高リスク前立腺がんでも根治が可能なトリモダリティ治療とは?

監修●矢木康人 国立病院機構 東京医療センター泌尿器科
取材・文●伊波達也
発行:2015年3月
更新:2015年5月


8割以上の方が10年以上健在

同センターで、こうしたトリモダリティ治療を行った高リスクの患者さんの経過を追跡したところ、96例中PSA再発した症例は16例。そのうち、局所再発と診断された症例は4例のみだった。全体で見ると、5年全生存率は96.9%、10年全生存率でも83.2%。亡くなった方の多くは前立腺がん以外の原因で亡くなられており、前立腺がん死は1例のみであった。PSA非再発率は5年経過で86.3%、10年経過でも80.0%と、いずれもかなり良好な成績だった(図5,6)。

図5 高リスク患者に対するトリモダリティ治療成績(全生存率)
図6 高リスク患者に対するトリモダリティ治療成績(PSA非再発率)

高リスクの場合、矢木さんの説明の通り、転移の可能性を考慮しなければならないため、米国では局所治療後のホルモン療法が重視されている。NCCNのガイドラインでは、放射線療法後、ホルモン療法を2~3年実施すべきとある。

しかし、ホルモン療法を長期に行うことのデメリットは大きい。男性ホルモンであるテストステロンの低下により、男性機能が失われることはもちろん、QOL(生活の質)が低下し、様々な副作用が強く現れてしまうことが多い。例えば、2年間ホルモン療法を行うと、テストステロンが戻るまで2年以上かかり、これは結局ホルモン療法を4~5年継続した状況と同じになるという。

そこで、現在トリモダリティ治療で、放射線療法と同時にホルモン療法を行った後、ホルモン療法を終了する場合(合計6カ月)と、その後2年間ホルモン療法を継続する場合とを比較する臨床試験が実施されている。この試験は、2012年9月に全症例の登録が終了した。現在、その長期経過を追跡中の段階だ。その結果が明らかになるのは2022年ごろになるという。

ホルモン療法を長期間行うべきかどうかは、現在進められている臨床試験の結果が出ないとはっきりしたことは言えないが、10年生存率80%以上という治療成績から考えると、現場では短期ホルモン療法でも十分治療効果の手応えはあるようだ。

「ホルモン療法を短期で終わらせるデメリットは、がんのコントロールが足りないかもしれないという点です。つまり、長期治療を行えば、再発の可能性である2~3割のリスクがもう少し抑えられるかもしれないということです。しかし、若い患者さんの場合は、短期のホルモン療法であれば、男性機能が1年程度で戻りますので、QOLは良くなります。もし、2年間ホルモン療法を継続すると、治療後さらに4~5年ほどはその影響が続きますので、その点では大きなデメリットとなるでしょう。

また、それ以外でもホルモン療法には合併症が起きることもあり、長期行うことによるリスクはあります。臨床試験の結果が出ないとはっきりしたことは言えませんが、当施設の治療成績から見ても、長期ホルモン療法と短期ホルモン療法とでは、そんなに大差がないのではと思っています」

トリモダリティ治療かロボット手術か

高リスクの治療については、昨今では、ロボット手術も保険適用となり、有力な治療の選択肢となっている。トリモダリティ治療とロボット手術。患者としてはどちらを選択するべきか、悩むところであろう。

双方の治療についてのメリット、デメリットについて、どちらの治療も行っている矢木さんはこう説明する。

「手術の場合は、前立腺を摘出しますので、その後ホルモン療法を受ける必要はありません。ただし、これからお子さんを作りたいという人の場合はデメリットになります。当科でも、小線源療法を選択して、前立腺を温存でき、お子さんができたという患者さんがいらっしゃいます」

治療の有効性や副作用についてはどうだろう。

「ロボット手術の場合には、従来の手術に比べ、神経温存がしっかりできますし、尿失禁のような副作用も防げます。ただし、高リスクの場合で、がんが被膜の外に飛び出しているようなケースは、周囲の臓器への侵襲などを考慮すると、大きく切除するのには限界があり、がんを取り切れない可能性もあります。一方、前立腺の形に合わせて正確に計画を立てて照射できる小線源療法は、被膜外の病巣も、安全で有効に治療できます。しかし、もし再発した場合には、放射線療法を受けた後の手術は困難になり、基本的にホルモン療法のみが選択肢に入ります。

これに対し、手術で再発した場合には、いきなりホルモン療法ではなく、その前に放射線療法(外照射)を受けられる可能性はあります。ただしその場合、照射する放射線量は少ないものになり、効果は弱くなります。また手術のメリットとしては、取った組織を病理標本として見て評価できる点もあげられます。治療後のQOLについては明確な比較はできていませんが、いずれも低侵襲であることは確かです」

どの治療法を選ぶかは、患者さん個々の価値観や生活環境などによって違ってくる。高リスクであっても、根治できる治療法があることを念頭に置いて、担当医とじっくり話し合うことをお勧めしたい。

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