前立腺がん再発とわかっても、あわてないで! 放射線治療後に局所再発しても、凍結療法で救済できる
凍結療法を受けた患者のその後
慈恵医大では2019年12月時点で、放射線治療後の局所再発に対する救済治療としての凍結療法を12例行っている。12人の患者の前治療としては、IMRT、密封小線源治療、重粒子線治療、陽性線治療と様々で、前治療後、凍結療法をするまでの期間の平均は70.5カ月。つまり、放射線全照射後5年10カ月ほど経ってPSA値が再び上昇し始めた。そこで造影MRI、針生検し、小さい再発でつかまえて凍結療法を行ったということだ。
ただし、5年を超えてPSA値が上昇したときの平均値は3.44。最も高い人でも5である。先にも述べたが、放射線治療を施すと、PSA値はいったん0.5や0.3など、限りなく0に近い値まで下がる。一般的に「PSA値4までは正常」というが、それはあくまでも、がんを見つけようとするときの基準値。一度がん治療してPSA値が0近くまで下がった人には当てはまらないことは覚えておこう。
「1例を挙げると、前治療から5年を超えたころPSA値が上がり始め3.5を超えたので造影MRIをしたら、ほんの小さく造影されました。つまり、がんが見えたわけです。その場所を狙って針生検をしたら、22本中1本に陽性が出たので、凍結療法を行いました。その後2年経ちますが、経過は順調。PSA値も低いままなので治癒に向かっていると思います」
画像5の凍結療法前の写真で、白く造影されているところが、がん。凍結療法後、その部分が真っ黒になったのは、組織が破壊され血液が届いていないからだ。つまり、がんが完全になくなったことを示している(画像5)。

ちなみに、このとき施される針生検はマッピング生検といい、非常に緻密なものである。無数の穴の空いた板を使い、その穴から針を刺すことで、生検した1つひとつのサンプルの場所を明確化する。密封小線源を前立腺内に埋め込むときに使う板と同じものを使用するそうだ。
凍結療法を行った12例中、10例はその後の再発もなく経過順調とのこと。2015年に行った人はすでに4年を経過している。ただ、2例については、その後PSA値の上昇が見られ、それぞれ次の治療に入っている。
1例は、リンパ節転移を起こした。これは凍結療法を行った時点ですでに目に見えない微小転移があったと予想されるケース。現在、全身治療であるホルモン療法に進んでいるとのこと。
もう1例は、前立腺内の凍結療法を施した部分とは違う場所に新たな再発が見つかったというケース。最初に重粒子線治療をして、数年後に救済凍結治療をしたにも関わらず、凍結していない部位からがんが再発したということ��、前立腺全摘を行なった。
12例中10例が経過順調。2例は再発したが、次の治療に進み、現在も元気に暮らしているとのこと。総括すると、放射線治療後の局所再発への救済治療として、凍結療法は非常に有効な治療法と見て良いのではないだろうか。
ただ、凍結療法は現時点では保険適用がなく、先進医療指定もされていないので、治療費は全額患者負担。150万円ほどかかることを付け加えねばならない。
凍結療法の強みと限界
さらに、凍結療法の強みについて三木さんは語った。
「凍結療法は〝小さいがん〟であることは必須ですが、悪性度が高くても細胞を破壊することができるのが強みです。一般的にグリソンスコアが高いがん、つまり顔つきの悪いがんは悪性度が高く、タチが悪いとされますが、凍結療法の破壊力は強烈なので、グリソンスコアがたとえ9でも破壊できる。つまり、治すことができるのです。実際、凍結療法の適応を判断するとき、がんの大きさは重視しますが、悪性度はほとんど気にしません」
とはいえ、先述の通り、破壊力の強さゆえ、周辺組織への影響も大きいため、前立腺内に限局していたとしても、大きくなってしまったがんは適応外。以前、欧米では限局がんであれば多少大きくても凍結療法が行われていた時期もあったそうだが……。
「凍結療法の破壊力からすれば、前立腺全体を冷やせば、全摘に匹敵する治療になるのではないかと考えられた時期も欧米では確かにあったのです。ところが、副作用が強すぎて、尿道狭窄(きょうさく)や神経障害などの重大な副作用が頻発したため、根治治療には難しいことがわかりました。現在は世界的にあまり行われていません」
それでは、実際、どのくらいの大きさなら凍結療法の適応になるのだろうか?
