新規腫瘍マーカーでより診断精度向上への期待 膵がん早期発見「尾道方式」の大きな成果

監修●花田敬士 JA尾道総合病院副院長/内視鏡センター長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2024年8月
更新:2024年8月


尾道方式の成果はどうですか?

「5年相対生存率は、国の平均が8.5%ですが、今尾道市では21.4%に上がっています。10年生存も出てきています。計算方法が違うので単純に比較しづらいのですが、全国、広島県の平均値と比べるとかなり改善しています」

現在では、国内で尾道と同様の取り組みを行って頂く地域が増加し、また0~1期の膵がんを発見する契機となる所見が全国で共有されはじめていることから、早期の膵がん患者さんの登録が全国で増加傾向にあります。そのため各種の学会で「膵がん早期診断」についてさまざまな視点で議論する機会が増えています。

「現在、研究者や臨床医の関心が高まっているのは、膵がんの早期診断を目的とした新規のマーカーの開発です。血液検査などで、『あなたは膵がんのリスクありますよ』と精密検査を促すスクリーニング・マーカーの研究が進んでいます」

新しい腫瘍マーカーにどのような可能性が?

腫瘍マーカーの使い方は、「2つの考え方があり、スクリーニング・マーカーとして、どこか悪いところないかと網羅的に見るときに使うケース。人間ドックなどでCA19-9を測っている施設が多いですが、この使い方がスクリーニングです。もう1つは、たとえば、エコーやCTで少し気になる影がある、膵臓がちょっと変形しているなど画像で気になることがあった場合、これが本当にがんかを見極めるために使うのが診断マーカーになります」

2024年2月に保険収載になった「APOA2-iTQ」(アポエーツー・アイティキュー)は、膵がんの診断補助を目的とした腫瘍マーカーです。これまで、膵がんの腫瘍マーカーとして代表的なものに「CA19-9」が、そのほかに「CEA」「Dupan-2」などがあります。

「当院では、APOA2-iTQをこれまでに35例ほど使いました。CA19-9は陰性でしたが、APOA2-iTQが陽性だったので超音波内視鏡を行ったところ、非常に早期の膵がんが見つかった例があり、この新しい腫瘍マーカーに期待しているところです」

これまでの腫瘍マーカーとどこが違うのですが?

「CA19-9では検出できなかった膵がんをうまく拾ってくれるので、合わせて使うと非常に感度が上がると思っています。とくにステージ1の検出に期待をしています。CA19-9はがんタンパクを測定するマーカーで、がんがある程度の腫瘤を作らないと測定が難しいのです。APOA2-iTQは、CA19-9とは異なる物質を測定するため、併せて用いることで早い段階のがんを検出できるという期待があります」

APOA2-iTQは、膵���ん患者さんの血液中で、2種類のAPOA2アイソフォーム量の比が変化することに着目、その濃度を測定する検査薬です。

新規機序の腫瘍マーカーの開発が急速に進んで、早期での膵がんの発見が期待されます。

「APOA2-iTQは、人間ドックや検診に組み入れるにはまだ議論の余地がありますが、エコーを行わなくても膵がんの精査に持ち込むことができるマーカーが他にも現在研究されています。今後、今、この分野で臨床試験結果が出始めているので、こういったものが膵がん超早期発見のブレークスルーのきっかけになるのではないかと期待しているところです」

膵がんも治療に進歩があるのですね?

膵がんの標準治療は、切除可能ならすぐ外科手術を行います。切除不能局所進行でも最近は、薬物療法や放射線治療を行って腫瘍を縮小して手術に持ち込めるケース(コンバージョン手術)が増えてきています。

「膵がん患者さん全体では、従来外科的手術は20%以下、5人に1人が手術できればいいという感じでしたが、現在では30~40%くらいに上がっています。また集学的治療のおかげで、コンバージョン手術を目指して薬物療法や放射線治療も行われるようになりました。昔に比べ、手術に持ち込める率が上がっていることが予後の改善につながっています」

また薬物療法では、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)のイミフィンジ(一般名デュルバルマブ)が、切除不能な胆道がんに承認されています。

また、2024年5月にキイトルーダ(一般名ペムブロリズマブ)+ジェムザール(一般名ゲムシタビン)+シスプラチン(一般名)併用療法が、切除不能の胆道がんの第1選択として承認されました。

「胆道がんにキイトルーダとイミフィンジが使えるようになったのは、患者さんにとって非常に大きな福音です。イミフィンジで肝転移が消えたり、びっくりするくらい効く方がいます。ただ、膵がんは現時点ではどの組み合わせでICIを使えばいいか、まだ十分な知見はありません。しかし、現在多くの臨床試験が行われていますので、効果的な組み合わせの療法が出てくる可能性が大きいです」

膵がん患者さんへのメッセージ

難治がんゆえに、膵がんに関する情報は玉石混交です。

「患者さんに私がガイドラインに従って標準療法をお話する前に、『先生、免疫療法はどうなんですか』、『温熱療法はどうですか』など、エビデンス(科学的根拠)に基づかない治療に皆さんの興味が先へ先へと行っているような傾向が非常に強いと思います」

日本膵臓学会では認定指導医制度があり、HPで都道府県別に専門医・指導医・施設などの情報を提供しています。また、医療者向けのガイドラインを患者・市民向けに易しく解説した手引書もあるので、ぜひ参考にしてほしいと思います。

「まずは正しい知識と情報を、十分な知識と経験を持つ専門医から聞いて冷静に判断してほしいです。しかし、医師に質問してもあまり答えてくれないなど不満があれば、遠慮なくセカンドオピニオンに行ってほしい。そして医療者との話し合いの中で、できうる最大限を見つけ、納得して膵がんの診断・治療に臨んでいくことが大変重要だと思います」と、花田さんは話を締め括りました。

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