前立腺がんは「早期発見、早期治療」がベストとは限らない! これからの治療選択肢の1つ、フォーカルセラピーを知ろう

監修●和久本芳彰 順天堂大学医学部泌尿器科学准教授
取材・文●菊池亜希子
発行:2019年1月
更新:2019年7月


臨床試験に参加するという形

前立腺がん治療には、監視療法と根治療法があり、その中間に位置するものとして、フォーカルセラピーが登場してきたことは理解いただけただろうか。

ただ、このフォーカルセラピー、欧米では症例数も多く成果も上げている一方、日本ではまだ標準治療に定められておらず、現状では臨床試験の段階であることを特記しなくてはならない。

臨床試験ということは、希望すれば受けられる、というわけにはいかない。厳密な基準と枠組みがあって、そこに合致した状態でなければ参加できないわけだが、先に提示した「PSA10(もしくは20)以下、グリソンスコア6以下、腫瘍堆積0.5cc以下」といった指標をある程度満たす状態、かつ高齢、もしくは合併症や副作用を回避したいとの希望があるならば、フォーカルセラピーという選択肢について、医師と相談してみるのもいいかもしれない。

現在、日本で現実的に受けることのできる前立腺がんのフォーカルセラピーの1つが、永久密封小線源部分療法。ヨウ素125というアイソトープをシード線源である小さなカプセル内に密封して、前立腺のがん病巣近辺にのみ埋め込む治療法で、順天堂大学医学部附属順天堂医院では、これを1次治療として行っている。放射線治療後の局所再発治療に対しては、東京医科歯科大学附属病院、京都府立医科大学附属病院などでも行っているそうだ(図3)。

他にも、高密度焦点式超音波療法(HIFU:ハイフ)や凍結療法など、フォーカルセラピーの方法はいくつかある。どれも海外では積極的に行われており、多くの報告がされているが、日本では、まだ臨床試験として限られた施設で受けられるのが現状だ。

HIFUは、強力な超音波を照射してがん細胞を壊死させる治療法で、体にメスを入れることもなく、低侵襲。肝がん、乳がん、腎がんなど各種がん、子宮筋腫や前立腺肥大などにも用いられており、前立腺がんも、全照射の根治療法としてならば、1999年に東海大学医学部附属八王子病院で導入されたのを皮切りに、全国で幾つかの医療施設が行っている。

フォーカルセラピーとなると、まだ日本ではあまり行われていないが、MRI-TRUS融合画像ガイド下生検でがんの位置を特定し、その場所を狙い撃ちするHIFUによるフォーカルセラピーは、排尿機能や性機能を残せる可能性が高い。実際、米国などでは、かな��積極的に行われており、データも集まってきているという。

一方、国内で前立腺がんに凍結療法を行っている施設として、東京慈恵会医科大学附属病院や京都府立医科大学病院が挙げられる。会陰部(えいんぶ)から前立腺内の腫瘍近位部に針を数本刺し、凍結用のアルゴンガスを注入してがん細胞をマイナス40℃に冷却することで細胞膜を破壊して死滅させる治療法だ。放射線治療後の局所再発に対するフォーカルセラピー(臨床試験)として2016年にスタートし、現在も臨床試験の形で行われている。

ちなみに凍結療法によるフォーカルセラピーも、HIFUと同様、米国での症例数は多く、結果も出している。

RI-TRUS融合画像ガイド下生検=核磁気共鳴画像(MRI)による3次元画像と超音波画像(TRUS)による2次元画像を融合して可視化した状況下での生体組織診断。2017年に先進医療Aに承認

フォーカルセラピーは、これからの治療になり得るか?

海外では積極的に進められているこれらのフォーカルセラピーが、なぜ日本ではなかなか進まないのか。それについて、和久本さんは次のように言及した。

「まず、フォーカルセラピーが日本では標準治療になっていないこと。そして、再発ありきの治療ということがネックになっていると思います」

さらに言うと、前立腺がんは、標準治療である既存の治療法が数多くあり、選択肢が充実している。そのことも、フォーカルセラピーが足踏みしている原因かもしれない。まず、根治療法に手術と放射線治療が並列で存在し、放射線治療に至っては陽子線、重粒子線を含めた外照射3種類、そして小線源療法など内照射2種類と選択肢が豊富だ。手術では、現在の主流はロボット手術である。それらはすべて、根治療法。やはり、できることなら根治を、との傾向が日本では強いのだろう。

だが、いま一度強調しておこう。前立腺がんは、進行が非常にゆっくりだ。もちろん、PSA検査での早期発見が重要なことは大前提だが、その上で、「臨床的に意義のないがん」を見極めることも、非常に大切だということを覚えておいてほしい。

PSA値が高かったからといって、慌てることはない。前立腺がんの治療法を選択するときは、病状、進行度はもちろんだが、加えて、患者自身の生き方、考え方、仕事、趣味など、すべてを天秤に載せて、治療後の生活を想像した上で選ぼう。

「大切なことは、自身の病態を正確に知り、的確な治療法を選ぶことです」

もちろん、がんを取り去るという意味では、根治療法がベスト。けれども、「その後の生活も含めての前立腺がん治療です」と和久本さんは言う。前立腺がん治療は、患者自身の生き方や趣味も踏まえて、治療法を選択できるようになってきているのだ。

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