未治療転移性前立腺がんの治療の現状を検証 去勢抵抗性後の治療方針で全生存期間に有意差認めず

監修●成田伸太郎 秋田大学大学院研究科腎泌尿器科学講座/同大学附属病院血液浄化療法部准教授
取材・文●伊波達也
発行:2020年3月
更新:2020年3月


時間の経過とともに生命予後は変わっていく

成田さんは、同じデータベースを使って、サバイバー生存率をテーマにした研究も行っており、『初診時転移性前立腺がんにおける Conditional net Survival』という研究で、2019年4月の日本泌尿器科学会総会で報告している。

がんは最初に発見されると、検査データには生命予後を予測するためのいくつかの因子が存在している。前立腺がんの場合は、臓器転移の有無、骨転移個数、グリソンスコア、PSA(前立腺特異抗原)などが大きく関わる。

「それぞれの因子から類推して、“あなたはこういう状況ですので何年くらい生きられます”ということを通常は患者さんに説明することになります。例えば、患者さんにお話しする時、転移性であれば、“あなたの病状だと一般的には、5年生存率は50%強です”ということになるのです。つまりそういうがんが見つかった場合には、約半分の人は5年程度で亡くなりますということを意味します。

しかし、そうすると患者さんは“僕は5年で亡くなるのか”と思いながらずっと治療を受けていかなくてはなりません。でもそれはおかしな話なのです。その後1年生きた方は、あと4年しか生きられないというわけではありません。時間の経過とともに、生存の可能性は当然変わっていくわけです」

従来とは異なる統計学的手法が必要に

今までの統計解析では、予後に関しては、単純な診断時での5年生存率という情報しかなかった。そこでそれを調整する統計学的手法が必要だということになったのだという。

「そこで出てきたのがサバイバー生存率という考え方です。1年生存した人はそこからどれくらい生きられるか、2年ではどうかと算出する方法です。転移のある患者さんの予後は年次を追うごとに変わるのは当たり前のことなのに、今までは全く検証されていなかったのです。そしてこの結果は、初診時に通常言われる生存率からどんどんよく良くなっていくことが証明されました」

実際、605例のベースラインの5年生存率は、5年がん特異的生存率が65.5%で、5年全生存率が58.2%だった。その後5年経過時点では、5年がん特異的生存率が90.6%、5年全生存率が81.1%となった。

予後因子として骨転移数が一番重要

また、予後に関連する因子は時間の経過とともに変わってくる可能性があるという。

「この研究では診断時の痩せ、全身状態、リンパ節転移の有無、骨転移の数、PSA高値、貧血、血清LDH(乳酸脱水素酵素)値が予後因子となることがわかりました。しかし、年次毎に予後因子が変わっていくことも見出しました。最終的に5年生存した患者さんで予後因子となったのは骨転移の数(6個以上)のみでした。逆に診断時に予後因子であった他の因子は予後因子ではなくなりました」

通常、診断時の情報を元に予後を予測するが、多くの因子は生存期間の延長とともに予後因子ではなくなり、最終的に骨転移が6個以上ある患者は何年経っても予後不良であり続けるということが今回の研究でわかったという。

「現在、海外からの報告で骨転移の個数は予後を区別するmHNPCの重要な因子であることが言われていますが、今回のサバイバー生存解析の結果から、本邦においても骨転移の数はホルモン単独療法で始めた患者さんの予後因子として最も重要な可能性がある」と指摘する。

「腫瘍マーカーが高い(PSA)、がんの顔つきが悪い(グリソンスコア)の数値の方が予後にとって重要だという意見もたくさんあります。ただ、その中で骨転移の数が一番重要だということを今回見出すことができました。この結果を通じての一番の成果は、患者さんに伝えるときに、より正確にわかりやすく余命や予後因子の状況を伝えられる可能性が出てきたことでしょう」

患者の予後因子で最適な治療法が異なる

「今後は、最適な治療によって、個々の患者さんの予後因子や予測因子で大分変わってくるという可能性があるため、どういう患者さんにどのアップフロント治療がメリットになるかを検証し、それによって患者さんの予後やQOL(生活の質)を向上させていくことが研究のメインテーマになります」と成田さんは力説する。

成田さん、そして『みちのく泌尿器癌研究班』の今後の研究に大いに注目したい。

1 2

同じカテゴリーの最新記事