手遅れにならないためには、受診をためらわないことが大切 これだけは知っておきたい泌尿器がんの基礎知識 前立腺がん編
4段階の病期に分類して治療
PSA検査や症状などで前立腺がんの可能性が疑われる場合、直腸指診や超音波検査が行われる。直腸指診は、直腸に指を入れ、直腸壁越しに前立腺に触れて、がんの有無を調べる。超音波検査は、直腸から超音波を発振して周囲を画像化する。前立腺の大きさもわかる。
直腸指診や超音波検査で前立腺がんが疑われる場合には、前立腺生検が行われる。
「前立腺全体に針を10本余り刺し、組織を採取します。針を直腸から刺す方法と、会陰部から刺す方法があります。がんの有無に加え、がんの部位や広がりもわかります」
採取した細胞は顕微鏡で調べ、悪性度の指標となるグリソンスコア(2~10の9段階で評価)を出す。これが6以下なら低悪性度、7なら中悪性度、8~10なら高悪性度である。
次に行われるのは、局所でのがんの広がりを調べる検査。CT(コンピュータ断層撮影)ではリンパ節転移の有無を、骨シンチグラフィ(*)では骨への転移の有無を調べる。
また、MRI(核磁気共鳴画像法)では、がんが前立腺の被膜に浸潤していないか、周囲(精嚢や骨盤内のリンパ節)に浸潤・転移していないかを調べる。
以上の検査により、次のように病期分類が行われる。
●病期A……前立腺内に止まる小さながん。前立腺肥大症の手術で切除した組織から見つかり、偶発がんとも呼ばれる。
●病期B……局所限局がん。前立腺内に止まっている。
●病期C……局所進行がん。前立腺を包む被膜や精嚢など隣接する組織に広がっている。
●病期D……転移がん。リンパ節、骨、他臓器に転移している。
病期に応じて、適切な治療法が選択されることになる。
*骨シンチ(骨シンチグラフィ)検査=放射性医薬品を使う骨の核医学検査で、がんが骨に転移していないかを調べる
局所に限局していると治療の選択肢が豊富
前立腺がんの治療は、病期Dから解説すると理解しやすい。
「病期Dでは全身的な治療が必要なので、原則としてホルモン療法が行われます。男性ホルモンに依存しているがんなので、それを遮断する治療法��す」
使われる薬は、男性ホルモンの分泌を抑えるLH-RHアゴニストと、男性ホルモンががんに作用するのを抑える抗男性ホルモン剤。治療を続けていると、いずれ薬が効かなくなってくる(去勢抵抗性という)。
このような去勢抵抗性の前立腺がんには、タキソテール(一般名ドセタキセル)という抗がん剤や他のホルモン療法剤が使われる。
「病期Cは、一般的にはホルモン療法と放射線療法の併用。ただ、病期Bに近い初期のCなら、前立腺の周囲を広く切除する手術も行われています」
患者さんの希望によっては、ホルモン療法単独で治療する場合もあるそうだ。
放射線療法にはいろいろな方法がある
病期Bの場合、手術、放射線療法、ホルモン療法、経過観察という大きく分けて4つの選択肢がある。さらに、超音波を集中させてがんを焼き切るHIFU(高エネルギー焦点式超音波治療)のような特殊な治療を行う施設もある。
「手術にはいくつかの方法があり、1番新しいのはロボット手術。立体的な画像を見ながら、ロボットアームを操作して前立腺を切除します。日本でも行われるようになってきました」
一般的には、腹腔鏡手術か開腹手術。患者さんの身体的な負担が軽いのは腹腔鏡手術で、かなり普及している。
手術の合併症として尿失禁があるが、最近では、ひどい失禁が続くということはほとんどなくなっているという。合併症で苦しまないためには、手術数がある程度多い医療機関を選ぶほうがいいようだ。
放射線療法には、体の外から照射する外照射と、内側から照射する組織内照射がある。