「悪性度が高くても、前立腺内に限局していて、かつ小さければ適応とは言えます。前立腺そのものの大きさも人によって違うので、実際の大きさを表現するのは難しいのですが、およそ1㎝未満というところでしょうか。ただ、これは状況によって変わってきますので、適切な表現は何㎝ということではなく、造影MRIでがんの存在が確認できて、マッピング生検の陽性コアが少ないこと。つまり、22本刺した生検針の1~5本にのみ陽性が出る、ということです」
ちなみに、マッピング生検時に刺す針の本数は、最低22本。MRIの画像をもとに刺すので、怪しい場所に追加で2〜3本刺すこともあるのだという。
これらの条件を満たしてもなお、1つだけ凍結療法が苦手とすることがある。
「実は、がんが小さくても、前立腺の真ん中にできてしまった場合は、凍結療法が難しいことがあります」と三木さんは指摘した。
前立腺の真ん中には尿道が通っているので、凍結療法の最中は、尿道を守るためにカテーテルを入れて温水を還流させて温めている。つまり、前立腺の真ん中にできたがんは、尿道のすぐ脇にあるということ。尿道に温水を流している分、その近辺は当然、あまり冷えない。つまり、十分に凍結されない可能性が高いのだ。
前立腺がんは「早期発見、早期対応」
最後に、初期治療で放射線治療をして、数年経ってPSA値が上昇してきたときのことに触れておこう。
繰り返しになるが、放射線治療を受けるとPSA値は0近くまで下がる。その最低値からプラス2を超えたら「生化学的再発」と呼ぶそうだ。例えば、放射線治療後にPSA値が0.5になった人は、その後の経過観察の中で2.5を超えた時点で生化学的再発と見なされる。
しかし、それはあくまでも血液検査において再発の定義に引っかかったというに過ぎない。生化学的再発に該当したからといって、通常の画像検査で実際の再発部位を見つけるのは難しい。造影剤を入れたMRIで初めてほんの小さながんが見つかることがあって、その場合、再発と見なされ、針生検を経て凍結療法が適応になるわけだ。しかし、全国的には再発精査のために造影MRIはあまり行われていない。
「その先の治療法があるから、検査をするのです。我々のところには凍結療法という方法があるから、生化学的再発になったとき、造影MRIを撮り、マッピング生検をします。つまり、その先の治療法がない施設では、そうした検査自体、行われないということです」
前立腺がんにおいて、全国的に標準治療は確立されているものの、施設による格差が大きいことは否定しようもない事実。施設によっては、生化学的再発と見なされた時点で、即、ホルモン療法へ誘導されることも多いという。
「前立腺がん治療全般で言うと、根治治療としての手術と放射線治療の成績が非常に優秀で、多くの患者さんが治癒を得ています。ただ、確率は低いながら再発する人も中にはいて、そのとき、どのような再発かの検証もないまま〝再発したのでホルモン療法を受けてください〟となってしまいがちなのです」と三木さんは話す。
慈恵医大で再発の救済治療として凍結療法を受けたのは、現時点で12人。そのほとんどが、患者自身、もしくは家族が必死に調べてたどり着いた人たちだそうだ。先ほど紹介した、凍結療法後に、前立腺内の違う場所に再発を起こした患者は、放射線全照射→凍結療法→手術(全摘)という治療経過をたどり、今現在もホルモン療法をすることなく元気に過ごしているとのこと。凍結療法にたどり着いていなかったら、何年も前からホルモン療法に入っていたことだろう。最後に三木さんは、こう語った。
「凍結療法の背景には、前立腺がん治療の地域差もあり、医師の考え方の違いもあると思います。そもそも、がん治療の前提は〝早期発見、早期治療〟ですが、前立腺がんに限っては、敢えて〝早期発見、早期対応〟と言うべきでしょう。前立腺がんが見つかってすぐに『ロボット手術で全摘しましょう』、あるいは『最新の機器で放射線治療をしましょう』などと言われたら、患者さん自身が立ち止まってください。前立腺がんは、早期であればすぐに治療開始すべきでないものがほとんど。そもそも、生涯、治療の必要がないものも数多くあるのです。そんながんまで見つけ出して、やみくもに手術や放射線治療をしたりしないために、監視療法があります。何より大切なことは、前立腺がんと言われても、あわてないこと。医療の進歩とともに、患者さん自身が賢くなって、本当に必要な治療を選べるようになってほしいと思います」
同じカテゴリーの最新記事
- 放射性医薬品を使って診断と治療を行う最新医学 前立腺がん・神経内分泌腫瘍のセラノスティクス
- リムパーザとザイティガの併用療法が承認 BRCA遺伝子変異陽性の転移性去勢抵抗性前立腺がん
- 日本発〝触覚〟のある手術支援ロボットが登場 前立腺がんで初の手術、広がる可能性
- 大規模追跡調査で10年生存率90%の好成績 前立腺がんの小線源療法の現在
- ADT+タキソテール+ザイティガ併用療法が有効! ホルモン感受性前立腺がんの生存期間を延ばした新しい薬物療法
- ホルモン療法が効かなくなった前立腺がん 転移のない去勢抵抗性前立腺がんに副作用の軽い新薬ニュベクオ
- 1回の照射線量を増やし、回数を減らす治療は今後標準治療に 前立腺がんへの超寡分割照射治療の可能性
- 低栄養が独立した予後因子に-ホルモン未治療転移性前立腺がん 積極的治療を考慮する上で有用となる
- 未治療転移性前立腺がんの治療の現状を検証 去勢抵抗性後の治療方針で全生存期間に有意差認めず