前立腺がんに対する陽子線治療 有害事象が少なく、根治が可能な放射線療法
中リスクに対する陽子線治療の前向き試験に着手
では、他の治療と比較した場合の陽子線治療のメリットとはズバリ何だろう。
「重大な合併症である直腸出血の発症率は、IMRTと比べても陽子線のほうが低いです。また、IMRTは多方向から照射するという性格上、骨盤の広い範囲に放射線がばらまかれる可能性も否めませんので、若い人にとって陽子線治療は良い治療だと思いますし、高齢者にとっても負担が少なく効果が期待できる良い治療です」
今後の展開としては、先述したとおり、先進医療Bで陽子線治療を行う11施設で、局所限局性前立腺がん中リスク(NCCN分類)に対する陽子線治療の前向き試験に着手している。登録終了後、結果が出るまで5年間の観察期間を要するが、その結果いかんでは、陽子線治療の保険適用が実現し、普及するきっかけとなるかもしれない。
「この前向き試験の足掛りとなった、先に述べた後向き研究の症例も今後追跡していきます。保険収載のための直接の判断材料にはなりませんが、長期予後を見ていくという点では重要なデータであると考えています」
さらに、粒子線治療では、今後、陽子線治療と重粒子線治療で住み分けがなされていくだろうと秋元さんは話す。
「重粒子線が手術非適応の骨軟部腫瘍で、小児がんは陽子線治療で保険収載です。放射線としての生物効果は陽子線よりも重粒子線のほうが高いですから、放射線治療の抵抗性が高い腫瘍に対しての治療が今後の中心になっていくのではないかと思います。一方、陽子線は、頭頸部がん、肺がん、肝がん、前立腺がんなどで実績を重ねています。これらの疾患では陽子線と重粒子線の治療効果は変わらないので、これらのがんについて陽子線が実施される可能性が高いと思います」
期待が持たれるラインスキャニング照射法
そして、今後期待されているのが、陽子線治療のスキャニング照射法。東病院はスキャニング照射法のうちラインスキャニング照射法を採用している。これは細いペンシル状のビームを標的となるがん細胞の形に合わせて一筆書きのように3次元的に照射する方法で(図)、従来の拡大ビーム照射という方法よりも、さらに複雑な形状のがん治療が期待されている。もちろん正常細胞への照射線量もかなり抑えられるという。秋元さんらは2015年12月に前立腺がんの患者に対して、この治療を世界初で行った。

このラインスキャニング照射法の発展型の強度変調陽子線治療ついての臨床試験も、再来年(2020年)から他施設とともに着手する予定だ。強度変調陽子線治療を含むスキャニング照射法の評価が定まると、さらに陽子線治療が適応できるがん種の幅が広がるかもしれない。
最後に秋元さんは、「特に前立腺がんの治療に関しては、いろいろと期待できますが、治療が適応できるのは、前立腺内に限局している早期のがんのみです。他の治療もしかりです。ですから、50歳を過ぎたら、一度はPSA検査を受けて、評価してもらったほうがいいでしょう。そして治療に入る前には様々な選択肢をもった施設で、それぞれの治療についてのメリットデメリットをしっかりと説明してもらい、経過観察なのか治療に臨むのか、治療を受けるならばどの治療を選択するのかを決めてください」とアドバイスをしてくれた。
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