膵がんの最新治療 膵がんは全身病と考え、ジェムザール単剤による化学療法が間違いのない選択

監修:石井浩 国立がんセンター東病院肝胆膵内科医長
取材・文:林義人
発行:2005年11月
更新:2013年4月

自信を持って治療できるようになった

ステージ4の転移性膵がんの治療薬としては、1996年までは5-FU単剤よりも優れた成績を上げるものは見られなかった。しかし、この年にアメリカで、5-FUだけで治療した場合の生存期間が4.41カ月に対して、ジェムザールだけで治療すると5.65カ月という試験結果が報告され、ジェムザールは膵がん治療薬として一躍脚光を浴びるようになったのである。

「私たちが行った臨床試験でも、転移性膵がんに対するジェムザールの効果は、生存期間で、従来の抗がん剤より確実に1~2カ月延長することがわかっており、再現性のあるデータだと思います。しかし、医療界では、これまでジェムザールのがんを縮小する効果は8~10パーセントと弱いことが指摘され、しばしば批判されてきました」

石井さんは、「抗がん剤の作用は腫瘍縮小効果だけではない」と強調する。ジェムザールは、「全体的な抗腫瘍効果」という意味で、従来の膵がん治療薬と比較にならないほど大きなインパクトをもたらしたという。

「たとえば治療1コースを終えたあとのことですが、従来の抗がん剤ではがんが進行(PD)するケースがたくさんあったのに、ジェムザールでは非常に少なくなりました。がんの悪化の目安になるCA19-9やCEAという腫瘍マーカーなどを見ても、数値が治療前に比べて半減する人の割合が、今までの薬に比べて格段に高率になっています。一方ジェムザールは症状緩和の効果が非常に大きいことも評価されるようになりました。いちばん大きいのは疼痛緩和の作用で、痛みの訴えが少なくなったとか、モルヒネの使用量が減ったなど、いろいろ効果を目にしています」

膵がんによく見られる症状の1つに、著しい体重減少がある。食べられなくなって、ガリガリにやせていき全身の衰弱状態を招く。古典的な抗がん剤しかない時代には、この現象を「悪液質(カヘキシー)」と呼んだ。

「ところが、ジェムザールにより、膵がんの患者さんも食事ができるようになり、体重が維持できるようになりました。ジェムザールには『悪液質進行抑制効果』と呼ぶべき効果があるのではないかと私は思っています」

石井さんはジェムザールの力を、何よりも「医者としての経験」の中で感じている。 「従来は膵がんの患者さんに対して、“何かいいこと”をしているという自信を持てず、いつも暗い気持ちで臨床に当たっていました。それがジェムザールの登場で患者さんに対して自信を持てるようになり、明るい気持���で、やりがいをもって、仕事ができるようになったのです」

[ジェムザールの症状緩和効果]
図:ジェムザールの症状緩和効果

進行膵がんで推奨できるジェムザール単剤治療

転移性膵がんに対する第1選択とされるジェムザール単剤を超える治療法はないかと、ここ数年いくつもの無作為化比較試験が行われてきた。ほとんどの試験は、ジェムザールと既存の抗がん剤を組み合わせるというものである。

「それらの試験の結果では、腫瘍縮小効果は高くなります。反面、副作用は重くなり、生存期間が延びたかどうかはっきりしていません。そのなかで、現在いちばん有望視されているのはジェムザールとエルプラット(一般名オキサリプラチン)という抗がん剤の組み合わせです。一昨年のASCO(米国臨床腫瘍学会)で、『もう少しでジェムザール単独を凌駕しそうだ』ということが発表されています。2007年くらいには、この組み合わせが新しい標準治療として認められているかもしれません」

今年のASCOで注目されたのは、既存の抗がん剤に代わって、膵がんだけを目印にしてこれを攻撃する「分子標的治療薬」のタルセバ(一般名エルロチニブ)という薬の登場だった。ジェムザールとタルセバの併用が、ジェムザール単剤に比べて2週間くらいの延命効果があるということが示されている。

「『では、新しい標準治療はジェムザール+タルセバか?』ということになりますが、ASCOではあまりそれを認める空気はありませんでした。延命効果はわずか2週間くらいしかないし、タルセバ群には重篤な皮疹などの有害事象もあり軽視できない、それにタルセバ自体が非常に高価で、治療がきわめて高額になることなどが問題になったようです」

以上の経過を踏まえたうえで、石井さんはこう明言する。

「現時点で局所進行膵がんまたは遠隔転移例で手術不能といわれている場合、間違いなく患者さんにお勧めできるのはジェムザール単剤の治療ですね」

[ジェムザールとエルプラット併用の効果]
図:ジェムザールとエルプラット併用の効果


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