手術までの道のりをサポートする膵がんの最新化学療法 抗がん剤の併用療法で手術も可能に!進行膵がんの新手のGS療法

監修:吉富秀幸 千葉大学医学部付属病院肝胆膵外科助教
取材・文:町口 充
発行:2012年10月
更新:2019年7月

TS-1とジェムザールの併用療法

[図3 進行再発膵がんにおける
GS(ゲムシタビン+TS-1併用)療法の効果]
(生存率)
図3 進行再発膵がんにおけるGS(ゲムシタビン+TS-1併用)療法の効果(生存率)

ASCO2011 #4007
GS療法は生存期間を延長する効果では優位差は認められなかった

 
[図4 進行再発膵がんにおける
GS(ゲムシタビン+TS-1併用)療法の効果]
(無増悪生存率)
図4 進行再発膵がんにおけるGS(ゲムシタビン+TS-1併用)療法の効果(無増悪生存率)

ASCO2011 #4007
無増悪生存期間はGS療法がゲムシタビン単剤より優位であった

手術ができない進行再発膵がん834例を対象に、現在の標準治療であるジェムザール単独で治療する群、TS-1単独で治療する群、ジェムザールとTS-1を併用して治療(GS療法)する群の3つに分けて比較したところ、GS療法は、ジェムザール単独よりも生存期間が長くなるとの結果は得られませんでした(図3)。

しかし、TS-1単剤はジェムザール単剤と比べて効果が同等であると証明され、安全性においても良好な結果が得られました。

吉富さんは次のように指摘します。

「この試験の結果から、TS-1も膵がんの最初の治療に使われる薬剤として適切だということがわかりました。また、GS療法では全生存期間は単剤との差がなかったものの、無増悪生存期間(PFS=がんが悪化しない状態で患者さんが生存している期間)はジェムザール単剤よりGS療法のほうが成績はよかったのです(図4)。それなら、手術ができない患者さんにはGS療法を行ってもいいのではないか、というのが私たちの考え方です」

ただし、GS療法は2つの薬剤を併用して行うため、副作用は強く、注意が必要です。主に白血球数の減少や疲労、皮疹、食欲不振、下痢、口内炎、悪心、嘔吐などが比較的強くあらわれます(図5)。

このため吉富さんの病院では、手術ができない患者さんのうち、全身状態の良好な患者さんにはGS療法をファーストラインで行うこともあると言います。

[図5 抗がん剤の種別の有害事象の比較]

有害事象名 ゲムシタビン
(n=273)
TS-1(n=272) GS(n=267)
割合(%) グレート3
以上(%)
割合(%) グレート3
以上(%)
割合(%) グレート3
以上(%)
白血球数減少 76 19 43 4 88 38
好中球減少 68 41 34 9 83 62
血小板数減少 78 11 46 2 81 17
食欲不振 58 7 66 11 65 9
下  痢 21 1 39 6 38 5
口内炎 14 0 25 1 34 2
悪  心 43 2 54 2 55 5
嘔  吐 27 1 32 2 34 5
間質性肺炎 3 2 0.4 0 2 1
ASCO2011 #4007
ゲムシタビンは血液関連の有害事象が多くみられ、TS-1では、食欲不振や消化器官に関する有害事象がみられた。併用療法では両者の有害事象があらわれるため、注意が必要

がんを小さくし、手術に持ち込む

[図6 切除不能膵がんにおけるGS(ゲムシタビン+TS-1併用)
療法の効果(奏効率)]

  ゲムシタビン TS-1 GS療法
(ゲムシタビン+TS-1)
完全寛解
(CR)
1 0 2
部分寛解
(PR)
31 52 69
奏効率
(RR)
13% 21% 29%
ASCO2011 #4007
奏効率はGS療法が1番大きい。そのため、術前に行うことで手術へ持ち込めることにも期待が集まる

[図7 GS(ゲムシタビン+TS-1併用)療法の抗腫瘍効果]
図7 GS(ゲムシタビン+TS-1併用)療法の抗腫瘍効果

69歳男性。ゲムシタビンとTS-1の併用療法を6コース行い、がんの縮小がみられたため、摘出手術が行われた

この試験でもう1つ吉富さんが注目したのが、奏効率(RR=がんの径が治療により30%以上小さくなる人の割合)です。ジェムザール単剤では13%だったのに対して、GS療法では29%にも達しました(図6)。

そこで吉富さんらが取り組んでいるのが、局所進行により手術不能となっている患者さんに対して、術前化学療法としてGS療法を行い、がんを小さくしたうえで手術に持ち込む方法です。

実際に4a期で、手術不可能と診断された69歳・男性の例です。GS療法を6コース、約半年間行ったところ、太い動脈にへばりついていたがんがみるみる小さくなっていきました。手術したところ、がん細胞はかなり死んでいて、手術も成功。最初の治療から13カ月経っていますが再発もなく、元気に通院しているといいます(写真7)。

「キーポイントは、GS療法によりがんはかなりの数が死滅しているものの、完全に死んだわけではないということです。化学療法で小さくなったからと喜んでいてはダメで、小さくなったところで手術して切除することによって初めて、治療は完結します」

化学療法でがんを小さくしなければ手術など考えられない症例だけに、まさに化学療法と外科治療のコラボレーションによる大きな成果だといえます。

千葉大学で今までに術前にGS療法を実施して手術に持ち込んだ8例でみると、生存期間は18.4カ月。さらに、従来はとても手術適応にならなかったほかの患者さんにも試みていくとのことなので、今後が注目されます。

新規治療法にも期待が集まる

なお、新しい治療法としてFOLFIRINOX療法があり、これはエルプラット()、ロイコボリン()、イリノテカン()(一般名)、5-FUの4剤併用療法。日本では現在、第2相試験が行われているところです。

また、膵がんの場合、手術しても術後の多くは再発をきたすなど手術のみでは限界があることから、術後に化学療法や放射線療法などの補助療法を行うことが重視されてきています。

術後補助療法でも現在はジェムザール単剤が標準治療となっていますが、ジェムザール単剤とTS-1単剤、それにGS療法との比較試験が同大学で行われており、その結果が待たれています。

エルプラット=一般名オキサリプラチン
ロイコボリン=一般名レボホリナート
イリノテカン=商品名カンプト/トポテシン


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