られることがあります。副作用の現れ方は個人差がありますが、一般にはそれほど深刻なものはありません。
*5 ジェムザールの副作用
ジェムザールを投与すると6割程度の人に副作用が見られます。多いのは注射した当日から翌日にかけて現れる発熱ですが、通常は数日で回復します。その他、全身倦怠感も現れやすいことが知られています。またジェムザールは血液の成分をつくり出している骨髄に作用して、血液が正常につくられなくなることがあります。その結果、感染症や出血、貧血などの症状が現れやすくなることもあります。しかし、ジェムザールは膵臓がんに使われてきた従来の抗がん剤に比較して一般に副作用が小さく、このことが患者さんにとって大きな福音の1つとなっています。
*6 病診連携
病診連携とは文字通り、病院と診療所の連携プレーを指します。地域の病院が、いわゆるかかりつけ医と連絡をとりながら、それぞれの得意な仕事を役割分担して、患者さんにとってより有益な医療を実現しようというものです。在宅ケアを望むがんの患者さんが増えるなかで、これから大切な仕組みになっていくと思います。ただし、残念ながら、日本ではあまり機能していません。
*7 これから期待できる膵臓がん治療薬
ジェムザール単独投与が標準的な膵臓がん治療とされるのに対して、さまざまな薬剤や併用療法の有用性が世界で検討されています。
そのなかでジェムザールとゼローダやタルセバという組み合わせで若干の延命効果が報告されていますが、有害事象(副作用)が強く現れるなど、これといった治療法が見つかっていないのが現状です。ジェムザールとアバスチン(一般名ベバシズマブ)やアービタックス(一般名セツキシマブ)などの分子標的薬の組み合わせは、新規1次治療として近年大いに期待されましたが、残念ながらジェムザール単独と比べて膵がんでは延命効果はみられないと、最近報告されています。
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