機能温存し、合併症も回避できる 前立腺がんの小線源部分治療
4分の1領域の部分治療も可能に
部分治療において重要とも言えるのが、がんの局在をきちんと同定できること。そのための診断として、同科ではMRIによる画像診断と立体多カ所生検法と呼ばれる生検法による組織診断が行われている。立体多カ所生検法は、がんの位置を正確に把握するために、齋藤さんたちが取り入れている手法だ。これは、通常12カ所から組織を採取する標準的な生検法に対し、18カ所から組織を採取し、MRIとの併用で部分治療に適した患者を90%以上の精度で特定できる生検法となる(図3)。
さらに最近では、この手法を用いることで、よりがん領域に絞った部分治療もできるようになってきたという。部分治療導入当初は、尿道を真ん中として、前立腺の片側半分の2分の1領域の治療を行っていたが、現在では前立腺を4分割で評価することができ、4分の1領域での部分治療にも取り組んでいるそうだ。
「基本的に部分治療では、尿道を中心に左右に分けて半分の領域を治療するのですが、最近ではさらに治療域を小さくして、尿道を軸に左右と前後(腹側、背中側)の4分の1の領域に分けて生検を行い、治療をしています」(図4)
よりがん領域に絞った部分治療も可能になってきているのだ。


部分治療した部位からの再発例はない
では、実際の治療例を見てみよう。これまで40例の患者に対して小線源による部分治療を実施し、約半分の人が観察期間3年を越えている。その中で、最初に治療した部位からがんが再発した症例は今のところなく、合併症に対する評価も良好であるという。
「治療域内再発は今のところ出ていません。ただ、治療域外の新規病変として、がんが見つかった人はいます。そのうち2人は、再度部分治療による追加治療を行いました」
追加の部分治療を行っ��2人のうちの1人は、以前に治療をした前立腺部位とは反対側領域に新たにがんが現れ、再度部分治療を実施。もう1人も、以前の治療部位とは反対側の領域にがんが見つかり、「その方は射精機能を残したいと希望されたため、機能障害に関係があるとされる射精管領域の組織を温存するために、治療部位を4分の1領域に縮小して治療しました」。2人ともPSA値も良好で、現在経過観察中だという。
たとえ新たに腫瘍が見つかったとしても、病変が大きかったり、悪性度が高かったりするものはないそうだ。
現在、部分治療後のフォローアップ生検としては、だいたい治療後2年で再生検を行い、治療域内の効果判定、さらに新規病変の検出に努めている。
放射線治療後の局所再発にも部分治療
今後は、放射線治療後に前立腺内で局所再発した人に対する小線源の部分治療も行っていく予定だ。
「放射線治療後の前立腺がんに対する再治療は、手術、放射線治療ともに合併症のリスクが高くなるので、ホルモン療法を行うことが多いのですが、ホルモン療法は長期に及ぶと骨粗鬆症や骨折、心血管系疾患のリスクが上がると言われています。放射線照射後の局所再発に対しても、この小線源の部分治療を行うことで、少しでもホルモン療法を行う時期を遅らせたり、回避することができればと考えています」
とくに高齢者の場合、前立腺がんがたとえ再発しても、QOL(生活の質)を維持した生活を送るためにも小線源による部分治療が良いのでは、と齋藤さんは指摘する。
「ご高齢の場合、たとえ体に前立腺がんがあったとしても、〝天寿がん〟として寿命を全うできればいいという考え方もあります。ですので、なるべく合併症を回避するという意味でも、ご高齢の方に対する部分治療は勧められると思います」
部分治療は、機能温存を求める若年者と、QOLを保った予後が必要な高齢者、それぞれに対して意義のある治療法だと言えるだろう。
今後は長期的なエビデンス構築へ
現在、前立腺がんに対する部分治療は、海外では高密度焦点式超音波療法(HIFU)や凍結療法(クライオセラピー)が主流だ。今後日本でも、これらの治療法の導入が進められていくと思われる。一方、小線源療法は、すでに前立腺がんに対してその治療効果が明らかとなっている標準治療法の1つであり、部分治療への応用は、患者にとってメリットがあるだろう。
「今後は、長期的なデータを蓄積して、部分治療のエビデンス(科学的根拠)を構築していきたい」と齋藤さん。機能を温存し、治療後のQOL維持を実現できる部分治療。今後の普及に期待したい。
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