アスベスト禍で急増する悪性胸膜中皮腫の最新治療 「肺がんとは性格の違うがん」に注意! 抗がん剤治療が効果を上げてきた

取材協力:中野孝司 兵庫医科大学内科学呼吸器RCU科教授
取材・文:塚田真紀子
発行:2006年8月
更新:2013年10月

「悪性胸膜中皮腫」は、環境曝露でも発病する

その一方で、一般環境の僅かなアスベスト曝露が深刻な問題になっている。アスベストは、耐火性や絶縁性、耐薬品性、柔軟性などに優れ、加工がしやすいため、ビルや住宅などの建材から、電気製品や自動車、さらに接着剤や化粧品にまで使われていた。建物の解体工事でアスベストが飛散する恐れもある。

腹膜に発生する中皮腫は、全体の2割だ。アスベストをたくさん吸い込んだ場合に発生する。一方、胸膜の中皮腫は、腹膜と違って、一般環境での少ないアスベスト吸引でも発生する。

アスベストで起こる病気は、中皮腫だけではない。曝露量によって、病気の種類が異なる。まず、曝露後10年ぐらいから、「良性石綿胸膜炎(良性石綿胸水)」が発症する。これは胸水の溜まる病気で、がんではない。20年ぐらいで、胸膜に「プラーク」と呼ばれる、ペンダコのような硬いものができる。これもがんではない。また、その頃に、「びまん性胸膜肥厚」と呼ばれる病気ができる。これは肺全体を覆う胸膜がかなり分厚く、硬くなったものだ。硬くなるので、肺が膨らまない。だから、少し動くと呼吸困難になる。アスベストによる肺がん(石綿肺)は平均30年でできる。中皮腫と違って、仕事でたくさんのアスベストを吸った人に出てくる。そして、40年で、胸膜ががん化する。これは、たくさん吸った場合も、少しの場合も出てくる。

[アスベストに関連する疾患]

悪性腫瘍 胸膜悪性中皮腫
肺がん
塵肺症 石綿肺
良性胸膜病変 胸膜肥厚斑
胸水
びまん性胸膜肥厚
円形無気肺

[アスベストに関連する疾患と曝露量]
図:アスベストに関連する疾患と曝露量

『コンセンサス癌治療』(へるす出版)2005秋号第4巻第4号より

肺がんとはまったく違うがん

胸膜に発生する中皮腫は、肺がんとしばしば混同される。しかし、全く異なる病気だ。ミカンに例えると、ミカンの房の“実”にできるのが肺がんで、房の“皮”にできるのが中皮腫だ。早期であれば、ミカンの房の“皮”を剥ぐ手術(胸膜剥皮術)や、ミカンの実を根こそぎ切りとる手術(胸膜肺全摘術)が行われる。

肺は2枚の膜に包まれている。内側が「臓側���膜」、外側が「壁側胸膜」だ。2枚の膜に囲まれたところを「胸腔」と呼び、ここに胸水がたまる。

内側の膜には、良性の腫瘍ができる。これは女性に多い。反対に、外側の膜に今、問題の中皮腫ができる。これは男性に多い。最初は小さなブツブツした顆粒状のがんだ。それが大きくなって、内側の膜にも広がっていく。「胸腔」に初めは水がたくさん溜まる。がんはどんどん大きくなると、胸腔はがんで埋め尽くされるようになる。胸壁のほうに進展すると、痛みが強くなる。

[壁側と臓側にできる胸膜腫瘍の違い]

図:壁側と臓側にできる胸膜腫瘍の違い
壁側胸膜腫瘍 臓側胸膜腫瘍
腫瘍 胸膜中皮腫
(悪性胸膜中皮腫)
孤在性線維腫
(良性限局型胸膜中皮腫)
男:女 比 3:1 1:3
悪性度 極めて悪性 良性
アスベスト
との関係
濃厚
『胸膜中皮腫の疫学』(科学評論社)より


治療は治療になれた病院で

さらに進むと、がんは横隔膜を超えて、腹部のほうにまで広がっていく。肺にできるがんでありながら、その広がり方は独特で、肺がんとはまったく違う。

また、胸膜中皮腫は肺がんとは性質が大きく異なる。肺がんの代表的な腫瘍マーカーのCEAは正常だ。中皮腫の腫瘍マーカーには、シフラやメソテリン、TPA、ヒアルロン酸がある。

中野さんはこうアドバイスする。

「このがん特有の広がり方を予想して治療を進める必要があります。また、肺がんとは治療法も違います。それだけに、この病気になれた病院で治療を受けたほうがいいでしょう」

自覚症状としては、胸水による息苦しさや、咳が出るようになったりする場合がある。しかし、病気になった最初の頃は、自覚症状は少ない。

診断は、CTによる「画像診断」や、胸腔鏡で見ながら病変をとって調べる「組織診断」、胸水を調べる「細胞診」、などによって確定する。また、がんがどこまで広がっているか、調べることも大切だ。

[胸膜中皮腫の発病と進展の様子]
図:胸膜中皮腫の発病と進展の様子

『コンセンサス癌治療』(へるす出版)2005秋号第4巻第4号より

進行度別の標準的治療

悪性胸膜中皮腫には、大きく分けて3つのタイプがある。

「上皮型」、「肉腫型」、そして「2相型」で、タイプによって治療法も違う。

最も数の多い「上皮型」(約6割)は、最も治療に反応するタイプだ。手術成績もいい。

逆に、最も数の少ない「肉腫型」(約1割)は、抗がん剤への反応が悪い。最も悪いタイプだ。「2相型」(約3割)はその中間だ。

悪性胸膜中皮腫は、長期の生存が難しいがんと言われる。

以前は薬が効かなかった。しかし、1990年以降は、効果のある抗がん剤が出てきた。ゲムシタビン(商品名ジェムザール)やイリノテカン(商品名カンプト、トポテシン)や、現在、治験中のペメトレキセド(商品名アリムタ)がそれだ。シスプラチン(商品名ブリプラチン、ランダ)と組み合わせると効果がある。


悪性胸膜中皮腫のステージ(病期)分類・TNM分類

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