普及が進む前立腺がんロボット支援手術のメリット
適応は「転移のない早期がん」小さな穴を6つ開けるだけ
ダヴィンチの適応は、開腹手術と同じく「早期で転移のない前立腺がん」だ。骨シンチで骨転移がないことが確認でき、CTでリンパ節転移がないことがわかれば手術が選択される。
「ただCTにも限界があるので、早期でもハイリスクの場合、CTで転移が見つからなくても、骨盤内のリンパ節郭清をしてみると数%の確率でがんが見つかる方がいます。その場合は、手術後に転移に対する治療をすることになります」
導入直後は、ハイリスクでのリンパ節郭清は医師の熟練度の問題で消極的だったが、現在では確立した技術でしっかりと郭清できるという。同じく導入直後は、腹部にほかの手術跡があるケースもダヴィンチは不向きとされたが、これも今は技術的に克服された。また、寝た状態(仰臥位)で頭を30度低くするので緑内障のある患者さんには適さないとされたが、個々の状態によっては可能になってきた。
実際の手術は、図3のように進められる。全身麻酔がかけられた後、腹部に計6カ所の小さな穴(5~12㎜程度5つと3~4㎝を1つ)を開ける。頭部が30度低くなるようにベッドを傾け、炭酸ガスでお腹を膨らませる。
へその上の穴から長い内視鏡を、左2個と右1個の穴から特殊な鉗子を入れてロボットのアーム部分とつなげ、医師はベッドから離れたところで遠隔操作により内視鏡と鉗子を操作することで手術を行う。最後にへその上の穴から前立腺を摘出する(図3の左の腹部の図)。

モニターは実際の10倍以上の大きさに見え、医師の指もそれに合わせて大きく動く。例えば、鉗子を1㎜動かすのに指を1㎝動かすということは、それだけ微細な動きを伝えることができるというわけだ。前立腺から勃起神経を剥がしたり、リンパ節郭清したりといったシーンでとくに威力を発揮する。
術後は1カ月目に外来で切除部位の分析結果を聞く。問題がなければ、また1カ月後、そのあとは3カ月後……などと最低5年間は検査を続ける。
術後の排尿障害、勃起不全の改善も向上

次に手術の後遺症について見てみよう。前立腺がん手術で起きやすいのが、排尿障害と勃起不全だ。
術後にすぐ悩まさ��るのが尿失禁。排尿は前立腺のすぐ下にある外尿道括約筋でコントロールされているが、この外括約筋が一時的に弱くなるために失禁が起きる。次第に改善して行くが、その改善度にロボット手術のメリットが出る(図4)。排尿障害が続く場合には服薬による調整もある。
勃起不全も大きな問題だ。
「若い患者さんが増えているので、性機能がどうなるかは深刻な問題です。がんを取りきったとなると、次の関心はこちらに移ります。この点でもダヴィンチは優れています」
前立腺の左右には1本ずつ勃起神経が走っている。ダヴィンチで両方の神経を温存すると手術後2年後までに80%に性機能の改善がみられる。片方の温存だと40~50%ほどになる。
「ダヴィンチで片方の神経を残すのと、開腹で両方を残すのとが同じくらいの改善率になっています。ダヴィンチも完璧ではありませんが、これまでと比べて良い数字だと思います。また、必要ならばバイアグラなど勃起を助ける薬を患者さんと相談しながら、処方します」
ダヴィンチ普及へ向け、他施設に導入支援も
「ロボット支援手術の先駆的立場にある同病院では、2011年に「ロボット手術支援センター」を設立して、これから導入しようという医療機関に安全管理や若手育成システムなどの情報提供と指導を行っている。見学者も多く、これまで90施設以上から受け入れた。
「若い医師は手術助手をしているうちに、目が肥えてしまう。技術の習得は驚くほど早いですね」
現在、ダヴィンチが保険適用となっているのは、前立腺がんのみだが、子宮がんや膀胱がん、腎がんなどでも行われ始めている。
「胃がんは日本で多いので、欧米よりも早く保険適用になるのでは。将来は適応疾患がさらに広がっていくでしょう」
手術時の大量出血などのトラブルは、同病院で1,400例以上扱った中で1回もなかったという。
「イギリス人の患者さんが雑誌を持ってやってきました。記事を指差しながら、『この病院には手術のうまいロボットがいるんだってね』と言うんです。『いませんよ。ロボットを操るのが上手な医師ならいますがね』と答え、安心して手術を受けていただきました」
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