がんが縮小し、手術不能のがんでも手術が可能になることも! ポイントは副作用を極力抑える。膵がんの「術前化学放射線療法」
術前化学療法のポイントは副作用を抑えること
術前化学放射線療法のポイントは何か。谷さんは「副作用をできるだけ抑えること」と強調する。
「薬の副作用や放射線の合併症で全身状態を悪化させてしまうと、手術を延期したり、最悪の場合は中止に追い込まれる可能性もあります。これが術前治療の最大のデメリットです」
その点において、副作用が比較的軽いTS-1は使いやすい薬剤という。
「ジェムザールとくらべて骨髄抑制は一般に軽度で、21人の患者さんのなかで1例に好中球減少がみられただけでした。TS-1の副作用は、吐き気や嘔吐、下痢、食欲不振、口内炎など消化器毒性の頻度が高いのが特徴です。グレード2が出る患者さんがおられますが、重篤な副作用はほとんどありません」
また、1日おきに服用すると消化器毒性が軽減する傾向があることも利点となる。消化管の細胞の場合、抗がん剤を1日おきの服用でダメージを受けない正常細胞もあり、抗がん剤の効果は発揮されつつ消化管の正常細胞も守られるわけだ。
「1日おきの服用が最適な方法かどうか明らかになるには第3相試験を行い、その結果をもとに判断しなければなりませんが、現時点では適切であるように思います」
もう1つ5-FU系の薬剤であるTS-1は、放射線の増感効果が期待できる。
「TS-1は体内で5-FUに変換されて抗腫瘍効果を発揮する薬です。5-FUは放射線の効き目を増強することが知られていますから、TS-1にも同様の効果があると考えていいでしょう」
では、放射線についてはどうか。放射線のダメージを極力減らすため照射野を狭くするのが基本で、当て方は多方向から放射線を照射する3次元照射となる(図6)。
「手術を控えているので全身状態を良好に保つことが必要ですから、周辺の消化管を避け、がん細胞が残りやすい神経叢などを重点的にあてるような3次元治療計画によって実施します。化学療法や放射線の副作用が軽減すれば、治療の安全性や完遂率を上げることができます」

*ボーダーラインレセクタブル=動脈周囲へ膵がんが及んでおり、切除しても高率にがんが残る危険性の高い症例
放射線治療の位置づけはまだ確証がない
術前化学放射線療法を行った場合、放射線が当たっていると線維化(硬くなっていく)が生じたりして、手術のしやすさに影響することがあるという。
また、術前治療として化学放射線療法がいいのか化学療法がいいのか、確実なことはまだわかっていない。
「膵がんは神経叢への浸潤が著しいのが特徴ですが、神経叢は血流が豊富なわけでもなく、抗がん剤がそこで十分作用するのかが問題です。そうなると放射線という選択になってきます」と谷さん。とはいえ「すべての患者さんに放射線治療が必要なのかは疑問」と指摘する。
術前化学療法を実施して手術した患者さんが再発するケースも、谷さんは経験している。再発は膵臓の近くではなく離れたところに起こることから、化学放射線療法の力は局所に対しては発揮されているという印象なのだが、「膵がん自体、非常に悪性度が高いがんなので局所治療をしたとしても予後が改善できるかはわかりません。放射線の必要性、必要のある人とそうでない人を区別することは、今後の検討課題でしょう」
手術できないとすぐにあきらめないで
現在、進行した膵がんに対する治療選択の1つとして期待されているのが、和歌山県立医大で行われている、ジェムザールが効かなくなってきた患者さん対象のペプチドワクチンの臨床研究だ。
「これはリンパ球を活性化して免疫力でがんを抑えるという治療です。白血球が下がるといった抗がん剤でおこる副作用がありませんので、プラスアルファの治療としては行いやすい治療です。抗がん剤との併用など道が拓けてくると思います」
先ごろ日本肝胆膵外科学会が興味深い調査の解析を行った。谷さんによると「切除不能で化学療法を実施すると抗がん剤が非常によく効く患者さんがおられ、そういう患者さんに対してがんが縮小したときに手術をすると生存期間が延びる」という。
つまり、手術ができない場合でもすぐにあきらめず、抗がん剤や放射線療法を組み合わせることで、手術まで持っていくことも可能になってきたということだ。
「今後、化学療法や化学放射線療法の効果が継続している患者さんへの切除術というのは、1つのオプションになってくる可能性があります。手術不能と決めてかかるのではなく、術前での治療が効いてきたら手術が可能なのだという見方もできるといえるでしょう」
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