先端医療の現場 超音波を集めて焼く前立腺がんのHIFU治療は、体にやさしい

取材・文:黒田達明
発行:2009年6月
更新:2013年4月

適応は中程度リスクまで年齢制限はない

副作用が少ない他にも、次のような長所がある。

(1)簡便に行える。同病院では2泊3日の入院で治療が完了する。2~4週間の入院が必要な手術や、1カ月以上通院を要する放射線治療とは格段の差だ。「退院後、すぐ職場復帰でき、ゴルフにも行けます。あまりに楽で患者さんが拍子抜けするほどです」

(2)切る・刺すといった侵襲がなく、体への負担が少ない。出血もないため、抗血小板剤などを休薬する必要もない。

(3)くり返し施行でき、他の治療法との組み合わせも可能。手術や放射線治療、小線源治療歴のある患者さんがHIFU治療を安全に受けている。ただし、合併症のリスクは高まる。

肝心の治療効果はどうか。

「当院の場合、治療後1年、2年に14カ所の針生検を行っていますが、約7割の患者さんが陰性です。その後はPSA(前立腺特異抗原)値で経過を観察していて、これまでのところ1ナノグラム/ミリリットルを切る辺りで推移しています。前立腺がんは10年間経過を見る必要がありますから、まだ結論を出すことはできません」

同病院の主な適応は次の通り。(1)PSA値20ナノグラム/ミリリットル以下、(2)病期はがんが前立腺内に留まっている状態。TNM分類でT1c(触診ではわからないが針生検で陽性)あるいはT2(前立腺内に限局)、年齢制限はない。

「中程度のリスクまでの患者さんが対象です。ただし、針生検で10本中8本が陽性だったりしたら、がんが相当に大きい可能性がありますので、手術を勧めています。前立腺自体の大きさについては、60~70グラム以内とする施設が多いようですが、当院では限定していません。ただ、100グラムを超えるほどに肥大している場合は、まず前立腺肥大症に対する治療を優先させます」

部分照射で前立腺を一部温存する

がんの大きさにかかわらず、手術では必ず全摘除となるように、HIFUでも全体照射が一般的だ。前立腺がんには、1つがんが見つかれば、ほかにいくつも小さながんが散らばっている可能性が高いという特徴があるからだ。取り残しや焼き残しを防ぐために全体を治療するのがよいと考えられている。もちろん、前立腺はなくても生存に影響しない臓器という判断もその背景にはある。

ところが、同病院では適応がある場合は部分照射を行っている。中央を貫く尿道を境界に前立腺を左右に分けて考え、針生検とMRS(磁気共鳴スペクトロスコピー)の2つの検査方法でがんが検出されなかった側については、がんの発生しやすい辺縁部のみを照射する。

「ついでに見つかる微小がんは予後に影響しないこともわ���り、5年前から部分照射を行っています。今のところ制御率に違いはありません」

あえて残すメリットは?

「通常、治療後にカテーテルを3週間、尿道に留置する必要がありますが、部分照射なら2週間弱に短縮できます。副作用もより少ないです」

長くても2時間痛みもなく治療は終わる

写真:超音波を発生させるプローブ

超音波を発生させるプローブ。前立腺がんを98度まで加熱し、壊死させる

写真:HIFUによる治療の様子

HIFUによる治療の様子。超音波を発生させるプローブを肛門から挿入する

写真:水槽の中の風船を前立腺に見立てた様子

水槽の中の風船を前立腺に見立てた様子。プローブの先の黒い部分が回転し、設定した照射範囲に超音波を当てる

さて、同病院での2泊3日の治療の流れを紹介しよう。

初日はオリエンテーションの日。患者さんの家族を交えて行う治療後の注意点についての説明がある。

また、同病院では全身麻酔下で治療を行うので麻酔の説明もある。

「腰椎麻酔でやる施設も多いようですが、針を刺すことによる出血のリスクが避けられません。また、治療中に患者さんの体が動いてしまうと照射位置がずれてしまうので、全身麻酔を行っています」

翌日はいよいよ治療。麻酔をかけて、超音波を発するプローブ(探触子)を肛門から直腸に挿入する。超音波を直腸から前立腺に向かって照射するのだ。

プローブの先端の発振部分は直径3センチだが、留置中に肛門を貫通する部分は直径18ミリと細い。

超音波画像を見ながらプローブの挿入角度や挿入の深さを調節して、前立腺全体が照射可能な領域に収まるようにする。調整後は動かないようにプローブを支持具で固定する。次は照射領域の設定。コンピュータで行う。同病院では尿道周辺の照射は回避する。また、超音波で血流の検知が可能で、これにより勃起に関わる神経の位置も推察できる。

1回の照射で焼ける体積は10ミリ×3ミリ×3ミリ。休止を挟みながら順番に設定領域を照射し、全照射が終了するまでの所要時間は長くても2時間程度。照射後、麻酔が覚める前に尿道にカテーテルを挿入する。

「その日の夕食から食事ができます。治療部位の痛みはありませんが、尿意と便意が1日は続くようです」

翌日の退院時までに、カテーテルの先にストッパーを付けて、下着の中にしまえるようにする。退院後はすぐに普通に生活できるが、便秘をしないように注意する。一時的に尿道と直腸の間が薄くなっているため、硬い便が通ると尿道直腸瘻になる危険性があるからだ。

「当院でHIFU治療を受ける患者さんの多くは他施設からの紹介でいらっしゃった方です。遠方からの方も結構いますね。最初に地元の病院で手術を勧められて、ネットで他の手段を探してHIFUに辿り着いた、というパターンがほとんどです」

現在、保険適用外のため、治療費は全額負担で、一般的に100万円ほどかかる。

[HIFUを導入している施設]

所在地 施設名 所在地 施設名
北海道 北腎会 坂泌尿器科病院 埼玉県 愛友会 上尾中央総合病院
宮城県 寶樹会 仙塩総合病院   防衛医科大学校病院
福島県 ときわ会 いわき泌尿器科 山梨県 富士厚生クリニック
  公立藤田総合病院 静岡県 新風会 丸山病院
富山県 長谷川病院 三重県 暲純会 武内病院
茨城県 東京医科大学霞ヶ浦病院 大阪府 医誠会 医誠会病院
千葉県 国保 旭中央病院   恒昭会 藍野病院
  千葉県がんセンター   枚方市民病院
  成田赤十字病院 岡山県 岡山市立市民病院
  柏フォレスト腎・泌尿器クリニック 広島県 仁鷹会 たかの橋中央病院
東京都 明理会 大和病院   広島厚生病院
  東海大学医学部付属八王子病院 福岡県 原三信病院
  帝京大学医学部付属病院   薬院ひ尿器科病院
  日本赤十字社医療センター   邦生会 高山病院
  杏林大学医学部付属病院   済生会八幡総合病院
  北里研究所病院 大分県 府内神崎泌尿器科クリニック
  武蔵野陽和会病院   寿町泌尿器科
  日本医科大学多摩永山病院 鹿児島県 紘淳会 とまり泌尿器科
  前田病院  
  浩央会 国立さくら病院  
  中目黒消化器クリニック  
  東京逓信病院    


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