前立腺がんになってもあわてない――治療法、その選択肢と選択方法とは これだけは知っておきたい! 前立腺がんの基礎知識

監修:赤倉功一郎 東京厚生年金病院泌尿器科部長
取材・文:半沢裕子
発行:2009年2月
更新:2013年4月

放射線治療1つとっても、選択肢がたくさんある

ところで、がんという病気を完治させるには、がんの塊を消滅させることが不可欠です。今のところ、がんを消滅させられる治療法として確立されているのは、手術と放射線治療の2つ。放射線治療は「被曝する」など、危険なイメージがありますが、近年、正常細胞にはダメージを与えず、がん細胞だけを狙い撃ちする技術が発達し、可能性は大きく広がっています。

その放射線治療が最も得意とするがんが、前立腺がんです。前立腺がんに対しては、密封小線源放射線治療以外にも、さまざまな放射線治療が行われ、中には手術をしのぐ成績を上げているものもあります。

いちばん幅広い病期に対して行われているのは外照射、つまり、体の外側からがんに放射線をかける治療法です。小線源を埋め込むのと併用して、外照射を行うこともあります。

外照射の方法は多種多様ですが、最も一般的なのは直線加速器(通称、ライナックまたはリニアック)と呼ばれる装置で行われる3次元原体照射です。これは、あらゆる方角からがんの形を正確に把握し、それぞれの角度から見える形のとおりに放射線をかける方法です。

理屈では、放射線をがん細胞だけにかけられれば、どんなに大量にかけても体に影響は出ません。その「がん細胞だけに放射線をかける」を、コンピュータの助けを借りてぎりぎりまで実現した技術が、3次元原体照射なのです。

この3次元原体照射をさらに発展させ、それぞれの角度からかける放射線の形だけでなく、強度まで変えられるようにしたのが「強度変調放射線治療(IMRT)」です。

IMRTの治療効果は高く、2008年には保険診療が受けられるようになりましたが、計算に半日かかるなど、欠点は手間がかかることです。そこで、これをもう少し手軽にしたのが、トモセラピーという治療機械による、強度変調放射線治療です。

放射線治療はどれも体に傷をつけないの��、体への負担が最も少ない治療法といえます。デメリットは治療期間が長いこと。月~金の毎日、7週間も治療に通わなければなりません。

このため、外照射をあきらめ、密封小線源治療を選ぶ方が増えているのです。

がん病巣部で最大出力後、消えてしまう粒子線

放射線治療でもう1つ、大変効果が期待できるのは、陽子や重粒子などの「粒子」を加速して、がん病巣部にぶつける陽子線治療や重粒子線治療です。これらの粒子線はX線とは比べ物にならない巨大なエネルギーを持つだけでなく、うまく計算すると、体内のがん病巣部に到達するまでエネルギーを出さず、がん病巣部で最大のエネルギーを放出、その後、消えてしまうので、がん病巣部以外の組織はほとんど傷つけない、という大きなメリットがあります。

デメリットは、治療費が300万円前後と非常に高いことです。が、最近は「先進医療」をカバーする民間の医療保険も増えていますし、そもそも「先進医療」に指定されている医療は、基本的に将来保険診療化することを視野に入れたものに絞られていますから、遠くない将来に保険が認められる可能性もあります。

ただし、放射線治療が行われるのは、転移のない初期がんだけです。この治療を効果的に受けるためにも、待機療法の患者さんは治療開始のタイミングを逃さないよう、定期的な検査を欠かさずに受けましょう。

そのほか、完治をめざす治療として、「高エネルギー焦点式超音波治療(HIFU)」を行っている病院もあります。名前のとおり、高エネルギーの超音波を当てる一種の温熱療法ですが、保険では治療が受けられず、治療効果についてもまだ確定していません。数は少ないですが、患者さんの中には、この治療を希望される方もいます。

補助療法としてホルモン療法も

前立腺という臓器は、ホルモン依存型臓器です。昔の中国の宦官のように、去勢して男性ホルモンが出なくなると、臓器そのものも萎縮してしまいます。

ですので、前立腺がんもまた、ホルモン依存型のがんです。つまり、男性ホルモンの分泌がなくなったり、抑えられたりすると、がんも増殖できなく(しにくく)なります。前立腺がんでホルモン療法が行われるのは、このためです。

ホルモン療法がメインの治療法として選択されるのは、前述のように、すでに転移のあるステージDの患者さんです。けれども、補助療法として行われることはあります。最近明らかになったのは、放射線治療とホルモン療法を組み合わせると、ハイリスクな前立腺がんの治療成績が上がるということです。

日本特有の治療としては、高齢な方の早期前立腺がんに、ホルモン療法を選択するケース。がんで無治療よりは、できることをやっておきたい、ということでしょう。効果はあるのですが、この場合には副作用を秤にかける必要があります。たとえば、ホルモン療法が原因で骨粗鬆症になって大腿骨を骨折したら、かえって余命を短くしたり、QOL(生活の質)を損なう可能性もあるからです。

ホルモン療法を行ったりやめたりする「間欠的ホルモン療法」は、こうしたデメリットを解消するため、考案されました。ホルモン療法は何年かすると効かなくなりますが、そうなる時点をできるだけ遅くし、ホルモン療法を長く行うためです。間欠療法のよい点は、副作用を軽減できることと、治療費を安く抑えられることです。9カ月くらい続けてやめ、PSA値が上がってきたらまた始める、というような使い方です。

ホルモン療法に使われるホルモン剤は、大きく分けて2種類あります。

(1)LH-RHアゴニスト

脳の下垂体に働き、テストステロン(代表的な男性ホルモン)の合成・分泌を抑える薬です。手術で睾丸を両方とってしまうのが最も確実な方法ですが、それに準じる方法です。1カ月、または3カ月に1度、注射を受けます。

(2)抗アンドロゲン剤

テストステロンを含むすべての男性ホルモンの分泌を、細胞のレセプター・レベルでブロックする内服薬です。

最もホルモンのブロック効果が高いのは、この2つを併用するホルモン療法(MABまたはCAB)で、その次がLH-RHアゴニストの単独療法、最も効果が少なく、単独ではまず行われないのが抗アンドロゲン剤です。

2剤併用とLH-RHアゴニストについては、副作用として男性機能障害(勃起障害、性欲減退)のほか、ほてり、発汗、抑うつ、疲労感といった女性の更年期障害のような症状、さらに骨粗鬆症があげられます。筋肉が落ちて太りやすくなるため、メタボリック症候群になりやすいのも、デメリットといえます。


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