外照射には、3次元照射と、更に進歩したIMRT(強度変調放射線治療)という方法がある。どちらも体の周囲から放射線を照射し、体の奥のがんに放射線を集中させ、できるだけ直腸に影響を及ぼさない治療法だ。
粒子線という特殊な放射線を使う治療も行われている。
「陽子線と重粒子線がありますが、どちらも体の深部でエネルギーが最も高くなるのが特徴。そこにターゲットのがんを持ってくれば、周囲の組織への影響を抑えながら、高い治療効果が得られます。どちらも先進医療で、治療費は高額です」
組織内照射では、密封小線源療法(*)がかなり普及している。弱い放射線を出すヨード125という小さな線源を、前立腺に埋め込む治療法である。
「密封小線源療法は、短期で治療がすみ、直腸障害が少ないのが長所。ただし、グリソンスコアが6以下で、PSA値も低い低リスクの人が最も良い対象です」
中リスク、高リスクに対しては、高線量率小線源療法という治療法がある。イリジウム192という比較的強い放射線を出す小さな線源を、短時間だけ前立腺に入れる。治療効果は高いが、密封小線源療法に比べると、直腸出血や尿道狭窄などの合併症は起こりやすいという。
経過観察という選択肢もある。グリソンスコアが6以下、針生検で陽性が1~2本、PSAが10未満など、悪性度の低い人が対象となる。
「前立腺がんの患者さんの中に、治療を必要としないような、小さく、悪性度も低いがんがあるのは確かです。どういう場合に治療しなくていいのかがわかれば、無駄な治療が防げます」
そのための国際的な研究が進められているそうだ。
*密封小線源治療=放射線を外から当てる外照射と異なり、線源挿入用導管(アプリケーター)を病巣部に設置した後に、遠隔操作で線源を挿入し体内において放射線治療を行う
泌尿器がんに負けないために
最後に、泌尿器がんで命を落とさないために、何をすべきなのかをまとめてもらった。
「まず大切なのは恥ずかしいからと受診をためらわないことです。たとえば、血尿など気になる症状があったとき、泌尿器科は行きにくいからとためらうと、それで手遅れになってしまうことがあります」
もう1つは、PSA検診を受けることだ。検診として有効ではないという意見もあるが、手遅れにならなくてすむツールがあるのだから、自分が前立腺がんで命を落とさないためには使うべきだという。
「新しい薬がどんどん登場していますし、泌尿器科全体でも、この5年ほどで相当の数の薬が出てきました。これで終わりではなく、まだ新しい薬が予定されています」
この分野は治療が急速に進歩している。現在がんを抱えている人も、希望を持って治療に取り組んでほしい。
同じカテゴリーの最新記事
- 放射性医薬品を使って診断と治療を行う最新医学 前立腺がん・神経内分泌腫瘍のセラノスティクス
- リムパーザとザイティガの併用療法が承認 BRCA遺伝子変異陽性の転移性去勢抵抗性前立腺がん
- 日本発〝触覚〟のある手術支援ロボットが登場 前立腺がんで初の手術、広がる可能性
- 大規模追跡調査で10年生存率90%の好成績 前立腺がんの小線源療法の現在
- ADT+タキソテール+ザイティガ併用療法が有効! ホルモン感受性前立腺がんの生存期間を延ばした新しい薬物療法
- ホルモン療法が効かなくなった前立腺がん 転移のない去勢抵抗性前立腺がんに副作用の軽い新薬ニュベクオ
- 1回の照射線量を増やし、回数を減らす治療は今後標準治療に 前立腺がんへの超寡分割照射治療の可能性
- 低栄養が独立した予後因子に-ホルモン未治療転移性前立腺がん 積極的治療を考慮する上で有用となる
- 未治療転移性前立腺がんの治療の現状を検証 去勢抵抗性後の治療方針で全生存期間に有意差認めず