「前立腺がん市民フォーラム」 パネルディスカッション「進行がんでも、希望に生きる」再録 進行・再発しても、10年、20年の長期生存を目指して生きよう
転移の治療
骨転移を抑える治療薬

聴衆の質問に耳を傾けるパネリストの堀江さん、三谷さん
赤座 この保険診療に関してもうひとつ患者さんからの質問があります。保険診療を利用するのであれば、どの病院でも同じ治療を受けられるのか、という質問です。これはとても重要な意味を内包しているように思います。堀江先生、この点に関してはどうお考えですか。
堀江 前立腺がんに限らず、治療の標準化はとても大切なことですね。前立腺がんについていうと、日本泌尿器科学会ではそのために「前立腺癌診療ガイドライン」を作成しています。もちろん治療に対する個々の医師の意識には微妙な違いがあるでしょうが、治療方法自体には差異が出ないように、どの泌尿器科医も務めていると思います。
塚本 じっさいの治療では、患者さんはまずガイドラインに記載されている標準治療にのっとって治療内容を説明します。
もっとも個々の患者さんによって、置かれている状況や治療に対する考え方も違っています。そのため時には標準治療にプラスアルファの治療が必要になってくることもある。しかしその場合でも基本にあるのは、あくまでも標準治療です。
赤座 最後に転移がんの治療についてもお聞きしたいと思います。前立腺がんでは骨に転移が起こることが多いのですが、この場合の治療について説明してください。
塚本 がんが見つかった段階ですでに骨転移があり、それまでに何も治療を行っていない場合には、何はさておきホルモン療法を行います。この治療の骨の痛みに対する即効性の高さは、私自身、これまで多くの患者さんへの治療を通して実感しています。
もっともしばらくホルモン療法を続けていると、ホルモン療法が効かなくなり、また痛みがぶり返してくることもある。このときには病気の状態や痛みの状態を慎重に考慮したうえで治療方法を決定しなければなりません。たとえばそのひとつの方法として、放射線治療が考えられます。
しかし、痛みが1カ所だけから起こっているのなら放射線照射も有効でしょうが、何カ所からも痛みが起こっているのであれば、放射線は使えない。だからその場合には、まず病気の状況をよく調べ、痛みのある部位を特定しなければなりません。
加えて治療を行う順序についても考慮が必要でしょう。痛みが軽度の場合には、一般的な消炎鎮痛剤を処方すればいい。しかし、痛みが激しい場合にはストロンチウムを用いることもある。ただ、この薬を使う場合には、痛む部分を特定しなければ、保険適用が認められないという問題もあります。このように骨転移に対処するには、個々の患者さんの病気や痛みの状態を的確に把握しておく必要があるのです。

10年、20年長生きすることが大切

赤座 先ほどお話になっていたビスフォスフォネートは骨転移に有効だといわれていますね。この薬はどう使われているのでしょうか。
堀江 前に話されていたようにビスフォスフォネートは、もともとは更年期の女性に多い骨粗鬆症を対象にした飲み薬として用いられているものです。
もっともこの薬の第3世代にあたるゾメタという注射薬は骨転移にも有効に作用することがわかっています。この薬を用いることで骨に転移が起こる状況が回避できる可能性があります。
すでに転移がある方の場合も、転移の進行が抑えられるし痛みも軽減します。最終的には、そうした効果が患者さんの生命を延ばすという点でもいい影響をもたらすのではないかと思っています。この薬はすでに保険適用も認められているので、骨転移のある患者さんにはぜひ、利用していただきたいですね。
赤座 この薬は転移の範囲が狭い場合には、高い効果があると世界的にもエビデンスが確立していますね。ただ注意したいのは、頻度はごく少ないのですが、とくにあごの骨が溶けやすくなることがあると報告されていることですね。そうなるとなかなか治りにくいともいわれています。
そうした副作用の不安を考えると、歯科治療を受けている人や治療を受けていなくても虫歯のある人は注意が必要でしょうね。歯やあごに問題がある人は、その部分の治療を終えてから、薬を使うようにすることが大切ですね。
さて、この骨転移に関して、会場からも質問が寄せられています。前立腺がんの患者さんで、転移があるとがんは治らないといわれたが本当にそうなのかという70代の人からの質問ですが、塚本先生、お答えいただけますか。
塚本 残念ながらそのとおりです。現在の医療では前立腺がんに限らず、転移したがんは原則として治すことはできません。ただここで考えていただきたいのは、治すことはできなくても、がんとつきあいながら生きていくことはできるということです。治療がうまくいけばこれから10年、あるいは20年生きていくこともできるでしょう。
そうなればがんが治ったかどうかは問題ではなくなるでしょう。そのことも考えて前向きに治療に取り組んでいただきたいですね。
赤座 おっしゃるとおりですね。患者さんには少しでも長く、快適な人生を送るためにより効果的な治療を選択していただきたいと思います。堀江先生、塚本先生、三谷さん、本日はどうもありがとうございました。
(構成/常蔭純一)
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