進行・再発膵がん:切除不能進行膵がん治療に光明!? 新たな併用療法が登場。進行・再発膵がんの治療効果に期待

監修●上野 誠 神奈川県立がんセンター消化器内科医長
取材・文●町口 充
発行:2013年5月
更新:2019年11月

エポックとなるかFOLFIRINOX

■図3 投与方法

そこに新たに、今までの治療成績を大きく上回る治療法として、2010年のASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表され注目されているのが、FOLFIRINOXである。

大腸がんの治療法にFOLFOXとFOLFIRIがあるが、いわばこの2つを融合した治療法がFOLFIRINOX。5-FU、ロイコボリン、カンプト/トポテシン、エルプラットの4剤併用療法のことだ。

投与方法は、2週間を1サイクルとして、エルプラット、ロイコボリン、カンプト/トポテシン、5-FUをボーラス投与(短時間のうちに点滴投与すること)したあと、5-FUを46時間かけて点滴投与する(図3)。

■表4 FOLFIRINOXの有効性

FOLFIRINOX ジェムザール
奏効率 31.6% 9.4%
生存期間中央値 11.1カ月 6.8カ月
1年生存率 48.4% 20.6%

(臨床数=171)

この4剤併用と、ジェムザール単独(28日を1コースとして、最初の8週のうち7週は毎週投与し、その後は4週のうち3週を毎週投与する方法)を比較したところ、全生存期間の中央値がFOLFIRINOX群で11.1カ月、ジェムザール群で6.8カ月となり、FOLFIRINO X群の大幅な生存期間の延長がみられた(表4)。

ジェムザール単剤に対して、生存期間がこれほど上回る結果が出たのは初めてのことだ。

FOLFOX=5-FU+ロイコボリン+エルプラット FOLFIRI=5-FU+ロイコボリン+カンプト/トポテシン ロイコボリン=一般名レボホリナートまたはホリナート カンプト/トポテシン=一般名イリノテカン エルプラット=一般名オキサリプラチン

効果とともに強い副作用も

■表5 FOLFIRINOXの有害事象(グレード3以上)

FOLFIRINOX ジェムザール
好中球減少 45.7% 21.0%
発熱性好中球減少 5.4% 1.2%
血小板減少 9.1% 3.6%
貧血 7.8% 6.0%
疲労 23.6% 17.8%
嘔吐 14.5% 8.3%
下痢 12.7% 1.8%
末梢神経障害 9.0% 0%

(臨床数=171)

ただし、副作用も強く、なかでも顕著なのが骨髄抑制だ。グレード3~4の重篤になる可能性のある発熱性好中球減少が、ジェムザール単剤は1.2%に対し、FOLFIRINOXでは5.4%出現した。また、カンプト/トポテシンは下痢、エルプラットではしびれといった末梢神経障害など、それぞれの薬特有の副作用が強く出る人もいた(表5)。

それでも、FOLFIRINOXの登場は再発・転移膵がん治療のターニングポイントになる、と上野さんはこう語る。

「膵がんのこれまでの化学療法は治療成績がよくないので、あまり体に負担をかけずに長く続けられる治療が大事であり、それが患者さんの延命につながると信じられてやってきました。これに対して、かなりの副作用を覚悟しなければいけないけれども、試してみたら驚くような結果が出た。しかも、従来からある薬の組み合わせでこれだけの差が出たのですから、われわれとしても、治療に対する考え方を改める必要があるのかもしれません」

欧米ではすでにFOLFIRINOXが標準治療とし使われているが、日本では現在、第2相の治験が進行中。結果が待たれるものの、上野さんが心配するのはやはり副作用の問題という。

「副作用に関してはリスクがあるので、まずは元気な人を対象に行うべきです。また、治療ができる施設を限定する必要もあるかもしれません」

副作用が強いことは欧米でも問題になっており、ボーラス投与の5-FUを抜いたり、カンプト/トポテシンを減らすなど修正した治療法が試されており、日本でも今後、検討されるかもしれない。

アブラキサンにも期待

近い将来、FOLFIRINOXにファーストラインの座を明け渡すことになるかもしれないジェムザールだが、2013年1月のASCO・GI(米国臨床腫瘍学会消化器がんシンポジウム)で、ジェムザールとの組み合わせで、FOLFIRINOXに匹敵する成績を示す薬についての発表があった。

アブラキサンというタキサン系の抗がん薬だ。ジェムザール単独投与と、ジェムザール+アブラキサンとの併用投与を比較した第3相の国際共同試験(MPACT試験)の結果、生存期間にかなりの有意差が認められ、アブラキサンも有用であると報告されたのである。

それによると、全生存期間中央値は併用群8.5カ月に対して、ジェムザール単剤群6.7カ月と有意な差が出た。FOLFIRINOXの11.1カ月と比べると落ちるが、それでもよい成績である。

1年生存率では併用群が35%、単剤群が22%、2年生存率では併用群9%、単剤群4%で、死亡リスクを28%下げ、優位性が証明された。

副作用としては、好中球減少や倦怠感、末梢神経障害などがみられたが、骨髄抑制や疲労、下痢といった副作用の程度はFOLFIRINOXより軽い印象だという。

そこで、上野さんは今後の再発・転移膵がんの治療の展望を次のように述べている。

「今後、再発・転移のある膵がんは、FOLFIRINOXがファーストラインの治療法になっていくかもしれませんが、毒性も強いので、誰にでもというわけにはいかない。そんなとき、ジェムザール+アブラキサン併用の治療が日本でもできるようになれば、膵がん治療はより多彩になっていく。たくさんの選択肢のなかから、治療法を選択することが可能となってくるでしょう。みんなが同じ治療を受けるのでなく、個々の状態に応じて受けるべき治療も変わっていくのがこれからの膵がん治療。最新の治療を受けるためには専門施設への受診とともに、セカンドオピニオンも積極的に活用してほしいと思います」

アブラキサン=一般名パクリタキセル

1 2

同じカテゴリーの最新記事