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講演5「前立腺がんの転移・再発治療」
転移・再発してもあきらめないで!治療法はまだたくさんある
演者:佐藤威文 北里大学大学院医療系研究科泌尿器科学講師
![]() | 「再発・転移でも治療法がある」と強調する 佐藤威文さん |
再燃したら薬を替えていく

前立腺がんの再発を見極める際、生化学的再発と臨床的再発の2つの定義があります。
生化学的再発では、手術や放射線治療のあと、PSA検査の数値が一定以上になった場合に再発と認めます。たとえば、PSAが放射線治療後の最低値から2ナノグラム(血液1ミリリットル中)以上増えた場合がそうです。臨床的再発では、画像診断や触診などで、局所再発、リンパ節やほかの臓器への転移がわかった場合、再発と診断します。
生化学的再発では、1次治療が手術だった場合、根治を目指して放射線治療を行うことがありますが、適応は限られます。
ホルモン療法は長期にがんの進行を抑えられるのですが、やがてがん細胞が慣れて効かなくなり(去勢抵抗性という)、再燃(がんが再び増殖すること。ホルモン療法では再発と呼ばない)するケースが少なくありません。
そうした場合、「アンチアンドロゲン症候群(*)」の確認のため、まずは抗男性ホルモン剤をしばらく休止する方法もあります。抗男性ホルモン剤は複数の種類があるので、効かなくなったら薬を替えていきます。それでも再燃した場合、今度は抗がん剤と女性ホルモンの合剤であるエストラムスチン(一般名)、ステロイド、次にタキソテール(*)といった具合に、別の薬物療法に移行していきます。
タキソテールが効かなくなっても、まだ打つ手はあります。
米国では最近、治療用がんワクチンのサイプリューセル-T、抗がん剤のカバジタキセル、抗ホルモン剤のアビラテロン(いずれも一般名)など、前立腺がんの新薬が次々と承認されています。これらの薬は、数年のうちに日本でも使えるようになるでしょう。
*アンチアンドロゲン症候群=去勢抵抗性のがん細胞のなかには、男性ホルモンの刺激がない場合に増殖するものがある。そのため、抗ホルモン剤投与をやめた影響で、一時的にがんの増殖も止まること
*タキソテール=一般名ドセタキセル
骨転移が圧倒的に多い

一方、前立腺がんの転移に対しても、さまざまな治療法が登場してきました。前立腺がんの転移で圧倒的に多いのは骨転移です。
骨には骨を作る造骨細胞と、骨を破壊する破骨細胞があり、造骨細胞と破骨細胞がバランスよく働くことで骨は再生を繰り返し、新しい状態を保っています。ところが、がん細胞は骨に転移すると、増殖するスペースを確保するため、破骨細胞を操って骨をどんどん破壊させてしまいます。そのため、骨転移が起こると、骨がもろくなって骨折したり、激しい痛みに苦しめられたりするのです。
これまでの研究で、前立腺がん患者さんで骨折した人と骨折していない人を比べたところ、骨折していない人のほうが、生存期間は有意に長いことがわかっています。したがって、骨転移の治療は、前立腺がんの予後を改善するのにも役立つといえるでしょう。
骨破壊を抑える薬が普及してきた
骨転移の治療で最も普及しているのが、骨の破壊を抑えるビスホスホネート製剤。この薬は破骨細胞に入り込んで、その働きを抑えたり、寿命を縮めたりすることで、骨の破壊を食い止めます。その結果、骨転移巣の増殖も抑えるのです。
ビスホスホネート製剤は医療施設を問わずに使え、反復投与できるといった長所があります。その反面、まれに腎機能障害が起こったり、下あごの骨が溶けてしまったりする重大な副作用があるので、使う際には注意しなければなりません。
現在使われているビスホスホネート製剤は数種類ありますが、なかでも、薬効が最も大きいといわれているのがゾメタ(*)です。骨転移のある去勢抵抗性前立腺がん患者さんを対象とした比較試験では、ゾメタを投与したところ、骨折や脊髄の圧迫、痛みなどの症状が有意に減ったという結果が出ています。
このほか、骨転移巣に対する放射線照射、破壊された骨を補強する骨セメント療法もあります。また、骨破壊が盛んな部位に集まりやすいストロンチウム89という放射性物質を利用し、骨転移巣を叩く「放射線核種治療」という新しい治療もあります。
前立腺がんが残念ながら再発・転移してしまったとしても、このようにさまざまな治療法があるので、あきらめずに前向きに治療に取り組んでください。
*ゾメタ=一般名ゾレドロン酸
Q&Aセッション
「共に戦っていくための、今知っておくべき最新情報」

