PSA値が上下したからといって、一喜一憂してはいけない 前立腺がん治療におけるPSAとの上手な付き合い方

監修:赤倉功一郎 東京厚生年金病院泌尿器科部長
取材・文:林義人
発行:2010年7月
更新:2013年4月

ホルモン療法後のPSA再燃
「PSA値2」で判断

[ホルモン療法におけるPSA値の動き]
図:ホルモン療法におけるPSA値の動き

単独のホルモン療法を始めたあと、がんが勢いを増してくることを「再発」ではなく、「再燃」という。ホルモン療法は手術や放射線治療のように根治を目指したものではなく、がんを小さくして進行を遅くすることを目標にしているからだ。その再燃の定義は2001年の『前立腺癌取扱い規約』の中では、「PSA値の3回連続上昇」としているが、最近になって新しい考え方が示された。

「米国の前立腺がんワーキンググループのガイドラインでは、再燃の基準として、2回以上、PSAの値が、『2』という数値であれば再燃と提唱されています。ただし、測定にあたっては、1回目と2回目で1週間以上期間をあけて測ることとしています。一方、『前立腺癌取扱い規約』では、絶対値を考えているわけではなく、たとえばPSA値が0だった人が、0.1→0.2→0.3でもこれに該当します。現状ではどちらを再燃の基準とするかは医師によって異なっています。ただ専門医は、米国で提唱されている基準を使うことが多いと思います」

ホルモン療法を行えば前立腺の働きは抑えられるので、普通PSAはそれほど乱高下することはない。逆に急上昇するような場合は、病状が悪いと考えなければならない。どのくらいのペースで上昇していたら注意が必要かというと、PSAが2倍になるまでの期間=ダブリングタイムというものが目安にされている。

「生物の細胞は、細胞分裂により倍々と増えていくので、PSAもダブリングタイムがどのくらいかということが、がん進行の目安とされるわけです。ダブリングタイムが2、3カ月というのは病状の悪化が速く、3年、4年というふうに、期間が長ければ病状の進行もゆっくりだと考えられます。もちろんこれだけでがんが全てわかるわけではありませんが、ある程度予測ができるわけです」

なお、再燃した場合の治療としては、タキソテール(一般名ドセタキセル)を用いた抗がん剤治療が標準である。治療を開始すると、普通はPSAがすぐに下がり始め、4、5割の例ではPSA値が半分以下になる。しかし、最初の1~2カ月上がり続けその後に低下してくる「PSAフレア」と呼ばれる現象が起こることもある。

「この現象を知らないで、せっかく抗がん剤治療を始めたのに、『薬が効かない』と判断して中断してしまうこともあります。注意してほしいですね。1~2回目の治療でPSAが上がっても副作用が強くないかぎり『もうちょっとやってみよう』と考えるべきです」

監視療法とPSA
2年で値が倍になったら治療を

前立腺がん治療の1つに「PSA監視療法」というものがある。早期の前立腺がんと診断されても、できるだけ体に負担の大きい治療を受けずにPSA値を注意深く見守って過ごすというものだ。

基本的に、生検の結果おとなしくて小さながんでPSA値が10以下の患者さんが適応とされ、最初の6カ月は2カ月ごとにPSA検査、その後は3カ月ごとに検査する。

そして、放射線治療を受けた場合と同じように、ダブリングタイム、すなわちPSAの値が2倍になるまでの期間が2年以下になったときに治療開始を検討する。

「欧米ではこの療法をウォッチフル・ウエイティング(観察待機)ではなくアクティブ・サーベイランス(積極的監視)という呼び方をするようになってきました。PSAのダブリングタイムを見て、的確に治療に結び付けようというわけです。厚生労働省のがん会議でも『2年以内にPSAの値が倍になったら治療する』としています」

[間欠的ホルモン療法中のPSA値]
図:間欠的ホルモン療法中のPSA値

一方、ホルモン療法を始めてもPSAが下がったら治療を休み、上がってきたら再び治療を始める間欠的ホルモン療法というものがある。赤倉さんはこういった治療法を進める場合も、「PSAを使って監視する」と話す。

「再燃をきたしてから治療を始めても手遅れになります。ですから、ホルモン剤が効いているうちに別のホルモン剤を使うなど、別の手を打っていく必要があるのですが、その目安は難しく、PSAを注意深く見つつ判断していく必要があります」


[前立腺がんの病期と治療]
図:前立腺がんの病期と治療

出典:国立がん研究センターがん対策情報センター『前立腺がん』より一部抜粋

PSAは有効な指標だが絶対ではない断

現在臨床試験中の前立腺がんの新しい分子標的薬の中には、PSAがマーカーとして役立たないものもある。エンドセリンという受容体を塞いで、がんの増殖を抑制するというものだ。ヨーロッパで行われた試験では、この薬剤はPSAを下げないにもかかわらず、延命効果があることが確認された。

一方、まれにだが、ホルモン療法を長期に受けてきた人のなかには、PSA値が全然上がらないのに再発しているケースもある。「神経内分泌がん細胞」といって、PSAを作らないがん細胞に変異するためだそうだ。

「PSAだけに目を向けていると、知らないうちにがんが進行するという危険もあるわけです。ホルモン療法を長く続けてきてPSA値が安定している人も、たまには画像検査を受けるなど、チェックすることをお勧めします」

PSAは前立腺がん治療の中で非常に有効な指標になっていることは間違いない。ただし、PSAの値だけに一喜一憂するのではなく、前治療やPSA値が上昇するスピードなどについても十分理解した上で、PSAの動きを一連の流れとして見ていく必要があると言えそうだ。


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