脂質で増殖する前立腺がんには脂質の過剰摂取に注意! 前立腺がんに欠かせない食生活改善。予防、再発・転移防止にも効果

監修●堀江重郎 順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学教授/医学部泌尿器科学講座教授
取材・文●半沢裕子
発行:2019年1月
更新:2019年1月


有酸素運動は、前立腺がんによる死亡リスクを明らかに低減

もちろん、運動も不可欠。前立腺がんの診断後によく運動した人は、総死亡リスクおよび前立腺がんによる死亡リスクが低くなったという報告もあるという。これは米国ハーバード大学公衆衛生大学院のステイシー・A・ケンフィールド(Stacey A Kenfield)氏が、2011年1月に「ジャーナル・オブ・クリニカル・オンコロジー(Journal of Clinical Oncology:JCO)」誌電子版に発表した報告だ。

同氏らは1990年~2008年まで18年間に追跡した2,705人の男性に対し、前立腺がんと診断されたあと、1週間に平均どのくらいの身体活動を行ったか聞いた。

その結果、運動をした男性では生存率が高いことがわかった。さらに、運動習慣はその強度に関係なく総死亡リスクを低下させるが、より強い運動をより多くしたほうが、より死亡リスクが大きく低減することもわかった。

具体的には、普通あるいは速めのウォーキングを1週間に90分間以上行った男性は、楽なウォーキングを1週間に90分間未満行った男性と比べて、総死亡リスクが46%低く、激しい運動を週に3時間以上した男性では49%低くなったという。また、前立腺がんによる死亡リスクへの効果は、激しい運動をした男性にだけ見られたという。

この報告で実施された身体活動はウォーキング、ランニング、自転車、水泳、テニスなどのスポーツや、ガーデニングなどのアウトドア活動だったが、「効果が高いのはやはりジョギング、水泳などの有酸素運動だと思います」と堀江さんは言う(図3)。

ユネスコ無形文化遺産になった、昔ながらの和食が前立腺がんの基本食

では、具体的には何を食べればいいのだろうか。堀江さんは言う。

「地中海式ダイエットもいいのですが、もっといいのは脂質の少ない昔ながらの和食だと思います。これを食べていれば前立腺がんになりにくいし、なっても進行しにくいと思います。厚生労働省も推奨しています」

「食材としてはまずブロッコリーや小松菜、大根やカブの葉などのアブラナ科の葉物野菜。PSA値を低下させるという報告があります。また、トマトも前立腺がんの��防について海外に多くの報告があります。肉よりは魚を多く食べ、油は不飽和脂肪酸の中でもオメガ(ω)9に分類されるオリーブオイルやオメガ3に分類されるEPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)などの魚油を使うことです」

大豆に含まれるイソフラボンも前立腺がんの予防効果があるという。厚生労働省研究班の多目的コホート研究(JPHC研究)でも、「大豆製品・イソフラボンをよく摂取するグループで限局性前立腺がんの発症リスクが低減した」という結果が出ている。そのほか、大豆が前立腺がんのリスクを約30%低減させるとするメタ解析の報告もある。

堀江さんのチームでは、大豆イソフラボンとウコンの成分であるクルクミンを同時に摂取することでPSA値が約5割下がり、排尿しやすくなったという研究結果も出ているという。もう1つ、JPHC研究では緑茶をよく飲むグループで、進行前立腺がんのリスクが低減するという結果も出ているとのことだ。

動物性脂質に注意。コップ1杯の牛乳にはベーコン5枚分!

逆に、気をつけなければならない食べ物は、とにかく動物性脂質だという。

「PSA値が高いということは前立腺がんが存在するかどうかを示すだけでなく、前立腺の中に炎症があるかどうかも示しています。そして、炎症を起こしやすい食べ物が動物性脂肪やコーン油などです」

「意外なほど動物性脂質を多く含むのが牛乳です。コップ1杯でベーコン5枚分ですよ。JPHC研究でも乳製品をよく摂るグループは前立腺がんになりやすいという結果が出ています。また、マーガリンやショートニングなど人工的に作られた食用油であるトランス脂肪酸は、今日、世界的にも使用が禁止・規制されつつある油ですが、日本ではやっと規制がされ始めたところであり、多くの食品に使われているので、注意が必要です」

トランス脂肪酸は2003年に世界保健機関(WHO)が「その摂取量を総エネルギーの1%未満に留めるべき」との勧告を出し、デンマークではいち早く同年、これを規制している。アメリカでも昨年2018年6月には食品医薬品局(FDA)が全面的に食品への使用・添加を禁止した。

変異しやすく体内に蓄積しやすく、アトピーなどのアレルギー症状、心筋梗塞など血管系の病気、肥満などの原因ともいわれている。前立腺がんのためでなくても、できるだけ摂取したくない食品の1つと言える。

また、ポテトチップスなどには発がん物質のアクリルアミドが含まれていることは、よく知られている。とくに穀類、いも類を油で揚げたものに多く含まれている(農林水産省HP)。

「もうひとつは鶏(ニワトリ)の皮ですね。鶏肉を揚げたり焼いたりしたときに出てくる脂が、前立腺がんを促進することがわかっています。全米がん登録からの報告では、加熱した鶏の皮を食べている患者さんは、前立腺がんの患者さんの中でも再発・転移しやすいことがわかっています」

食べたほうがいいもの、食べないほうがいいもの、大体わかってきたのではないだろうか。とは言え、食べ物はバランスよく食べることが大事であり、例えば、最近流行の糖質ダイエットも糖質を摂り過ぎないことは重要だが、極端に行うことは勧めないと堀江さんは語る。

「糖質を摂らないと男性ホルモンが作られず、筋肉が痩せてしまいます。また、糖質を減らせば、どうしてもタンパク質と脂肪の摂取が増えますから、結果として前立腺がんになりやすい状態を作ってしまう可能性があります」

それでも、食生活を変え、運動し、ストレスをためないようにするという日常生活の改善によって、前立腺がんを発症せずに済んだり、発症しても再発・転移せずに元気に過ごせる可能性が高いというのだから、ぜひ試していただきたいと思う。

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