市民公開講座参加希望の患者さんやご家族から、あらかじめ寄せられた前立腺がんに関する質問について、専門の研究者がそれぞれ答えた。質疑応答のいくつかを紹介しよう。
Q. 術後の尿漏れに悩んでいる。よい対策はないか
A. 尿漏れを防ぐ手術もある (座光寺秀典さん)
講演では、骨盤底筋体操(講演2参照)をご紹介しましたが、改善が見られない場合、ほかにもいくつか方法があります。
「尿道内コラーゲン注入法」は尿道を囲む粘膜にコラーゲンを注入する内視鏡手術。ただし、効果が不十分なケースが多く、効果があっても長続きしないのが難点といえるでしょう。特殊な器具を尿道のまわりに巻きつける「人工括約筋埋没手術」もあります。尿漏れを防ぐ効果は大きいのですが費用が高く、手術をできる医療施設が少ないのがネックです。
Q. 密封小線源療法に副作用はあるか
A. 放射線の強いタイプには出ることも (早川和重さん)
前立腺に放射線源(粒状)を永久的に埋め込む方法では、線源から出る放射線が微弱なので、これといった重大な副作用はないでしょう。
ただし、前立腺にチューブを刺し込んで、その中に放射線源を一時的に入れる方法では強い放射線が出るので、たとえば、尿道の近くに放射線源を入れた場合、放射線が尿道にも当たり、なかには尿道狭窄(尿道が細くなってしまうこと)が起こってしまうケースもあります。
Q. PSAの数値が低下。ホルモン療法をやめられないか
A. 治療をしばらく休む間欠的ホルモン療法を行うことも (丸茂 健さん)
PSAがどこまで減ったら治療をやめられるか、といった目安は今のところありませんが、副作用がつらいとか、医療費の負担が重いとかいった場合、「治療をしばらく休む」という手もあります。主治医と相談してみてください。ただし、治療をやめると、いつまたがんが再燃するかわかりません。治療を休む場合は、こまめなチェックを欠かさないようにしましょう。
Q. 骨転移でもQOLを保つにはどうしたらよいか
A. がんを抑える治療とビスホスホネート製剤を併用 (佐藤威文さん)
骨転移が1カ所程度であれば、まず転移巣に放射線を局所照射することで症状を抑えることができます。骨転移が多数ある場合、薬物による全身療法が、転移巣の増殖を抑えるのにも有効なので勧められます。骨転移に特異的に効く「放射線核種治療」(講演5参照)も、全身に広がった骨転移に対して効果を発揮するといえます。
それと同時に、骨破壊を防ぐビスホスホネート製剤(講演5参照)も使ったほうがいいでしょう。がんを抑える治療とゾメタを併用すれば、骨転移の症状を長期間抑えられることが研究でわかっています。
Q. 前立腺がんの再発予防に役立つ食品はあるか
A. トマトやブロッコリーがおすすめ (遠藤文康さん)
これまでの研究では、トマトの前立腺がんの予防効果が知られています。そのほか、ブロッコリー、大豆なども前立腺がんの予防効果があると考えられています。これらの食品を、日常の食生活に積極的に取り入れるといいでしょう。
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