早期に見つければ幅広い治療選択肢。ライフスタイルに即した治療法を

監修●木村 剛 日本医科大学泌尿器科学教室准教授
取材・文●西条 泰
発行:2014年2月
更新:2014年5月

医師と納得するまで相談し、自分に合った治療の選択を

前立腺がんの罹患者数は、PSA 検診の普及、生検法の進歩、高齢者社会で、増加の一途をたどっています。とくに、早期前立腺がんの比率が最も高く、この早期がんには、治療の必要がない弱いがんから比較的早く転移を来す可能性のあるがんまで含まれます。治療選択肢の多い早期がんですが、患者さんの年齢、合併症、全身状態、前立腺がんの強さ、経済性、治療の副作用など様々なことを考えた上で、「個々の患者さんに合った治療法」を選択する必要があります。

あふれる情報に惑わされないで

近年、インターネットの発達により前立腺がんの情報が簡単に手に入るようになりました。しかし、どの情報が正しいのかわからないまま無作為に収集し、かえって混乱されている方をしばしば見受けます。中には間違った情報を鵜呑みにされている方もおられます。ご自分の病気について勉強されることはすばらしいのですが、それが自分に合った正しい情報かどうかしっかりと吟味する必要があります。

最近、「ダヴィンチ」というロボットを使った手術法が脚光を浴びています。腹腔鏡下手術を支援する医療機器で、3D 内視鏡での映像やきめ細かい動きのできる多関節鉗子が特徴です。あたかもロボットが手術してくれるように思っておられる方が多いのですが、操作するのはあくまで人間です。難易度が高く熟練を必要とする腹腔鏡手術と比較すると、3 次元の視野で、自由度の高い特殊な鉗子によって、より精細で巧緻な手術操作が可能です。しかし、ロボットで手術を行ったからといって、治療成績が格段に良くなることはありません。特別に摘出できる部分が広がるなどということはないのです。手術方法が問題ではなく、最も重要なことは術者の見識と技量なのです。

重粒子線治療もしばしば取り上げられます。理論的にすばらしい方法で臨床的にも良い成績を出しています。が、治療成績では、現在普及しているIMRT とどちらが有効かを調べた前向きな比較試験は今のところなされていません。従って、重粒子線治療が他の放射線治療に対し、とくに優れていると臨床的に証明されてはいないのです。

2014 年には去勢抵抗性前立腺がん治療薬として、新しいホルモン薬がいくつか承認される見通しです。抗がん薬治療後でも延命効果が証明された薬剤です。高価ですが、治療選択はさらに広がります。

このような状況の中、前立腺がんに関する正しい情報や個��の患者さんに合った適切な治療選択肢を提示するのが医師の役目です。最新機器や薬に目を奪われがちですが、どんな治療にも副作用があることを忘れてはいけません。早期前立腺がんではPSA 監視療法という無治療で経過観察することも可能な場合があります。まずは、今すぐに治療が必要ながんなのかチェックが必要です。

何らかの治療が必要と判断された場合、手術、放射線治療、ホルモン療法などのメリット、デメリットを十分に理解した上で選択して下さい。繰り返しになりますが、手術で重要なのは手術の方法よりも術者の見識と技術の高さだということです。決して忘れないで下さい。

重粒子線治療=がん病巣をピンポイントで狙いうちし、がん病巣にダメージを与えながら正常細胞へのダメージを最小限に抑えることが可能とされる、放射線を用いた治療法 IMRT=強度変調放射線療法

それぞれにメリット、デメリット

各治療法の特徴

手術のメリットは、排尿障害がある場合、その原因のほとんどがある前立腺を取り除くため排尿障害の改善が見込めます。また、手術は選択肢の中で最も侵襲的な治療のため、手術後には達成感が大きいでしょう。さらに、再発時には、放射線治療、ホルモン療法の2 つの選択肢があります。デメリットとしては、約2 週間の入院が必要、侵襲的、手術後には創部の痛みがあるなどが挙げられます。勃起神経を温存できない場合には完全な勃起不全となります。

さらに尿失禁はほぼ全員に多少とも起こり、ひどい場合には1 年経っても尿漏れパンツが必要です。

放射線外照射のメリットは、入院を必要としない、非侵襲的、治療中には痛みがない、勃起不全になりにくいことなどです。デメリットは、約6 ~8 週、平日毎日通院しなければならない、放射線の副作用に放射線性膀胱炎や放射線性直腸炎があり、頻尿、排尿時痛、肉眼的血尿や下血がみられることがあります。ひどい場合には輸血が必要となります。

前立腺の中に放射線の出る小さな線源を40 ~100 個くらい埋め込む密封小線源療法のメリットとしては、3~4泊の入院で、約1 時間で埋め込みが終わるという、簡便で非侵襲的で最も短期間で根治療法が終わること、術後の苦痛もほとんどない、勃起不全になりにくいことが挙げられます。デメリットは、術後1 ~ 3 カ月の夜間頻尿で、夜間に1 時間に1 回トイレに起きる場合があります。この夜間頻尿はほとんどの場合、ゆっくりと改善し、1 年くらいで元の状態まで回復します。排尿時痛、軽度の血尿や血便がみられることもあります。

ホルモン療法のメリットは、どんな年齢でも可能な非侵襲的な治療法であり、ほぼ全員でがんの進行が一旦は止まり、がんが縮小し、がん関連症状が緩和することです。デメリットは、効果が永続的でないことで、高悪性度のがんほど効果が長続きしない傾向があります。副作用として、勃起不全、性欲低下、のぼせ、発汗、肥満、筋力低下、脂質代謝異常、耐糖能低下、手指関節痛、骨粗鬆症などがあります。ダイエットと運動が重要です。

悪性度=グリソン・スコアによる診断

残りの人生のライフスタイルを考えた治療選択を!

まずは、各治療法のメリットとデメリットをご理解下さい。そして、ご自分の年齢、合併症等から余命がどのくらいあるのかお考え下さい。どの治療法を選んだとしても10 年以上前立腺がんで死ぬことがないならば、「どの副作用が自分のライフスタイルに許容できないか」お考え下さい。残りの人生、治療の副作用と共に生きていかなければならないことを忘れてはなりません。延命と生活の質のバランスを考えていただきたいのです。

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