放射線の外照射治療に新しい流れ 1回の照射量を増やして総線量を減らす
総線量より 1回線量重視の流れ
患者さんにとって期待されるメリットは、1回の線量を上げることで治療効果が高まることと、現状で8週間かかっている治療が6週間になるということ。治療による総線量が少なくなるということもある。
「これまでは総線量が大切と思ってやってきました。1回2Gyで回数をたくさんかけるほどよくなるということです。しかし、総線量より1回線量を高くできるならそのほうが効果的なのでは、という考え方が寡分割照射法です。長い目で見ると、患者さんが受けやすいように照射回数を減らしていくという流れが次第にできるかもしれません」
乳がんでは一足早くその動きがあり、日本でも5週間の治療と寡分割照射法の3週間が同等の効果があるとされ、臨床現場にも徐々に導入されている。
医師の少ない地方への普及が課題
しかし、普及には問題もある。萬さんは指摘する。
「まずは、技術的な問題です。外照射は患者さんの動きやずれに対しては弱いので、線量が増すと危険度が増します。技師らがしっかりとした技術を身に付けることが求められます」
大学病院や首都圏の大病院ではなく、地方の総合病院を見た時、IMRTを導入していないところもまだ多いという。機器を入れても医師や技師らの数が少ないので、IMRTを行うことが許可されなかったり、十分な患者数をこなせず、標準的な治療経験も積むことが難しい。そのような状況で、さらに1回の線量を上げた照射をするとなると、正常組織に当たってしまったときの副作用の面で不安になってしまう。
「現状では、数回の照射を減らすためにそのようなリスクを背負うのはとても勇気のいることです。ただ10年あれば、変わるだろうとも思っています。学会での話でもそのような話題が出ます」 精度を高めるとはいえ、後遺症の問題もある。
「日本では後遺症にすごく敏感に反応します。大腸や膀胱が傷んで出血することがありますが、例えば米国では5%に出血が見られたものの、それは以前の10%から下がったからよしという考え方でOKですが、日本ではそうはいきません。しかも高齢者はたくさんの薬を服用していて、その中には出血をしやすくする薬剤もあります。リスクをとっても線量を上げるというのは日本では患者さんにもあまり好まれません。医師も患者も安全志向で、線量は抑え目にしてきたと���うことです」
保険制度の見直しも必要?
さらに萬さんは日本の保険制度の課題も指摘する。
「日本では現在、前立腺のこのような放射線治療は診療回数で点数をつけています。大きな大学病院のように赤字覚悟でできるところはいいですが、一般的な病院では診療回数で収入が決まるので二の足を踏みます。同じ治療成績を生む新しい治療法に対して技術を高める努力をし、リスクを負ってまで取り組んでも、収入が減ってしまうことになるのです。保険制度も段階的に変わる必要があるのではないでしょうか」
自分で選んだ治療の完遂が 生活の自信につながる
近年はロボット支援下手術が日本でも普及して、手術と放射線療法の治療選択のある患者さんでもほとんどがロボット支援下手術にまわる。
一方で、自分で治療のことを調べて放射線療法を信念として選ぶ患者さんもいる。治療選択はどのようにあるべきか。
「先般、患者さんに『放射線療法は手術と比べてどうですか?』と問われたので、『その比較は意味がありませんよ』と答えました。リンゴとオレンジを比べるのと同じことです。再発の定義や治療も違い、副作用も違います。1人で2つの治療は受けられないので、比べられません。それぞれの治療法の特徴を理解した上で、主治医と相談してご自身が決めることです」(萬さん)
最後に、「治療選択肢は増えていくが、流れに乗るだけではなく自分でしっかり選んだ治療を完遂することが治療後の生活の自信にもつながります」と結んだ。
ピンポイントを追求する小線源療法
組織内照射の代表格は小線源療法だ。放射線源を直接前立腺に埋め込む。がんの形状をコンピュータで確認しながら、がんに向けて長い針を刺し、ヨウ素125という放射線源を密封したシード(カプセル)を埋め込んでいく。東京医療センターはその治療の先駆的存在であり、現在も日本トップクラスの診療数と技術を自負する。
ロボット支援下手術が主流となりつつある中でも、この治療法を選んで同センターを訪れる患者は多い。萬さんは「針を刺すという施術ですが、実際に成績が良く、重い後遺症が少なく、楽そうだという印象がメリットととられているようです」と話す。
寡分割照射法は照射精度を高めるための機器と技術が命だが、萬さんは「最も狙い撃ちができる、究極のピンポイント療法は小線源です。ほかの臓器を守れます」。同センターの特徴は長期フォローを行っていること。「丁寧にフォローしています。10年以上見ている施設は少ないのでは」としている。
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