新たな抗がん剤の登場で治療法が大きく前進 ここまで変わった! 再燃前立腺がんの最新治療

監修:鈴木啓悦 千葉大学医学部付属病院泌尿器科診療教授
取材・文:黒木 要
発行:2009年2月
更新:2013年4月

再燃が起きたときに行う治療法

抗アンドロゲン除去症候群

MAB療法を行っている最中に、腫瘍マーカーであるPSAの値が上昇してくる場合がある。そのとき抗アンドロゲン剤の投与を中止すると、PSA値が下がり、数カ月間その状態を保つという不思議な現象が、20~30パーセントの人に現れる。

「この現象を抗アンドロゲン除去症候群(AWS)といいます。そのメカニズムはよくわかっていないのですが、MAB療法で使う抗アンドロゲン剤は効力を発揮する一定期間を過ぎると、耐性(人体への薬の効き目が弱まること。薬を繰り返し使ううちに、体がその薬の存在に慣れてしまうときなどに起こる)のような事象が発生するのではと考えられています。そこでMAB療法で併用していた抗アンドロゲン剤の投与を一旦中止することが推奨されます」

抗アンドロゲン交替療法

抗アンドロゲン除去症候群がなかった人や、その効力がなくなってきた場合、PSA値が上昇傾向をみとめる。

「PSA値は1~数カ月ごとに計測するのですが、一般に3回連続で上昇を確認したら、再燃とみなします」

再燃が確認されたら、抗アンドロゲン剤の種類を替える治療から試すことが多い。ステロイド系と非ステロイド系の2系統があるが、効果の高さと副作用の少なさからしても後者が用いられることが多くなっている。後者にもオダイン(一般名フルタミド)とカソデックス(一般名ビカルタミド)の2つがあって、それらを替えながら使っていくことで、この療法の効力期間を延長させることができる。

「約60パーセントの人に効き、副作用も少ないという特徴があります」

女性ホルモン(エストロゲン)療法

前立腺がんに対して男性ホルモンの作用を中和する働きを持つ女性ホルモンを投与する。

「一定の頻度で有効とされていますが、治療が長びくと人によっては胸が膨らんだり、肝障害、血栓症など重い副作用が現れることがあります」

ステロイド療法

ステロイドは、がんの痛みなどを取る目的で使われることも多い薬剤だ。

「痛みやしびれ、食欲不振、排尿症状などを改善する率も高いのですが、���立腺がんに対しては、その増殖を抑制する効果もあるのではないかと考えられています。ただ使用するにあたっては、胃潰瘍や皮下出血、免疫低下による感染に注意をしていく必要があります」

抗がん剤による最新の治療法

タキソテールによる療法

これまで前立腺がんに対して有効な抗がん剤はないとされてきた。だが乳がんなどで用いられるタキソテール(一般名ドセタキセル)の有効性が確認され、2004年に論文で発表されている。

「それ以降、アメリカを筆頭にヨーロッパ各国で、ホルモン療法が効かなくなった転移性前立腺がんに対する第1選択の薬剤として次々に承認され、2008年の8月に日本でも適応追加されました。以前はホルモン療法が有効でなくなったら打つ手がなかったのですが、この抗がん剤の登場によって、さらに延命を図れるようになりました。期待の治療法です」

タキソテールの有効性と適正な使用量を確かめる海外の大規模臨床試験は「TAX327試験」と呼ばれる試験である。対象となったのはがんが再燃した患者1006人で、次の3つのグループに分けられた。

(1) 3週間おきにタキソテールを75ミリグラム/平方メートル投与(335人)

(2) 1週間おきに30ミリグラム/平方メートル投与(334人)

(3) タキソテールをまったく投与せず、ノバントロン(一般名ミトキサントロン)という薬剤を12ミリグラム、3週おきに投与する(337人) 治療期間は30週間である。

結論からいうと、タキソテールの3週おき投与グループは、投与しないグループより、2~3カ月間長く延命できたのである。

[ドセタキセルの効果(全生存率)]
図:ドセタキセルの効果(全生存率)

D3P:3週間おきにドセタキセル投与 D1P:1週間おきにドセタキセル投与 MP:ドセタキセルを投与せず、ミトキサントロンを投与

タキソテール投与で2年以上延命している人も

さらに最近では、タキソテールの治療が効く人、効かない人についてもわかってきたという。

「タキソテールの治療を数コース終わって、PSA値が30パーセント以上下がった人は明らかに予後(治療後の経過)がよいことがわかってきました。ですから4~5コースが終了した時点で、PSA値の減少幅を基準にして、30パーセント以上下がった人にはそのまま治療を継続する、下がらなかった人は別の治療を検討するのです。千葉大学のデータでは、PSA値が30パーセント以上下がった人では、全員がすでに2年以上延命しています。まだこの治療法は日本では保険診療が開始したばかりですので、それよりもっと延命効果があるかどうかは確認できていないのですが、感触としてはもっと期間を延ばせるのではないかと思っています」

ただ、タキソテールには副作用がある。点滴中はアレルギーが、また投与から数日間は発疹、吐き気や嘔吐。さらに数日から数週間は、感染症や脱毛、筋肉痛、好中球減少などが確認されている。また間質性肺炎といった重篤な合併症にも注意が必要だという。

なお、タキソテールの治療には他の薬剤として、エストラサイト(一般名エストラムスチン)を併用して治療を行っている病院もある。ただ、その併用の治療法については、日本ではまだ確立されてはいない。また、タキソテールとエストラサイトとの併用療法では、心血管症状が15パーセント、消化管症状が20パーセント確認されていて、タキソテール単独療法よりも副作用が多いこともわかっている。

「私たちは原則として単独療法を採用してきました。併用療法に比べて副作用が軽減できること、また最後の手段としてエストラサイトとの併用療法を温存しておくことができるからです」

タキソテールは前立腺がんに対する適応を取得後、まだ数カ月しか経っていない。ただ、多くの前立腺再燃患者に、福音をもたらしていることは確かなようだ。

[再燃前立腺がんへの対応(千葉大学での基本方針)]
図:再燃前立腺がんへの対応(千葉大学での基本方針)

MAB:LH-RHアゴニスト剤と抗アンドロゲン剤との併用療法


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