骨転移や疼痛が現れる前に治療を開始することで、より高い有効性が得られる ホルモン療法が効かなくなった前立腺がんに光を照らした新しい化学療法

監修:堀江重郎 帝京大学医学部付属病院泌尿器科教授
取材・文:町口充
発行:2010年7月
更新:2013年4月

タキソテールは外来で投与可能

副作用に苦しむのがイヤで、抗がん剤と聞いただけで拒絶反応を示す人もいるかもしれませんが、「この点でも画期的な薬がタキソテール。上手に使えばQOL(生活の質)を低下させずに生活できます」と堀江さん。

「がんに対する効果もさることながら、この薬のいいところは骨髄抑制()や吐き気といった副作用が比較的少ないので、高齢者でも安全に使うことができるし、短期間の入院、あるいは外来でこの治療を受けることができます」

あらわれやすい副作用としては、点滴中のアレルギー、また投与から数日間は発疹、吐き気・嘔吐、さらに数日から数週間は骨髄抑制、脱毛、筋肉・関節の痛み、好中球減少などがあらわれることがあります。

「好中球の減少などは一時的ですが、感染を起こしやすくなるので注意が必要です。それでも従来の抗がん剤に比べれば少ない頻度です。また、日本人に特有なものとして間質性肺炎()が起きることもありますが、これもまれです。もう少し頻度の高いものとしては手足のしびれがあり、その対策として漢方薬の牛車腎気丸が有効だという報告があり、当院でも効果を上げています」

副作用があらわれたり、体調がすぐれないときは、投与間隔を開けたり、薬剤の量を減らしたり、回復するまで治療を延期することもあるといいます。

ところで、タキソテールの治療をスタートしたときに注意すべきこととして、「当初、PSA値が上がることがある」と堀江さんは指摘します。

「治療を開始して2~3カ月は、治療しているにもかかわらずPSA値が上がる“フレア”という現象あります。しかしそれはあくまで一時的なことであり、そこで治療をやめずに継続していくと、やがてPSA値は低下していきます」

[ドセタキセル投与後のPSAフレア現象]
図:ドセタキセル投与後のPSAフレア現象

ドセタキセル治療開始後、PSA値が上がるフレア現象がみられるが、一時的なので2~3カ月は様子をみるべき

また、タキソテールを投与するときは、プレドニン(一般名プレドニゾロン)と併用するのが一般的です。

骨髄抑制=がん治療で抗がん剤、放射線などにより、一定期間、骨髄の造血能が障害される状態
間質性肺炎=肺炎が、肺胞や肺胞壁(間質)に起こる。非常に致命的であると同時に治療も難しい

[ドセタキセルの投与後のリスク群別生存期間]
図:ドセタキセルの投与後のリスク群別生存期間

副作用は我慢しない

副作用があらわれたら、我慢しないで主治医に相談してほしい、と堀江さんはこう語ります。

「高齢者の場合、副作用が出ても我慢する人がいますが、我慢しないで早めに主治医に相談してほしい。早めに相談すれば早めに対処ができます。痛いのを我慢するというのは、本人にとってもよくないことだし、がんの治療にとってもよいことではありません。痛みを我慢するのではなく、痛みも積極的にとることによって治療効果がむしろ高まることもあるので、気になったことは何でもおっしゃっていただいたほうがいいですね」

投与法を工夫したら、効果もよくなって副作用も軽減されたという例もあります。たとえばタキソテール+プレドニンで効果が持続せず、プレドニンをエストラサイトへ変えたら再度、PSA値が下がった、という例もあります。

現在は、タキソテールの治療が効かなくなったときの新しい抗がん剤としてカバジタキセルとか、新しいホルモン治療薬としてアビラテロンなどの研究も進んでいます。ホルモン治療が効かなくなった後の治療は、より充実してくることが期待されています。


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